1. HOME
  2. カスタム
  3. 元MotoGPマシンエンジニア”ANDY”の整備講座/安全のために必ずやりたいブレーキメンテナンス

元MotoGPマシンエンジニア”ANDY”の整備講座/安全のために必ずやりたいブレーキメンテナンス

元HRCのエンジニアで、鈴鹿8耐に出場したライダーでもあるANDYが、これまでの整備やレースの経験で得てきた「本当に役立つ」メンテナンスに関わるアレコレをご紹介していきます!

PHOTO/K.MASUDA TEXT/ANDY
ANDY
2級整備士の二輪、ガソリン、ジーゼルの3種類すべての資格を所有するYouTuber。HRC時代はMotoGPマシンの完成車開発を担当していた

ブレーキ部品の現状把握と交換要否の判断ができるようになると、不要なトラブルを回避できる可能性をグッと高められます。安全にバイクに乗り続けるためにも、愛車のブレーキについて理解を深めて整備を楽しんで頂ければ嬉しいです。

ブレーキパッド残量の確認方法は2通りあり、1つ目はリザーブタンク内のフルード量を確認する方法です。残量がLowを下回っている場合、パッドの摩耗限界(残1mm)を超えている可能性が高いです。パッドは摩耗した分だけキャリパーのピストンが外に出るため、キャリパー内の容積が増えます。増えた分をリザーバータンクから補給するため、タンク内の残量が減ります。よってパッドの摩耗が進行していることが分かるのです。

2つ目はパッドの摩材自体の厚みを計測します。取り外して計測する方法が確実ですが、もっと簡単に測定する方法があります。それはヘックス(六角棒)レンチを差し込んでパッド残量のゲージとして使用するのです。ヘックスレンチは対辺の長さが工具のサイズとなります。よって、バックプレートとディスクの間に入る最大のサイズは何mmかを確認すればいいのです。3mmが入り、4mmが入らないのであれば、3mm以上摩材が残っていることが把握できます。また、摩材に施されたスリットは残量1mmで無くなるので、摩材の表面がフラットになった場合は1mmを下回っており、交換時期が来ていることも分かります。

次にパッド交換の際はどんな製品を選べば良いのかについてです。パッドには主にメタル系とレジン系があります。600cc以上の大型車や運動性能を重視する方はメタル系がオススメです。低温から高温まで効きが安定していて、オールマイティに使えます。ただし高価な商品が多いです。

一方、通勤など日常使用なら安価なレジン系がオススメです。レースではリアのパッドにあえて効きの弱いレジン系を使うことで、コントロール性アップを狙うライダーもいます。樹脂を使って成型しているので安価ですが、高温状態が続くと樹脂が沸騰して気化するため、摩擦のミューが下がる特性があります。その分価格はメタル系に比べて安いのでコスパ重視の方はレジン系が◎!

そして大事な大事なブレーキフルードの点検です。ブレーキトラブルの原因の多くはフルードを交換しなかったことによって劣化が進行し、各部の細いポート(小さな穴)を詰まらせることで発生します。なので最低でも3年に1回は交換したい消耗品です。

交換目安としては、リザーバータンクを開けて目視確認し、濁っていたら即交換です。また新品はほぼ無色透明に近い色ですが、劣化すると茶褐色へと変化するので、このどちらかの症状があれば交換して下さい。

より正確に計測するには、水分含有量を測って交換時期を見極める方法もあります。特に最近のバイクはABSが標準搭載となっており、ブレーキフルードはたくさんの精密バルブに触れています。万が一生成物によって詰まりが発生するとABS機能を喪失する可能性もあるので(ブレーキは効きます)、せっかくの安全デバイスをしっかりと機能維持させるためにも、ブレーキフルードの点検は重要度がとても高いのです。

加えて、ABSモジュレータユニットに不具合がある場合、部品代も手間も掛かりますから財布にもイタイです!

ブレーキは非常に繊細なので汚れが動作性に大きく影響

ブレーキシステムの内部は精密加工された部品で構成されており、特にマスターシリンダーは小さなポートをブレーキフルードが通過します。

またブレーキタッチのフィーリングを決めるピストンシールに生成物が付着すると、フィーリング悪化の原因に。

この場合はキャリパーとマスターの両方のオーバーホール必至で、とても高額な出費となります。いざ不具合が出てから対処療法を行うと、重整備になります。

ブレーキレバーを放すとピストンシールの弾力でピストンが戻る
ブレーキレバーを放すとピストンシールの弾力でピストンが戻る
ブレーキレバーを握るとピストンシールがたわみピストンが押し出される
ブレーキレバーを握るとピストンシールがたわみピストンが押し出される

ブレーキパッドの残量を確認

ヘックスレンチを使えば簡単に残量が計測できる

ヘックスレンチのサイズは対辺の長さと同じ。ディスクとパッドのベースの隙間にヘックスレンチを入れる。

入るサイズ、入らないサイズを測ればパッドの残厚が分かります。

パッドの残量は厚さ1mmが限界!

パッド残量は厚さ1mmで要交換。均一に減る事は稀で、最も薄い箇所で判断します。摩材にある溝が無くなると残り1mmですから、ヘックスレンチと目視で残量が分かります。

バックプレートが接触するとディスク交換&高額出費に。

清掃やパッド交換でキャリパーを外す際の注意点

ピストン側面をチェック汚れていれば必ず清掃

パッド交換時はピストンを押し戻すので異物があるとシールを痛める原因になることもあります。

ピストン側面の汚れやサビ、パッドのカスを取り除いてからピストンを押し戻します。

組み付ける際はディスクがパッドの間に入るのを確認

パッドとピストンの間にディスクを挟んでしまうことがあります(特に旧車)。

パッドとパッドの間にディスクがあることを確認してください。パッドの表裏も間違いやすいので要注意です。

キャリパーボルトは必ずトルクレンチで締める

トルクが高く、何度も脱着を行うボルトのため、トルクレンチで確実に締め付けます。

トルク不足は走行中の緩みに、トルク過多はメネジ破損(修正難易度高)に繋がるので要注意!

作業後はブレーキレバーを必ずポンピングする

ピストンが出てパッドがディスクに当たるまで、ブレーキレバーはスカッと全ストロークしてします。

タッチを出すためにメンテナンス後は必ずレバー(ペダル)を操作して下さい

ブレーキフルードの交換や補充時の注意点

マスターに近いブリーダーから順にエア抜きしていく

エア抜きの順序は①→②→③の順です。マスターシリンダーに近い部品からエアを抜いていきます。

③→②→①の順は配管容積に対するマスターの圧縮比が低いので、時間が掛かってしまいます

こぼした時のためにウエスなどで養生する

ブレーキフルードは塗装面を侵食してしまうので、こぼれてもいいようにウエス等で養生して下さい。

フルードは水によく溶けるので塗装面に付着したらたっぷりの水を掛けて洗えばOK

フルードの状態は直に見て確認する

フルードの交換要否判断は目視で行います。新品は透明ですが、劣化すると濁ってきたり、白い生成物が混在してきます。

リザーバータンクは半透明で分かりにくいので必ず目視して下さい。

ディスペンサーを使うとフルードをこぼしにくい

補充と抜き取りの両機能があるので、フルードを注入するにはもってこい。ハネる心配も少なく大切な愛車の塗装面に飛んでしまうリスクを下げられます。

スポイトボトルと呼ぶ事もあり。


エア抜きはレバーを握ったままブリーダーボルトを締める

「レバーを握る(キープ)→ブリーダボルト緩める→ブリーダボルト軽く締める→レバーを離す」を繰り返します。

ブリーダボルトを緩めてレバーを離すとエアが混入します。

関連記事