【元MotoGPマシンエンジニア”ANDY”の整備講座】チェーンを美しく保つメンテナンス方法
元HRCのエンジニアで、鈴鹿8耐に出場したライダーでもあるANDYが、これまでの整備やレースの経験で得てきた「本当に役立つ」メンテナンスに関わるアレコレをご紹介していきます!
PHOTO/K.MASUDA TEXT/ANDY
チェーンを美しく保つメンテナンス方法
「チェーンメンテ不要論」を提唱した張本人である私が、自身で検証した情報をお伝えします。結論は「メッキチェーンはルブ不要」「メッキ無しは防錆のためルブが必要」「ルブを掛けた直後は摩擦が低減するが持続しない」という事です。
チェーンの最も重要な可動部は、ブッシュとピンです。大きな力(最大張力は約3t)が掛かった状態で揺動を繰り返すため、潤滑不良を起こすと金属が急速に摩耗し、ピンは痩せ細り、ブッシュは穴が拡大。そして最終的に破断してしまいます。よってチェーンの性能としては、このピンとブッシュの摩擦をいかに低減するかが最も重要です。
一般的に使われているシールチェーンは、ピンとブッシュに潤滑グリスが封入されており、常に潤滑状態にあるので注油する必要がありません。その昔はメンテフリーチェーンなどと呼ばれた事もあるほどです。
シールリングによって潤滑剤を密封して機能が維持されている限り、潤滑材がシール外に出てくることはなく、外から潤滑剤を入れる事もできません。つまり、潤滑剤をピンとブッシュの間に補充することは難しいのです。また、アフターパーツに多いメッキ加工されたチェーンはサビに強いため防錆油も必要ありません。結果、ホイールなどにルブが飛び散ることなく愛車をクリーンに保てるので、信頼できるメーカーの製品はメリットが大きいです。
一方、多くの純正採用チェーンはメッキが薄く弱いため、ルブによる防錆が必用です。サビが発生するとゴム製シールがサビと擦れて切れ、中の封入グリスが漏れ出てしまいます。錆によってシールを傷めないためにも、防錆することが大切です。
「スプロケットとローラーにはルブを使った方が良いのでは?」という意見もあります。結論としては、潤滑剤があると摩擦は低減します。しかしチェーンルブを吹いた後、数十kmも走行すれば接触部分から潤滑剤は無くなってしまい、十分な効果が持続しません。自動給油装置があれば別ですが、非常に大きな張力が掛かるドライブチェーンの接触部にずっと潤滑成分が残り続けることは難しいのです。
以上が私が実際に実践し検証した結果です。ご参考に。
次に、「チェーンが伸びる」の正体はピンとブッシュの隙間の拡大、スプロケットの摩耗の2つで、金属部品が伸びる事はありません。チェーンがダルダルになり、張りの規定値を超えたら調整します。張り過ぎても緩過ぎても弊害があります。
張り過ぎているとサスペンションの動きが渋くなる、摩耗が早い、スロットル操作でギクシャクするなどの症状が出ます。緩過ぎるとチェーンが外れるリスクが高まり、チェーンとスイングアームの干渉によりスロットル開閉でドン付きが大きくなる、摩耗過多によるチェーン切れなどの症状が現れます。
チェーンは部分的に張っていたり、緩んでいたりする場合があります。その原因は、グリス切れによって摩耗した部分があったり、固着して張り方が変化したりするから。これらは不具合発生のサインとなります。
チェーン交換時期の見極め方は主に4つあります。
1:チェーン調整後、スイングアームの限度位置に調整範囲が入った=ピンとブッシュが摩耗限度に入った。
2:チェーンが弦形状にならず部分的にリンクが固着している=ブッシュ内のグリス切れ。
3:シールがボロボロで切れているのが目視できる=潤滑不良。
4:サビが全体に発生し除去できない=シールを傷める。
以上の状態を発見したら、すぐに交換してください。
愛車のチェーンのサイズを知っていますか?
プレート側面に刻印があり、520/525/530サイズが多く採用されています。ピッチは5/8インチを意味し、内幅はそれぞれ2.0/8インチ、2.5/8インチ、3.0/8インチを意味します。つまり520と530はピッチが同じで幅が異なるというわけです。
この3桁の数字が同じなら、サイズが適合しています。ただし排気量の適合は製品によってマチマチなので注意してください。
チェーンサイズを変更するメリットとは?
525→520など幅を小さくする場合、バネ下重量の軽量化と、ジャイロモーメント低減による軽快性が向上します。
チェーンが細くなる事でチェーン本体、前後スプロケットが薄くでき軽くなります。これら3部品は回転体でもあるためジャイロモーメントの低減によりさらに軽快性UPを狙えます。
チェーンの構造
チェーンは小さな部品の集合体
チェーンは鉄部品とシールゴムを組み合わせて作られています。中でも稼働部品であるピン、ブッシュ、ローラーがチェーンの動きを決める重要部品。
チェーンが引っ張られる力は最大で約3tと巨大です。
シールチェーンは潤滑グリスが封入されている
揺動により摩耗するピン、ブッシュには摩擦低減のための潤滑グリスが封入され、外に漏れ出ない構造になっています。
ゴム製シールが機能するため、外から潤滑剤を足したり、入れることもできません。
チェーンが伸びるのはピンとブッシュの摩耗が原因
金属部品が伸びる事はありません。もし伸びたなら圧倒的強度不足です。たるみが増えるのはピンとブッシュの摩耗が原因で、隙間が0.05mm広がると、120リンクの場合約6mmも長くなります。
メンテナンス方法とルブの目的
チェーンクリーナーはウエスに取るのが基本
チェーンクリーナーを勢い良く吹きかけるとタイヤなどに飛び散るのでNG。ウエスに取ってチェーンを少しずつ拭き上げるイメージで汚れを落としてください。
ブラシを使う場合は、シールを傷つけないよう注意しましょう。また、エンジンを掛けてギアを入れた状態は危険なので絶対にNG!
チェーンルブの最大の仕事は防錆
チェーンルブの目的は摩擦低減よりも防錆です。錆によってシールが切れ、密閉機能を喪失することを防ぎます。
ルブを吹いた直後は減摩効果がありますが数十km走れば効果は薄くなります。
メッキのチェーンならルブを吹く必要なし?
メッキチェーンは油分が無くても錆びませんからルブは不要です。写真は愛機ZRX1200Rのゴールドメッキチェーン。
15年間ルブを使っていませんが、キレイで良好な潤滑状態を保っています。
そもそもシールの中にルブは入っていかない
潤滑が最重要であるピンとブッシュは、シールによって密封されており新たな潤滑剤を足したり入れたりできません。
最も重要なのはシール機能を維持することです。これが寿命と性能に直結します。
チェーンの張り調整方法
一般的なアジャスターのチェーン調整手順
下は調整の手順。この後、締める手順を間違えるとアジャスターが緩んでしまいます。正しくは、1:アジャスターボルトで張りを調整→2:ロックナット締付け→3:アクスルナット締付け。特に2と3を逆にする事が多いので注意です。
張りの適正値は車種によって決まっている
調整の数値はスイングアームのステッカーやオーナーズマニュアルに記載されています。
張り具合を測る場所は、前後スプロケット間の中央部で、ホイールを回し3カ所計測します
直径10mmの工具で張りを確認する裏技
φ8mmの工具の柄を差し込み、ホイールを逆回転させアクスルシャフトのガタを詰めます。この時アクスルの真上で停止すると張りは25mmの適正値となり計測の手間が省けます。チェーンピッチ5、118リンク程度ならほぼ使える技です。