【元MotoGPマシンエンジニア”ANDY”の整備講座】ボルトの締め忘れを防ぐ「ザル」と作業スペースを確保せよ!
元HRCのエンジニアで、鈴鹿8耐に出場したライダーでもあるANDYが、これまでの整備やレースの経験で得てきた「本当に役立つ」メンテナンスに関わるアレコレをご紹介していきます!
PHOTO/K.MASUDA TEXT/ANDY
外したボルトやパーツの〝見えるか化〞が大切
ボルトを締め忘れて走行中にブレーキキャリパーが外れ、ブレーキがまったく効かなくなる――考えるだけでも恐ろしい事態だが、実際にプロのバイク屋で起きたことがある。
整備ミスの中でも特に防ぎたいのが「ボルト締め忘れ」だ。締め忘れたボルトや部品は走行中に必ず脱落し、スマホホルダー程度ならまだしも、ブレーキキャリパーなどの機能部品であれば重大事故に直結する。だからこそ、締め忘れは何としても防がなければならない。
今回は締め忘れ防止テクニックの一つである「ザルの活用方法」について解説する。
まず認識してほしいのは、「ボルトやナットの仮締めが非常に危険だ」ということだ。仮締めや仮付けの状態で部品を保管すると、ほぼ確実に本締めを忘れることになる。
仮締めか本締めかは外見では区別がつかず、部品が装着されているため問題がないように見えてしまうのだ。これが極めて危険だ。仮締めを忘れる記憶に頼った整備が、重大ミスを招く第一歩となる。
エラーを防ぐには「記憶に頼らない仕組み」が重要だ。仮締めや仮付けは原則として避けるべきだが、やむを得ず仮締めする場合は、マスキングテープなどに「○○仮締め」と記載してメーターや目立つ場所に貼ることで、締め忘れのリスクを軽減できる。
次に、締めていない状態を見える化する方法として「外したボルトやナットをすべてザルに入れて管理する」という方法がある。これは非常にシンプルで、外したボルトやナットをザルに入れるだけだ。転がったり隠れたりして見えなくなる心配がなくなり、締め忘れのリスクを大幅に減らせる。
この方法はHRCや全日本のホンダ系チームでも採用されており、メカニックやチームが独自のルールで運用し、完璧な整備を実現している。
また、レースピットではアンダーカウルをコース側に置くことがよくある。これは付け忘れを防ぐためで、視界に入れて注意を促す効果がある。
HRCの8耐マシンではディスクローターハブが左右で色分けされ、逆組防止が徹底されている。視覚的に正否を判断できる仕組みが整備されているのだ。
このように、記憶に頼らない仕組みを整備に取り入れることで、重大なミスを防ぐことができる。ザルは見える化の効果が高く、コストパフォーマンスにも優れたアイテムとして有効活用できる。
ネジをザルに入れて管理するメリット
ザルは大小さまざまなサイズがあると便利
ザルに部品を丸ごと入れて洗う事もできるので、さまざまな大きさを揃えておくと整備の幅が広がります。
同じメーカーの物で揃えると重ねて収納できてコンパクトに。まずはボルトを入れる小さい物を。
その①装着すべきボルトの見える化
ボルトが入っていれば整備未完了、まだ終わっていない事が視覚で分かるのがとても重要です。外した部品の裏に隠れたり、転がってボルトが見えなくなると「締めた記憶」だけが頼り。
しかも本人しか分からないので他人が気付けない。この方法はいつかエラーを起こします。
その②第三者が装着忘れに気づける
「ザルに残っていたらエラーがあるから教えてくれ」と仲間に共有しておけば、整備を知らない子供でも「あ! 何か残ってるけどパパいいの?」と気づいてもらえます。
草レースなどではコースインする前に、仲間の多くの目で確認でき、ミスに気づけるチャンスが増えます。
その③ボルトを異物から守れる
サーキットや青空整備など、屋外で作業する時には砂利やゴミなどを溜め込まないので便利です。バットやオイルパンなどは花粉やホコリなども溜まるので、特にグリスアップ済みのボルトは入れたくないですね。
砂が溜まらないザルなら、気にする必要がなくなります。
その④部品ごとにボルトを管理しやすい
5~6個あれば、アンダーカウル取付ボルト、サイドカウルのボルト、タンクカバーのボルトなどと小分けにして使えて便利。似た長さのボルトを見て「アレ? このボルトどのパーツだっけ?」と迷う時間を短縮でき、整備の確実性とスピードアップを両立することができます。
外したパーツを置くスペースは完全に物を無くしてから整備開始!
外したパーツを置くラックはすべて整備前に空にしておきます。目的はザルと同じで、整備の進捗状況の見える化。
外した部品を下から上に向かって順に、前後左右をバイクに装着された向きでラックに保管。これを逆順で組めば迷いません。
小物パーツや工具をまとめるバットもあると便利
プラスチック製のバットは軽いし部品を傷付ける心配が少ないのでオススメ。部品ごと、セクションごとにまとめたり、サーキットでは工具を置いたりできます。
容量3~4Lの物が使いやすく、オイル交換にもギリ使えます。
ANDYのガレージは普段から整理されている
基本的に備品・道具や工具はすべて住所が決まっています。それは探す時間を省く事、使いやすく配置する事はもちろんなのですが、工具を整備車両の中に忘れた場合に、自分で気付ける事を重視しています。飛行機の整備士さんは整備完了後に工具が揃っている事(飛行機に工具を忘れない)を厳しく管理されています。同じように工具や備品の住所を決める事で誰が不在なのかが直ぐに分かります。その結果、常に整理整頓された状態が機能美となって、ガレージのカッコよさに繋がると思っています。