【元ヤマハエンジニアから学ぶ】二輪運動力学からライディングを考察!|ハンドリングのための、フロントサスセッティング・減衰編
二輪工学の専門家、プロフェッサー辻井によるライディング考察バイクのメカニズムや運動力学についてアカデミックに解説し、科学的検証に基づいた、ライテクに役立つ「真実」をお届けします!
TEXT&ILLUSTRATIONS/Prof. Isaac TSUJII
tips_1:減衰とは?
減衰機構は、オイルダンパー式のショックアブソーバーが一般的です。電子制御式はスーパースポーツをはじめとして高価な車両に搭載されることがほとんどなので、コンベンショナル(一般的)なものを前提に解説させてください。ただし、調整機構や調整する場所はモデルによってさまざまなので、それも理解する必要があります。そういう意味でも難解ですが、そこはオーナーズマニュアルを確認してください。
さて、まずは減衰とは何かを説明します。減衰が無い状態を自由振動と言い、図1のようなイメージです。一方減衰がある場合は 図2のように振動の振幅が、時間の経過とともに次第に小さくなります。サスペンションに限定すると、減衰による作動の仕方によって、タイヤの動き方を変え、タイヤの路面追従性を高める事と言うと、なんとなくしっくりくるかもしれません。
もちろん、バネとの組み合わせでも変わってくるので そのセッティングの種類は無限大にあります。
tips_2:基本減衰特性
一般的なショックアブソーバーには圧側と伸び側の2方向の動きに対して減衰機構があり、各々に減衰特性があります(図3)。
圧側に比べて伸び側は、ストローク速度(ショックアブソーバーが伸び縮みする速度)が遅くても、大きな減衰力が発生します。そして減衰力調整用のネジの締め方(ニードルなどの位置)で、緑や青、赤色の線の減衰特性を選択することができます。
しかし、コンベンショナルなものでは緑の特性から青や赤、その中間の特性などに、走行中に変更することはできません。また、ストローク速度が遅い時には赤、速くなると緑といった、複雑な減衰力特性を選択することもできません。それができるのが電子制御式というわけです。
tips_3:要求減衰特性
ストローク速度は路面の凸凹やその大きさの他、車速にも比例します。 同じ路面でも通過速度が変われば、ストローク速度も変わり、要求減衰力(必要な減衰力)も変わります。そんな特性に合わせ、ストローク速度が速くなるほど減衰力が強くなるようショックアブソーバーは設定されている(図3)のですが、ライダーの体重や荷物の重さで最適値は変わります。
そのため、すべてにマッチさせることは至難の業と言うか、ほぼ不可能です。それを可能にしたのが電子制御式のアクティブサスペンションですが、残念ながら四輪と異なり二輪ではまだ開発されていないのが現実です。そういう意味でベターは探せても、完璧なセッティングは不可能とも言えます。
tips_4:ブレーキング時
一般路や低速走行でちょうど良い減衰特性が出せても、サーキットなどの高速走行では減衰力が不足する、なんてことはしばしばあります。したがって、ご自身の乗り方やよく走行する場所に合わせることが肝要になります。サーキットのように毎回同じ場所を同じようなペースで走行する場合は、より減衰調整はしやすくなると言えます。
減速時は言うまでもなく、フロントの圧側の減衰が効きます。激しくブレーキングすると当然フロントフォークが速く縮むので、速い速度域の減衰力を調整することになります。スコッと沈み込みが速過ぎると感じるのであれば少し強めにします。逆に沈み込みが遅いと、ブレーキの効きが弱くなったように感じることもあるので、その時は減衰を少し弱めるというのを繰り返してみましょう(図4)。
プリロード調整でも同じようなことができますが、減衰力とプリロードは同時に変更せずに、まずは減衰力調整だけを行いましょう。これが決まるとバイクが倒しこみやすくなり、ハンドリングも良くなるのです。
ただし、直線でパッとレバーから指を離してブレーキを終了するタイプの人は、伸び側の減衰力も調整する必要がある場合があります。自分がどのような操作をしているかで、圧側だけ調整するのか、伸び側も調整するのか判断する必要があります。
tips_5:操舵時
バイクを倒し始める時は、ブレーキをかけて前輪が沈んだままの場合と、ブレーキをかけずにフロントフォークが縮んでいない場合があり、どちらに合わせるか、というのも実は悩ましいものです。しかしポイントは、いずれの場合も伸び側を主に調整することになります。
どちらの場合でも共通するのはストローク速度の遅い領域の減衰力なのですが、この時の減衰力調整は繊細で激ムズです。と言うのもプッシングステア(非セルフステア)した時に、その手応えが急になくなるような(抜ける感じ)時は、減衰が強いからなのか弱いからなのか、判断が本当に難しいのです。原因はタイヤが微妙に地面に追従できていないからなのですが、圧側か伸び側かの判断も困難です……。フロントがフワフワするような感触があるなら、伸び側を強めましょう。
一方、圧側は減衰力が足らずプリロードも強い場合もありますし、その逆の場合もあるので、結局バネのプリロードも変える必要に迫られるので、迷走してしまうこともしばしばです……。
ブレーキを引きずりながらバイクを倒しこむときも同じような傾向にありますが、その時、フロントフォークは縮んでいるので、プリロードが原因となっている可能性は少ないのです。 またどちらの場合も、ハンドリング特性がよくなる減衰力を見つけ出せても、ブレーキング時の減衰力が合わなくなってくる場合があります。どちらを優先するかライダーの好みにもよって変わってきます。
tips_6:減衰調整の手順
減衰力調整は「あちらを立てればこちらが立たず」になりやすいので、私は初めて乗る車両の場合はメーカー出荷時の減衰設定にしてスタートします。
一方、新車購入時は、まずは一番弱い減衰からスタートします。と言うのも、新車はエンジンの慣らしだけではなく、サスペンションの慣らしも必要で、ショックアブソーバー以外のフリクションによる減衰も存在するからです。それらが取れるのは、慣らしを終えた頃になる場合があります。これもメーカーや車種によって異なるので、慣らしを終えてから減衰調整をやり直す場合もあります。
慣らし走行中はゆっくり加減速することが多く、減衰を少しずつ強くしていく事で、強くなり過ぎるポイントが見つけやすいかと思います。もちろん逆に最強から弱めていくやり方もあろうかと思います。
本原稿を書きながら、減衰の解説は本当に難しいなと改めて実感しておりますが、好みや走行する場所(サーキットなど)に合わせて何度も調整することも、バイクの楽しみ方のひとつかもしれません。