元MotoGPマシンエンジニア”ANDY”の整備講座/見落とすと大きなトラブルに! タイヤの空気圧チェック
元HRCのエンジニアで、鈴鹿8耐に出場したライダーでもあるANDYが、これまでの整備やレースの経験で得てきた「本当に役立つ」メンテナンスに関わるアレコレをご紹介していきます!
PHOTO/K.MASUDA TEXT/ANDY
バイクの構成部品の中で最も大きいのがタイヤで、その大きさは昔からほとんど変わっていません。安全な走行のために非常に重要な部品なので、点検ではタイヤからより多くの情報を読み取る事が大切です。
まず、空気圧を「いつ」合わせればいいのかというと、基本的には走り出す直前のタイヤが冷えた状態で調整して下さい。走行してタイヤが温まると空気圧が上昇します。その状態で調整すると本来の狙いより低い値になってしまいます。空気圧は気温と気圧による影響を受けやすいので、同じコンディションをキープするためにも、出発直前の確認&調整がベストです、ビッグバイクの場合はツーリングごと。通勤用バイクなら2週間ごとを目安に調整したいところです。
メーカー指定の空気圧はスイングアームの左側に表記されている場合が多いです。ラベルが貼ってあるので確認して下さい。サイズや銘柄も記載されている場合もあります。
さて、空気圧を低くするとグリップ力が上がるというイメージがありますが、結論としては純正指定から下げてもタイヤの根本的なグリップ力が増す事はありません。ただし、接地面積が増えた状態で接地面に均一な荷重が掛かれば、グリップ力は増します。しかし、ラジアルタイヤはトレッド剛性が高いため、実際には接地面より先にサイドウォールが変形し、思ったほど接地部の面積は増えません。また、接地面がより潰れたとしても、中央部分が凹む方向へ力が加わり荷重は乗らなくなっていきます。グリップ力を求める走りをするなら、旋回性や軽快性も必要です。空気圧が低すぎるとこれらの性能が悪化し、全体で見るとデメリットのほうが大きくなります。
空気圧の調整許容範囲は、純正指定空気圧を基準にして±10%を目安にすると良いでしょう。前輪2・5/後輪2・9キロなら前輪は2・3〜2・7キロ、後輪は2・6〜3・2キロが許容範囲です。
もし、15%超える調整をしたい場合は、信頼できるバイクショップやタイヤにプロの相談し、メリット&デメリット、バーストなどのリスクもきちんと理解した上で適正値を見つけるようにして下さい。
タイヤのライフは空気圧によって大きく変わります。純正指定空気圧で走行した場合の平均的な目安は、ツーリングタイヤなら17000㎞以上、スポーツタイヤは12000㎞以上、ハイグリップタイヤだと7000㎞以上は持つと言われています。しかし空気圧を著しく下げ、アクセルをガンガン開けたり、荷物をバンバン積んだりするとこの半分にも届きません。逆に通勤快速仕様なら空気圧をやや高めにするとライフを伸ばすことも可能です。
空気圧確認と同時にタイヤの溝の中にあるスリップサイン(ウェアインジケータ)も確認しましょう。バイクのタイヤは法規で「0・8㎜以上の溝」が必要です(四輪は1・6㎜)。スリップサインの高さも0・8㎜ですから、トレッド面と同じ高さになったら要交換です。
近年のタイヤは技術が進歩して温度依存が少なくなったものの、やはり気温が低い真冬の走り出し時はタイヤ自体が硬く、スリップしやすくなります。タイヤが正常なグリップを保てる温度の目安は、人間の体温とほぼ同じの約36℃以上です。グローブをはめる前に素手でタイヤを触って温度を確認。自分よりタイヤの方が温かければ安心できます。タイヤが冷めたいと感じたらウォームアップが必要。スロットルやブレーキの急な操作は厳禁です。
溝が少ない方がグリップは高い傾向だが……
一般的には溝が少ないほどハイグリップタイヤと言えます。しかし高いグリップ力を得る代わりにウェット、低温時のグリップ力が犠牲になっています。一方、溝が多いほどウェット性能は高く、温度依存も低くなるため、1年を通じてツーリング中のどんな状況でも高い安心感を得られる優れたタイヤと言えます。タイヤ選択は手段ですから、「コスパ重視」「タイム短縮」「ワインディングを楽しく」など目的を明確にすると、最適なタイヤを見つけやすいです。
空気圧は適切に管理するべし!
空気圧を下げてもグリップ力は上がらない
空気圧を下げるとタイヤが潰れやすくなり接地感は上がりますが、グリップ力は上がりません。また低圧状態ではタイヤ中央部を路面に押し付けられず、トータルの接地面積は増えません。ただし、低圧になると転がり抵抗が増し、スロットルを開けやすくなります。これをグリップ向上と勘違する事がほとんどです。また、弊害として燃費悪化とライフの悪化もあります
空気圧低 | フィーリング | 空気圧高 |
同じ | グリップ | 同じ |
重い | 軽快性 | 軽い |
悪化 | 旋回性 | 向上 |
高い | 安心感 | 低い |
増加 | 転がり抵抗 | 低下 |
空気圧が低い場合のタイヤ断面イメージ