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【元MotoGPマシンエンジニア”ANDY”の整備講座】ボルトを「緩める」「締める」は基本中の基本

元HRCのエンジニアで、鈴鹿8耐に出場したライダーでもあるANDYが、これまでの整備やレースの経験で得てきた「本当に役立つ」メンテナンスに関わるアレコレをご紹介していきます!

【ANDY】
2級整備士の二輪、ガソリン、ジーゼルの3種類すべての資格を所有するYouTuber。HRC時代はMotoGPマシンの完成車開発を担当していた
PHOTO/K.MASUDA TEXT/ANDY

整備中のトラブルの80%は緩め作業で発生する

バイク整備の始まりは、何と言っても分解作業である「ボルトの緩め」からになります。しかし、この緩め作業が実に難しい! その理由はとても単純で「ボルトが簡単に緩まない」からです。「このボルト、固着しすぎて全然緩まない……」「工具が車体に当たって上手く入らず、ボルトの頭をナメた……」なんていうことは、バイクをイジったことがある方なら、誰しも一度は経験ありますよね? 

しかし、プロの整備士であればネジをナメる事は滅多にありません。ではなぜ、サンデーメカニックはネジをナメてしまうのか? その原因はズバリ以下の2つの理由からなのです。

1つめの理由は、適切な工具を選択できていないこと。そして2つめは、正しい方向に力を加えていないこと。非常にシンプルな理由ですが、この2点に尽きるのです。

やりがちな失敗例としては、「プラスネジの頭をナメた」「六角穴付きボルトの穴をナメた」「ドレンボルトなど、車体の下側についているボルトの緩め方向を間違えてナメた」「片口スパナで緩めようとしたらナメた」などなど。ボルトの頭をナメる理由はほぼこれらの事例に集約されていると思います。そしてその失敗は、適切な工具を使っていない事に端を発しているのです。

例えばプラスドライバーの場合、サイズが合っていない工具を使用する方は非常に多いです。バイクだと#2で大体のプラスネジは回せてしまうのですが、実は適正サイズではないことがあります。また、六角ボルトは片口スパナよりもメガネレンチを使った方が、外れにくくて作業の確実性が上がります。

このように、適切な工具を選択したら、次は2の適切な力のかけ方を知る必要があります。

工具を緩める方向へ力をかける事はもちろんですが、実はそれ以上に工具を押し付ける力が必要になるのです。固くて緩まないビスやボルトは特にです。

工具は金属製なので一見硬そうに見えますが、実際は作業中にわずかに変形しています。この変形がビスやボルトから工具が抜ける方向に作用してしまっているのです。また、工具を使ってボルトを回そうとすると、工具が浮き上がって抜けようとする力が働きます。すると工具のかかり代が浅くなり、ナメやすくなるのです。プラスのネジはその傾向が顕著と言えます。

ボルトやビスが固く締まっているほど、緩める時に浮き上がる力も大きくなる事から、浮かせないよう工具を押さえつける力が必要になるというわけです。ブレーキマスターのリザーブタンクはその代表例で、「ナメてくれ!」と言わんばかりに固着しやすいプラスビスです。

この工具が外れる作用は、ボックスレンチやメガネレンチでもわずかに働いています。だから工具をしっかりと「ボルトに押し込みながら回す」のは、緩め作業の基本中の基本と言えます。

プロの整備士は固く締まったボルトを緩める際、全体重をかけて押しつけながら回したり、2人体制となり、体重を掛けて押しつける人と、工具を回す人の役割を分担して作業する事もあるほどです。

またレンチを使う場合は「緩める方向に押す」のが作業の基本です。固くて緩まないボルトは手のひらで「トン! トン!」と叩きながら、少しずつ力を加えます。叩いた衝撃で固着したボルトも緩みやすくなります。

NGな方法は、全体重をかけて工具を「握って引っ張る」ことです。ガクッと一気にボルトが緩んだ時、その勢いで手の甲を車体にぶつけやすく、怪我をしてしまうリスクが高まります。工具は手のひらで押して緩める、この基本を是非実践してください。

バイクによく使われているボルトに対応する工具

六角ボルト→六角/メガネレンチ、ソケット

固く締まっている場合は必ずメガネレンチで! ソケットならできるだけ短い物がGOOD。片口スパナやモンキーはナメたり傷が入りやすいのでNG。

六角穴付き(キャップ)ボルト→六角棒レンチ/ソケット

緩まない時は先端が短いソケットを使うと、工具が変形しにくくナメにくい。六角棒レンチは工具が倒れるモーメントでナメやすいので硬い時は要注意!

トルクスボルト→トルクスレンチ

大きなトルクをかけられるためナメにくい。できればソケットを一通り揃えたいところ。イジり防止タイプの場合は専用工具が必要なので要確認を。

プラスボルト→プラスドライバー

小さいサイズの工具を使うと必ずナメる。ドライバーは#1/2/3の3種類は揃えておきたい。ビスにしっかりと体重を乗せながら回すのがコツ。

マイナスボルト→マイナスドライバー

先端がテーパー形状のため浮き上がる工具の代表例。しっかり押し当てると同時に、面に対し垂直な押し当てが必須。可能な限り大きなサイズを使いたい。

シフトリンケージロッド→片口スパナ

しっかり奥まで差し込み、ナットの回転方向と並行に回す。工具を斜めにかけて回すと力が伝わらず簡単にナメるので、適切な工具と使い方が必須だ。

「緩める作業」は工具を正しく使わないと失敗しやすくなるので注意すること

工具を引く方向で使うと緩んだ際にケガをしやすい

緩める作業の時、怪我を負うリスクが最も高くなる。その理由は急に緩んで手をバイクや部品に勢いよくぶつけてしまうから。

手のひらを開いて押して緩める事で、部品に接触しても柔らかくて面積の広い手のひらが接触することになり、受傷リスクを低減できる。

工具をしっかりかけないと急に外れる危険性がある

工具をボルトにしっかりと押し当てて使うこと。特にソケットは倒れる方向にも力が加わるので長いソケットほど強い力で押し当てないと外れてしまう。

硬く締まったボルトは工具をトントン叩いて緩める

「握って引っ張る」は急に緩んだときに怪我をしやすいのでNG。基本は掌底の形で手のひらで押す方向にトントンと軽く叩いて少しずつ緩める。

ドライバーはしっかりボルトに押し当てて回す

押し当て力が足らないと簡単にナメてしまう。体重をしっかりかけられる体勢を整え、押し当てる手と回転させる手を分担させて使うと良い。

固い場合はメガネレンチをかけるとラクに回せる

メガネレンチを併用できるドライバーは、押し当て力と回転力を両立させる事ができるため、ナメやすいドライバーにオススメの機能だ。

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