【柔軟な発想から生まれる新機軸】イタリアから始まった二輪イノベーション
輪車に動力源を搭載したモーターサイクルが誕生して百余年。イギリス、ドイツ、日本、そしてイタリアのメーカーたちの革新的な技術によって、魅力あふれるこの乗り物は大きく進化した。中でもイタリアはイノベーティブな技術で、新しいモーターサイクルのあり方を模索し続けてきたパイオニアである。
TEXT/T.YAMASHITA
柔軟な発想から生まれる新機軸
イタリアの歴史を遡れば、古代ローマ時代に水道や採掘をはじめ、建築土木、軍事、動力といった分野で数々の機械を発明し、文明を発展させてきた。それらは今日の人類文明の礎と言っても過言でない。
その子孫たちもやはり近代バイク史を塗り替える革新的な技術や発想を生み出し、かたちにしてきた。そしてそれらは他国メーカーのバイク開発にも大きな影響を与え、トレンドとなり、やがてスタンダードへと姿を変えたものも少なくない。
失敗に臆することなくアイディアをかたちにしていく熱きイタリアン旋風は、太古の昔も、今も、そしてこれからも変わることはないだろう。
だからこそ人々はイタリアンプロダクトに魅力を感じるのだ。
【デスモドロミック】精密なバルブ開閉を実現
デスモドロミック機構は19世紀末に確立した技術だが、二輪エンジンで初めて成功させたのがドゥカティだ。一般的なエンジンでは吸排気バルブ開閉にスプリングを使うが、とくに高回転域ではスプリング全体が振動することで正常動作しなくなることがある。
デスモドロミックはその問題を解決した技術だ
【ハブセンターステアリング】操舵とサスペンションを分離
技術そのものはモータリゼーション黎明期から存在したが、こだわり続けているのがビモータだ。’83 年にミラノショーで発表した後にレーサーで採用し、7年後にテージ1Dで市販化した。現在ではビモータのほかヴァイルスとイタルジェットなどが、ハブセンターステアリングを採用した車両を生産している
【トレリスフレーム】極限まで車体をスリム化
トレリスとは格子の意味で、鋼管を溶接して構成するダイヤモンドフレームだ。イタリア勢ではドゥカティが’85 年から採用し、30年以上主力フレームとして使ってきた。マッシモ・タンブリーニ技師はドゥカティ・916、MVアグスタ・F4でもトレリスフレームを採用。イタリア車の象徴のひとつとなっている
【モノコックフレーム】高剛性と軽量化を両立
構造自体はカワサキ・ZX-12Rが先に市販化しているが、ドゥカティはさらに小型化したフレームをMotoGPに投入。同構造のアルミモノコックを1199パニガーレに採用し、大幅な軽量化を実現。1199/1299スーパーレッジェーラでは、マグネシウム/カーボンを採用。パニガーレV4もモノコック構造だ
【風洞実験室】空力をいち早く研究
モトグッツィはレーサーのフェアリングを開発すべく、’50 年にバイクメーカーとして初めて自社工場内に風洞実験設備を完成させた。300psを発生する電気モーターは225km/hの走行風を生み出すことができた。
レース活動撤退後は市販車開発に使用したが、騒音と電力消費が激しいことから使われなくなった
【V型8気筒エンジン】多気筒化は日本だけじゃない!
MVアグスタの4気筒エンジンを打ち負かすため、ジュリオ・カルカーノ技師が主導して’55 年に完成させたオットーチリンドリ。498.7cc水冷4ストローク90度V型8気筒DOHCの最高出力は72ps/12000rpmで、世界GPでいくつかの記録を打ち立てた。残念ながら市販車に搭載されることはなかった
【吸排気可変バルブタイミング】全域でパフォーマンスを最適化
スズキ・バンディット400が先行したが、これは低速と高速の2段階のみ。より緻密なバルブタイミング制御を実現したのがドゥカティだ。吸排気両方のタイミングを個別に調整するだけでなく、両方のバルブが開いている瞬間(オーバーラップ角度)を連続的に制御し、全域でトルク、パワー、燃費を向上した
【ラジアルマウントキャリパー&マスターシリンダー】剛性と操作性を高める
アクスルシャフトに対してラジアル(放射状)にキャリパーをマウントすると、ブレーキ時の剛性が高まり、操作性も向上する。これは’99 年にブレンボがGP500で初採用した構造。
一方、コントロール性向上をもたらすラジアルマスターシリンダーは、’85 年にブレンボが特許を取得した技術である
【連動型ライディングモード】1台で4種類のバイクを実現
モード選択でエンジン特性だけでなく、ABSやトラクションコントロール、電子制御サスペンションなどを調整する機能は、ドゥカティが先駆けて採用した技術。道を選ばず、どこでも走破できる特性を得たムルティストラーダ1200には「4 in 1」のキャッチコピーが与えられ、4台分の特性を獲得した
【TFT液晶メーター】メーターの多機能化を推進
こちらも今やすっかりと当たり前の装備となった、カラーTFT液晶パネルを使った計器は、’11 年のドゥカティ・ディアベルが最初だ。
速度計や回転計はセグメント式モノクロLCDで表示したが、TFT液晶パネルにはギアポジション、ライディングモード、トラクションコントロールレベルなどを表示する
【LEDヘッドライト】フロントマスクのデザインに革新
’12 年にドゥカティ・1199パニガーレSトリコローレが初採用した。当時は特別仕様車だからこそ装備できた背景もあるが、現在ではすっかり標準化し、原付二輪でも使われている。
LEDのメリットは明るさや省電力などの実用面だけでなく、小型であるためフロントフェイスを自由にデザインできることだ
【バイク連動型エアバッグ】さらなる安全性を求めて
車両にエアバッグを備えるホンダ・ゴールドウイングに対して、ドゥカティはダイネーゼと車体連動型エアバッグを開発。車体にあるセンサーが車両の衝突や転倒を検知すると、わずか0.002秒でジャケットのエアバッグを展開するという技術。
車両とジャケットを無線通信で接続するアイディアがユニークだ
【スカイフック理論サスペンション】ツーリングでの快適性を追求
セミアクティブサスペンションが初採用されたのは’12 年のBMW・HP4だが、翌年ドゥカティは加速度センサーをバネ上とバネ下に設置し、スカイフック理論(車体を空中から吊り下げ、バネ下のみが動く状態を擬似的に作り出す)による電子制御サスペンションを開発。
あらゆる路面で快適な走りを実現した
【ACC】レーダーで前走車との車間を調整
ACCとはアダプティブ・クルーズ・コントロールの略称で、前走車との車間距離を一定に保ちながら速度を維持する機能だ。
世界初採用したドゥカティは、ミリ波レーダーを車両の前後に備えることで、ミラーの死角となる側方後部の車両の存在を知らせるブラインド・スポット検知システムも搭載する
【ウイングレット】ダウンフォースを積極的に活用
ダウンフォースを発生させてフロントタイヤの接地力を高めるのがウイングレット。MotoGPではこれを含めたエアロパーツ開発が勝利の鍵だ。最初はドゥカティで、2010年にデスモセディチGP10に小さなウイングレットを装着。その後は一度姿を消したが、2015年に片側2枚のウイングレットを装着した
【MotoGPマシンを市販!】憧れのモンスターマシンが買える!?
’50 ~’70 年代のヨーロッパでは各メーカーがレーサーを販売していたが、それを現代に蘇らせたのがドゥカティだ。’08年、同社は’06年の年間王者を獲得したD16GP06をベースとしたMotoGPレプリカ・デスモセディチRRを1500台限定で販売。車両価格は5万ユーロ(日本仕様は866万2500円)だった
【限定2000台をオンライン販売】限定モデルを画期的な方法で販売
ドゥカティがマン島TTで勝利したNCR900TT1をピエール・テルブランチ技師が復刻させたMH900eは、’00年1月1日、世界限定2000台で販売された。
その方法は、まだ世界的に普及しはじめたばかりのインターネットでのみ受け付けるという、大胆かつ画期的な方法だった。もちろん世界初の試みだ
【ライドハイトコントロール】走行中に車体姿勢を調整
’18 年にドゥカティが初めて導入。当初はスタート時にリアサスペンションを沈めてウイリーを抑え、後輪のグリップを高めて加速性能を上げるホールショットデバイスだった。
’19 年からは走行中も立ち上がり加速向上のために作動。’22年にはフロントの制御も行うようになったが、’27年には禁止となる