【2025 SSP参戦|岡本裕生インタビュー】ヤマハ YZF-R9&ピレリタイヤの印象と参戦への展望

コース攻略やタイヤのライフという不安は、確かにある。だが、YZF-R9への乗り換えと、ピレリタイヤやチームへの適応は順調に進んでいる。岡本は言う。「この1年間で、どれだけ吸収できるかが、カギ」だと。
PHOTO/YAMAHA, Yamaha Racing, E.ITO
TEXT/E.ITO
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1999年7月23日生まれ。2022年にヤマハ・ファクトリー・レーシングに抜擢され、全日本JSB1000にエントリー。2024年、チームメイトであり12度のタイトルホルダーである中須賀克行を最終戦で逆転し、チャンピオンに輝いた。同年、文部科学大臣杯を受賞。2025年からはWSSPを戦う
スーパースポーツ世界選手権(SSP)
SBKに併催される選手権。以前は主に600ccクラスの市販車をベースとしたバイクで争われていたが、2022年シーズンからレギュレーションが変更。2025年、ヤマハは“スーパースポーツ・ネクスト・ジェネレーションマシン”としてYZF-R9で戦う。ほか、ドカティ パニガーレV2、MVアグスタF3 800RR、トライアンフ ストリートトリプル765RS、QJ モーターSRK 800 RRなどが参戦する。
最高速はR1に劣るがR9はトルク感がある
2025年シーズン、スーパースポーツ世界選手権(SSP)に新たな日本人ライダーが挑戦を開始する。2024年全日本JSB1000チャンピオンに輝いた岡本裕生だ。
戦いの舞台が世界であるというだけでなく、マシンもタイヤも、そしてチームや環境も、何もかもが新しいチャレンジとなる。全日本ではYZF-R1を走らせていたが、SSPではヤマハが昨年発表したYZF-R9での参戦だ。
インタビュー時点でヨーロッパでの2度のテストを終えていた岡本に、R9の印象を聞いた。
「900ccなのでトルク感がすごくあります。ストレートの最高速はR1に劣りますが、加速感はR1に近い感じでした」
なお、従来のSSPは600ccクラスの市販車をベースとしたバイクで争われてきたが、2022年からレギュレーションが変更され、「スーパースポーツ・ネクストジェネレーション」としてドゥカティのパニガーレV2などの大排気量車も参戦している。排気量の異なるバイクによる争いを可能とするため、回転数の制限(レブリミット)が設けられており、岡本が感じたR9の「最高速は劣る」という印象には、エンジンの素性だけでなく性能調整の影響もあることを付け加えておく。
“中量級”クラスのマシンは、岡本にとって追い風となった。本来の強みであるコーナリングスピードを生かす走りと、SSP仕様のR9の相性が良かったのだ。
「1000ccで走った4シーズンで、ブレーキングでちゃんと止めて加速させる、という走り方になっていましたが、今は本来の自分の走り方に戻した感じです。基本的に600ccクラスの選手権なので、コーナリングスピードを殺してしまうとタイムにつながらないんです。だから、自分の走りに合っていると思います」
では、空力デバイスの影響はどうだろうか。R9は、2024年まで走らせていたR1とは空力デバイスの形状が異なっている。ライディングにどのような影響を与えているのだろうか。
「R9をウイングなしで走ったことがないし、R1とはパワーやストレートのスピードの違いがあるので純粋な比較は難しいのですが、R9はパワーがあるほうなので、ウイングがあることはすごくポジティブじゃないかと思います。加速時にダウンフォースが発生して、フロントが路面に押し付けられる感覚もしっかりありますしね。
ただ、これはR1での話になりますが、ウイングのあり・なしを試した時、(ありのほうが)切り返しが少し重くなったんです。もちろん、サーキットのスピードレンジでの話になるんですけどね。ただ、R9については基本的に軽く作られているので、そこに関してはあまり気にならないです。とても軽いので、R1よりも走っていて疲れないんですよ」
2回のテストを終えた岡本は、すでにマシン乗り換えの手ごたえをしっかりとつかんでいる。
「エンジンの制御部分を詰める必要はありますが、車体(への適応)に関してはほぼ心配しなくていいと思います。チームの進め方としてもいい感触でした。テストはある程度、最短距離で進められています」
今季、岡本が所属するのは名門・オランダのパタ・ヤマハ・テンケイト・レーシング。チームとのコミュニケーションは英語で行われる。主に通訳を介すが、岡本自身も積極的に話しており、意思疎通もうまく進んでいるという。
「あまり騒いだりしないし、オランダ人って日本人に近い感じがします。僕としてはやりやすいですね。自分を変えることなく、そのままで居心地がいいです」
バイクへの適応、そしてチームという環境面でも、いい状況にあると言えそうだ。
ピレリへの適応は問題なし懸念はタイヤライフ
もう一つの大きな違いが、タイヤだ。SSPはピレリタイヤのワンメイクである。岡本は2019年にイタリア選手権にスポット参戦し、その際にピレリを履いた経験があるが、全日本ではブリヂストンで戦ってきた。ブリヂストンは硬め、対してピレリは柔らかめのタイヤで、キャラクターが全く異なる。しかし、岡本はここでも苦戦はしていない様子だ。
「ピレリはウォームアップ性がいいので、1周目からベストタイムを狙っていけます。また、タイヤがとても柔らかいので、特性をつかみやすいんです。すごくユーザーフレンドリーだと思います。
2回のテストはどちらも寒かったのですが、それでもタイヤの温まりがすごくよかったです。意外とスムーズに乗り換えできていると思います。これまでモタードやミニバイクなど、さまざまなバイクに乗ってきた経験があるので、乗り換えに関してはあまり気になりませんね」

ただ、懸念していることもある。それは、レース後半のタイヤマネジメントだ。
「タイヤをどこまでもたせられるか、タイヤが減ってきたときにどういう走りをすればいいのか。それがまだ、わかりきっていません。
レース序盤の強みはわかっているのですが、後半が未知の世界なんです。そこは1シーズンを通して勉強していかなければならない部分だと思います」
とはいえ、マシンもタイヤも、適応という意味では順調に進んでいると言える。岡本が最も心配しているのは、コース攻略だ。
これまで全日本で戦ってきた岡本にとって、ほとんどのサーキットをレースウィークで初めて走ることになる。経験があるのは、テストをしたクレモナ・サーキットと、イタリア選手権で走ったミサノ・サーキットのみだ。
SSPのライバルたちは、ヨーロッパでしのぎを削ってきたライダーである。既知のコースを走る彼らに対し、岡本はコースを知るところから始めなければならない。
「SSP参戦にあたり、一番の不安はコースなんです。コースをどれだけ短い時間で攻略できるか……。
YouTubeでオンボード動画をたくさん見たり、SSPのレース動画を見たりもしています。外からの視点のカメラだと、バイクがどう動いているかでギャップがあるところもわかるんですよ。
ヨーロッパのコースは、日本と違ってすごく難しいです。アップダウンもすごいし、ブラインドコーナーもとても多い。相当難しいサーキットに行くと想定して行くつもりです」
しかし、岡本は2025年を学びの1年にするつもりはない。
「僕は今年で26歳になります。この年齢で中量級の選手権に参戦するのは、だいぶ遅めなんですよ。正直、焦りはあります。
クラスも環境も全く違う。この1年間で、どれだけ吸収できるかがカギだと思っています。あとは、絶対にケガをしないこと。そして毎戦、しっかり経験を積むことですね。
初年度からトップ10を狙います、とか甘い考えではなく、まずは表彰台から狙っていきたいと思います」
岡本のそれは、目標であり、この先に向けた覚悟だ。全日本王者の戦いが始まる。