【元MotoGPマシンエンジニア”ANDY”の整備講座】「バッテリー上がりかな?」という時の確認と対処方法
元HRCのエンジニアで、鈴鹿8耐に出場したライダーでもあるANDYが、これまでの整備やレースの経験で得てきた「本当に役立つ」メンテナンスに関わるアレコレをご紹介していきます!
PHOTO/K.MASUDA TEXT/ANDY
「バッテリーが上がったかな?」という時の確認と対処方法
エンジンが掛からない場合、原因の多くはバッテリー関連のトラブルです。一昔前はキャブレターの不具合もありましたが、インジェクションが標準となった現代は圧倒的にバッテリー系の不具合です。
まず、バッテリー上がりとは何かについて説明します。一般的にバイクには鉛バッテリーが搭載されており、電解液に希硫酸を使用しています。正常であればセル1つあたり2.14Vの起電力があり、6つのセルで構成されているので合計12.84Vが満充電の正常値です。
バッテリーが弱ると、電解液の希硫酸は、濃度が低下して水に近づきます。すると起電力が低下してセルモーターを回す電圧が不足します。これがバッテリー上がりの正体です。
バッテリーが上がってしまった時には4つの対処法があります。
1つ目は押しがけです。これは出先で有効な対処方法で、ある程度バッテリーが残っている時などに行います。再始動できる目安は、燃料ポンプが回る、ヘッドライトが点灯する、セルが一瞬でも回る時は再始動可能な場合が多いです。
ただし、スーパースポーツ系などは圧縮比が高く、スリッパークラッチも装備されていることが多いため、難しい場合もあります。
押しがけの方法は、メインキーとキルスイッチをオンにし、ギアを2速に入れ、全力でバイクを押し、メーターが8km/h以上になったら勢いよくシートに乗り、乗ると同時にクラッチをポンと離して繋ぎます。上手くエンジンが始動したら、クラッチを握って停車します。
2つ目はジャンプです。規模の大きな駐車場であれば、利用者の中に誰かしらジャンプコード(ブースターケーブル)を持っている可能性が高いので、あの手この手で見つけて下さい。
救援車は12Vでなければなりません。クルマの方が大きなバッテリーを搭載しているので、バイクよりクルマに救援してもらうのがベターです。トラックなどは24V仕様なので接続できません。
3つ目は、バッテリーの再充電です。購入からまだ日数が経っていない場合、再充電で復活する可能性が高いです。充電後の単体電圧が約12.8Vに上昇すれば再使用できます。
4つ目はバッテリー交換です。再充電しても電圧が復活しない、購入から4年以上経過している物は一度上がると再起不能になる場合が多く、再び上がってしまう可能性も高いので、新品に交換がおすすめです。
走行中に壊れてエンジンが停止する事もありますから、定期的な交換は必須です。また、輸入車などで特殊サイズを使っている場合は、用品店に在庫が無い場合がありますので、できるだけ短いサイクルでの交換をおすすめします。
次に、バッテリーの電圧についてです。正常なバッテリーの電圧値はエンジン停止時で約12.8V、運転時は14V前後、セルモーター回転時では約9.5V以上です。
停止時の電圧が12Vを下回るとセルモーターを回す事ができません。また再充電しても電圧が上昇しない場合はバッテリーの寿命が考えられます。
運転時の電圧が13Vを超えない、または15V近くまで上昇する場合はレギュレーター故障の可能性が考えられます。
高電圧状態で充電するとバッテリーを痛めると同時に故障する場合があります。また、セルモーターが回転している時のバッテリー電圧は12.8Vから9.5V付近まで降下しますがこれは正常です。
大電流が流れることで、バッテリーの内部抵抗によって電圧が降下するためです。
バッテリーの基礎知識
近年はリチウムイオンバッテリーが純正でも採用されるようになった
軽さが求められるSS系バイクなど、リチウムイオンバッテリーの純正採用が増えています。従来型の鉛MF型に比べて重量は約1/5で、エネルギー密度が高いのが特徴です。しかしその分取り扱いがシビアです。
14.7Vを超える電圧を掛けると壊れてしまうため、リチウムイオン専用の充電器が必須。鉛バッテリー用は16V程度の電圧を掛けるため使用できません。また高価なので、出先で入手することが難しく定期的な点検と交換が必要です。
正常なバッテリーの電圧は約12.8V以上
エンジン停止状態での電圧値は、鉛バッテリーの電圧は12.8V、リチウムイオンの場合は13V前後が正常値です。満充電状態のバッテリー単体の電圧が12Vを下回る場合は新品に交換して下さい。
エンジン運転状態は13.5 ~14V付近が正常値で、バッテリーを充電します。
バッテリー以外のパーツが不具合を起こす可能性もある
エンジン停止時はバッテリーが電源となりますが、運転時はオルタネーター(発電機)が電源となりバッテリーは負荷となって電気を受け取り、充電されます。運転時に12.5Vまでしか電圧が上がらない場合、発電から充電系統の不具合が予測でき、充電不足となります。
バッテリー上がりの簡易的な確認方法
LEDは点灯しているか?
メーターのLEDランプは低電圧で点灯します。このランプが点かない場合はバッテリー電圧が非常に低く、完全に電源電圧が不足していると判断できます。
薄っすら点く場合でも同じです。
ホーンはちゃんと鳴るか?
LEDの使われていない古いバイクは、ホーンが鳴るか確認します。ホーンの作動電圧は低いので、多少弱った程度なら鳴ります。
鳴らない場合は、バッテリー上がりの可能性が高いです。
燃料ポンプは動くか?
インジェクション車はキーをオンにした際、燃料ポンプの「ウィーン」という動作音が2秒間程度聞こえるか確認します。
ポンプが動かないと燃料噴射できずエンジン始動ができません。
セルスイッチを押したときの音である程度の判断ができる
「ジー、カチカチ、ジジジ……」→押しがけでかかる可能性アリ
「キュル…キュル…」とセルモーターが回った後に「ジジジ、ジー」が聞こえたら押しがけできる可能性アリ。燃料ポンプを回す力は残っています
「カチッ!」と1回だけ鳴る→セルモーターロックの疑い
セルモーターロック、エンジンロックの可能性があります。ギアをニュートラルにし、クラッチを握って負荷を軽くするとモーターが回るかもしれません
「……(無音)」→
バッテリー上がりの可能性
セルスイッチを押すとメーター表示がスッと消える場合などは完全なバッテリー上がり確定。新品に交換するか救援してもらう必要があります
バッテリーが上がって始動できなくなったら
ジャンプコードを使って他車に救援してもらう
接続手順は下の写真の通りの順番です。④を接続する時は火花が散ることが多いので、なるべくセルモーターに近いエンジンボディに接続するのが基本です(セルモーター本体でもOK)。もしバッテリー端子に接続する場合は、充電時に発生する水素ガスに引火する可能性があるので、換気を十分に行ってください。
始動後の外す手順は④→①への逆順になります
今時のバイクは押しがけが難しい?
エンジンの圧縮比が高く、スリッパークラッチを装備したバイクは押しがけが非常に難しいです。
グリップの悪い冬はさらに難易度が上がり、ほぼ不可能と言っても過言ではありません。
バッテリーを外す際は必ず-端子から!
ボディアースの構造になっているので、+から外すと工具やケーブルがボディに触れた瞬間、大きな火花と音を発生してショートします。
本体を壊す可能性もあるので必ず-から外します。