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【元ヤマハエンジニアから学ぶ】二輪運動力学からライディングを考察!|スラロームはバイク操作の基本なり

二輪工学の専門家、プロフェッサー辻井栄一郎によるライディング考察。バイクのメカニズムや運動力学についてアカデミックに解説し、科学的検証に基づいた、ライテクに役立つ「真実」をお届けします!

TEXT&ILLUSTRATIONS/Prof. Isaac TSUJII

今回はスラロームのコツを、車両の運動特性から解説させて頂きます。このスラロームにはライディングの基礎が凝縮されています。

J-GP3を3連覇した尾野弘樹選手がスラロームしているところを拝見したことがあるのですが、本当にお上手で安定していてそして速い。言うまでもなく、チャンピオンは基礎ができている証拠とも言えます。

これから免許を取得される方はもちろん、ベテランの方も、今一度スラロームを考察して、安全で快適なバイクライフを送るためのテクニックをご紹介します。

tips_1:基本姿勢

まずライディング姿勢ですが、ずばりリーンアウトです。ジムカーナではリーンアウトだけでなく、リーンウィズやリーンインをすることがありますが、切り返しがメインのスラロームでは、ペースが上がってくるとリーンアウトの方がロスなくバイクを操縦できます。 

スラロームのパイロン通過時は旋回しているわけですが、意外と旋回半径が小さいです。それを左右に繰り返すので、タイヤの接地点の旋回半径とライダーの頭などの旋回半径はかなり異なります。

そこで、ライダーの動きを必要最小限にするのがリーンアウトなんです。実際にリーンインと比較するとわかるのですが、リーンインだとバイク以上に身体を左右に動かす量が増え、無駄が多くなります。

その点リーンアウトはライダーの股の下でバイクだけが左右に移動するイメージとなり、無駄が最小限になります。

とは言え、実はリズムに乗ると自然とリーンアウトになってきます。

写真1:リーンアウトでスラローム走行中の筆者
写真1:リーンアウトでスラローム走行中の筆者

tips_2:進入とターンイン

車両によってですが、ベテランは1速で絶妙なスロットルコントロールで進入しますが、私は2速で車速を調整します。さらに、走り出すとクラッチは基本的に操作しません。その方がギクシャクせずにスムーズにパイロンを通過できます。 

速度は20km/h程度まで一旦加速し、その後スロットルを閉じてちょうどいい速度に調整。ラインはパイロンから車体1〜1.5台ほど離れた場所から進入。そしてパイロンの少し手前でプッシングステア・逆操舵することでバイクが傾き始め、パイロンの真横ぐらいで一番傾くイメージです。 

ここで、ベテランやジムカーナのプロはイン側のステップを、一瞬ですが踏み込むことでより素早く傾けると同時に、簡単にリーンアウトの姿勢に持ち込みます。

このタイミングが難しいと言うか、0.数秒でもズレると不安定になり、最悪の場合曲がりきれなくなるので、正直に言うと私はこれが超苦手です(図2)。 

車速が低くて前輪のジャイロモーメントが小さく、二輪の歳差運動が不十分な場合、バイクは比較的不安定な状態になりやすいと言えます。ステップに力を入れることでライダーとバイクの間で作用反作用が発生し、バイクは逆操舵以上に素早く傾き始め、かつライダーはバイクの傾きとは逆のリーンアウトの体制に自然となるのです。 

このプッシングステア・逆操舵が不十分だと素早くバイクを倒しこめず、次のパイロンを曲がり切れなくなり、コースアウトしたりパイロンをひっかけたりする要因になります。

写真2:倒し込みの上級テクニック
写真2:倒し込みの上級テクニック

tips_3:切り返しは忙しい

次に、切り返しが始まります。ここからライダーはさまざまな操作をシームレスに、時に同時かつ滑らかに行っており、とっても忙しいのです。

写真3:パイロンを旋回中のステアリング操作
写真3:パイロンを旋回中のステアリング操作

①パイロン通過時はバイクがリーンすることでセルフステアが入ります。すると前輪接地点がよりイン側に移動し、重心三角形と重力ベクトルが重なってつり合いが取れ、バイクの傾きが止まります。舵角がついているので旋回半径も小さくなります。目線は次のパイロンに向けます

②パイロンを過ぎるとさらに回り込むためにステアリングを切り足します。セルフステアでは舵角が不十分なため、ライダーが切り足してクルッと回ります。ビギナーの多くがこの切り足しが不十分なため回り切れなくなり、次のパイロンをひっかけたりするのです

③ステアリングを切り足しているのでプッシングステアと同じ状態で重心三角形と重力ベクトルがズレ、起き上がりモーメントが発生することで、やがてバイクは起き始めます。スロットルも一瞬開けて加速することで遠心力が増加。素早くバイクが起き上がってきます

④ほんのわずかな時間ですが、スロットルを開けて加速しているので、フロントフォークは伸びています。バイクは起き上がり、腕の力を緩めることで、トレールのモーメントによるセルフアライニングトルクが効果的に働き、ステアリングは戻り始めます

①バイクは起きていますが、まだステアリングは微妙に逆操舵状態なので反対側に傾き始めます。この時スロットルオフと同時に一瞬のリアブレーキで速度を調整。プロは曲がりたい方のステップの踏み込みも同時に行います

②減速しているので、フロントフォークが沈みます。前輪は真直ぐに近くなりますが、重心三角形と重力ベクトルがズレたままなので、反対側に傾き始めたバイクはより傾こうとし、ライダーはリーンアウトになります

③ここで速度調整ができていれば、リアブレーキはリリースします。ある程度までバイクが傾くとライダーは腕の力を緩め、プッシングステアを止めているので、前輪にセルフステアが入り始め、反対側への旋回が始まります

④セルフステアの状態で前輪がイン側に切れていますが、まだバイクがバランスをとれるまでのステアリング角に到達していないので、さらに前輪はイン側に切れていき、バイクもさらにイン側に傾こうとしています

⑤セルフステアが増加してバイクのバランスが取れ、傾こうとする動きが止まります。姿勢は完全にリーンアウトです。そして同じことを繰り返すことで、スラロームをスムーズにクリアすることができます

tips_4:スラロームのコツ

ビギナーやスラロームが苦手な方に簡潔にひとつアドバイスです。積極的にハンドル操作をしてください。 

自分が思っている以上に、と言っても人によりますが、イメージよりも3〜5度ぐらい、さらに舵角が大きくなるイメージとでも言えばよいでしょうか。ぜひ心掛けてみてください。

もちろん、パイロンの配置間隔(距離)やオフセット量(左右の距離)によって変わってきますが、基本操作は同じです。 

パイロン間を通過するのにかかる時間はほんのわずかです。しかしその短時間にライダーはスロットル操作と操舵とブレーキを駆使し、リーンアウトにし、さらにプロ級の人はステップ操作と、さまざまなことを繰り返すので本当に忙しいです。

しかもそれを正確なタイミングかつ必要な量だけ入力しなければならないのです。つまり、ハンドル操作の方法や向きとタイミング、そしてその量を調整します。スロットルやブレーキも同様です。 

まさに基本が凝縮されていると言えます。これがスムーズにできてスラロームを楽しめるようになると、ツーリングだけでなくサーキットでも安定した走行ができるようになります。

Uターンでもこけなくなると言うと言い過ぎかもしれませんが、間違いなく技量は向上しています。できれば年に一度はスラロームの走行練習をすることをおすすめします。

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