BOSCHが世界の技術を公開! レーダーを使った新機能でライダーをサポート
ABSやIMUなど、現代のバイクに欠かせないシステムを開発してきたボッシュが、2020年に公開したレーダーを活用した安全支援システム「ARAS」は、先行車との距離を自動的に調整するACCを実現し、二輪市場に革命をもたらした。そして今回、レーダーの活用範囲を広げた新システムを発表。さらなる安全性向上を実現した。
PHOTO/N.SHIBATA TEXT/Y.FUJITA
取材協力/ボッシュ https://corporate.bosch.co.jp/
事故を未然に防ぐレーダーベースの新機能
2024年9月末、ボッシュから新たな安全支援システムが発表された。公開された6つの新機能は、いずれもミリ波レーダーセンサーを活用したシステム。
ボッシュは従来からこのレーダーによるACC(アダプティブクルーズコントロール)機能を、ARAS(先進ライダー支援システム)として市販車向けにリリースしている。今回はこのACCに加え、「ライダーの安全」に関わる機能を進化させたというわけだ。
これらの新機能を体験できる試乗会が、栃木県にあるボッシュのテストコースで行われた。ドイツを本拠とする同社だが、バイクに関連するシステムの多くは日本を拠点に研究しているという。用意されたテスト車両はボッシュが開発用にカスタマイズしたマシンの他、KTMのプロトタイプも含まれていた。
新しいオートマチック機構が搭載された未発表車を、他社の試乗会に貸し出すというのは前代未聞のこと。両社の関係の深さがうかがえる。
ボッシュは従来からABSなどの「ケガをしない」ための技術を高めてきたが、今回はさらに「事故を起こさない」というアシストを進化させた。同社によればこれらの新機能によって、現在起こっているバイク事故の内、6件に1件は防げる可能性があるとしている。
KTMのプロトタイプ車でテスト
KTMのプロトタイプには、今回の6つの新システムの内、前方レーダーを使う4つの新機能が搭載されるという。最大の特徴は、AMT(マニュアルミッションを持ちながら自動変速が可能)化している点だ。このAMT化は、ARASの新機能を搭載するための重要なファクターとなっている。
マシンの詳細については一切不明ではあるが、試乗した感想を言えば驚くほどスムーズに、違和感なくシフトチェンジしてくれた。正式発表が楽しみだ。
進化した6つのライダー支援システム
RDA(ライディング ディスタンス アシスト):先行車との距離を検知し危険な接近を避ける
RDAは簡単に言えば「通常走行時に追突を回避する」支援システムだ。先行車に対して危険なほどの接近を検知すると自動的にアクセレーションを弱め、必要に応じてブレーキで減速、車間距離を維持してくれる。この時、スロットルをゆっくり開けていっても加速せず、一定の距離が保たれる。
開発者曰く「前の車との間に大きなスポンジが挟まっていて近づけないイメージ」とのこと。またACCと異なり先行車が加速してもバイクは自動で追従しないので、ライダーがスロットルを開ける必要がある。
RDAにはコンフォートとスポーツの2種類のモードがある。コンフォートは先行車と距離をとるという機能に忠実で、制御中は少々スロットルを開けてもエンジンは反応しないが、追い越しをするために大きく開けるとそれを察知して加速する。
スポーツはスロットル操作に敏感で、少しでも開けると鋭く加速するという違いがある。日本の道路事情を考えると、コンフォートで使用する方がメリットは大きいと感じた。
RDAは機能をオンにしても先行車に近づかない限り特に何もしない。つまり、思い通りの走りを楽しみながらも、必要に応じて安全支援をするシステムなのだ。
- システム要件
- 前方レーダーセンサー
- フルインテグラルABS+IMU
- ヒューマンマシンインターフェース(HMI)
ACC S&G(アダプティブ クルーズ コントロールストップ&ゴー):先行車の停止に合わせて自動的に完全停止まで制御
停車時にクラッチを切るなどの操作が必要なバイクの場合、ACCで自動的に停車してしまうと立ちゴケなどのリスクがあるため、ある速度以下に車速が落ちるとACCがオフになるよう設定されていた。
一方、このACC S&Gは、クラッチ操作を必要としないAMT/AT車への搭載を前提に、完全停止するまでサポート。試乗車はKTMのプロトタイプで、マニュアルトランスミッションながら自動変速にも対応するAMT仕様だった。
発進後、ACC S&Gを設定すると、先行車の速度に合わせ、設定速度を上限として追従するのは従来通り。先行車が止まるとそれに合わせて時速0km/hまで減速し、完全停止する。
このブレーキ操作は非常に穏やかで、停止する際につんのめるような感覚は皆無だった。再発進はスロットルを開けるか、ACCボタンを押せば自動的に発進。ACCにより再び先行車の速度に追従する。
ツーリング終盤で疲れが溜まり、集中力が切れて前の車の減速や停車に気づくのが遅れた……なんていう時に頼れる安全支援システムと言える。
- システム要件
- 前方レーダー
- フルインテグラルABS+IMU
- ヒューマンマシンインターフェース(HMI)
- 自動クラッチとトランスミッション
GRA(グループ ライド アシスト):マスツーリング時の千鳥走行にも対応
従来のACCは先行車を1台のみターゲットとして設定していた。先行車が四輪車であれば、問題ないが、大人数でツーリングする際は千鳥走行の隊列になることが多い。するとレーダーは前を走る複数のバイクを認識することはできるが、自身の正面を走る2台前のバイクか、自身の近くにいる斜め左か右のバイク、どちらをターゲットとして追従するかを決めなければならない。
もし、斜め左か右のバイクをターゲットにしてしまうと、せっかくの千鳥走行なのに車間距離が大きく開くことになってしまう。実はこれが、従来のバイク用ACCの大きな弱点だと私は思っていた。
GRAはバイク用に調整されたACCの拡張機能で、グループの隊列を検知すると、千鳥走行に最適な車間距離を自動的に維持してくれるというもの。前方レーダーの性能や検知範囲が広がったことなどが、このシステムを可能にしているという。
GRAをオンにしていても、単独走行の際には自動的に通常のACC機能となるなど、モードを切り替える煩わしさがないのも好印象だ。
- システム要件
- 前方レーダーセンサー
- フルインテグラルABS+IMU
- ヒューマンマシンインターフェース(HMI)
EBA(エマージェンシー ブレーキ アシスト)衝突の危機を検知してブレーキ入力をサポート
EBAは衝突の可能性があると判断すると、メーターに危険を知らせるアラートを表示。それでもブレーキ操作を行わない(ライダーが危機に気づいていない)と、瞬間的な弱いブレーキを連続的に効かせて車体を「ガガガ!」と振動させ、ライダーに知らせてブレーキ操作を促す。
そしてライダーがブレーキ操作を開始すると、その入力を補助してより強く、安定的なブレーキングをアシストしてくれる。急ブレーキに恐怖心を持つビギナーでも、短い距離で止まることができるのだ。
このシステムはあくまでもライダーのブレーキ入力をアシストするための物である。自動的な急制動はバイクの特性上難しいため、ライダーの意思によるブレーキが必須なのだ。
- システム要件
- 前方レーダーセンサー
- フルインテグラルABS+IMU
- ヒューマンマシンインターフェース(HMI)
RDW(リア ディスタンス ワーニング):真後ろを走る車両があるとライダーに知らせる
後方レーダーセンサーを搭載しているモデルはすでに存在するが、その用途は車線変更などの際の「死角検知」がメインであった。RDWはレーダーセンサーが検知した情報を、より積極的にライダーに伝えるシステムである。
RDWは後方の車両が安全ではない距離を一定時間走ると、メーターにアラートを表示する。するとライダーは車間距離を開ける、もしくは追突のリスクを避けるために車線変更をするなどのアクションを起こすことができる。
「高速道路で漫然と追い越し車線を走っていたら、いつの間にか速い四輪車が急接近していた」なんていう経験は無いだろうか。RDWは、追突事故や無用なトラブルを避ける意味でも有効なシステムと言える。
- システム要件
- 後方レーダーセンサー
- フルインテグラルABS+IMU
- ヒューマンマシンインターフェース(HMI)
RCW(リア コリジョン ワーニング):後方から迫る車両に対し追突の危険があることを知らせる
ここまで説明してきた5つの新システムは、バイクを運転するライダー本人に対してのアシスト機能であった。
対してこのRCWはライダー本人ではなく、後方を走る車両に対してアピールするためのシステムだ。具体的には、後方レーダーが自車の後ろから接近してくる車両を監視し、追突の恐れがあるスピードで迫ってきていたら、何らかの方法で接近してくる後方車両に警告を発するというものだ。
バイクは四輪車に比べて後続車に気づかれにくいため、信号待ちや渋滞の際に追突される事故が少なくない。そうしたリスクを回避するため、周囲に存在をアピールするシステムは不可欠だというのが、ボッシュのソリューションだ。
- システム要件
- 後方レーダーセンサー
- フルインテグラルABS+IMU
- ヒューマンマシンインターフェース(HMI)