レーシングスーツ・革ツナギのおすすめ、そして進化の歴史
知っておきたレーシングスーツの最新ディテール
伸縮素材を使いより高い運動性を追求
革素材の裏側に伸縮素材を貼り合わせ、転倒時の耐摩擦性を高めながら運動性も高めるシャーリング。それに加え、転倒時に影響が少ない部分に伸縮素材そのものを使用し、高い運動性を実現。今は動けるスーツが基本なのだ。
どの場所に、どんな伸縮素材を使うのか。それによりデザインはもちろん、運動性能が大きく異なってくる
背中のコブで整流効果を高める
最高速の上昇にともない空力性能を求める声が高まった。そこで採用されたのが背中のコブ。ハンプと呼ばれ、カウルの中に伏せたライダーの背中を流れる空気を整えることでライダーの姿勢を安定させ、空力にも貢献。
8耐などではドリンクが中にセットされ、エアバッグなど電子制御パーツもハンプの中に収められている
市販化も始まったエアバッグシステム
保護範囲や作動方法など、メーカーによってその考え方が異なるエアバッグ。国内メーカーは、エアバッグメーカーと共同開発したシステムを使い、首周りを保護。欧州メーカーは自社開発のシステムをジャケット内部にセットしたエアバッグで肩や胸周りを保護する。
おすすめレーシングスーツその1「DAINESE D-AIR RACING MISANO」
MotoGP ライダーなどに供給されてきたエアバッグシステムのD-AIRを、市販製品に転用。ワイヤレスで作動するエアバッグが、首や鎖骨、肩の広範囲を守る、サーキット専用モデル。もちろんMFJ公認スーツだ
イタリア生まれのダイネーゼは、世界で初めて二輪ライダー用プロテクターを開発した歴史を持ち、安全性を最重要視するライディングギアづくりを続けている。それが、モトGPライダーをはじめとする多くのプロ選手に支持される理由。そしてその優れたプロテクション性能は市販品に転用され、一般ライダーでも手に入れることができる。
例えばレザースーツには、これまでモトGPで培われてきた技術を使ったエアバッグシステムのD-AIRを搭載するモデルをいち早く市場に投入したのは誰もが知るところ。
0年以上にわたって蓄積されてきたデータに基づき、ライダーがどのような動きをしたときに危険なクラッシュが発生するのかを計算し、正確に発動する。牛革のミザノ・エスティーヴァのほかに、カラーやサイズに対応するミザノやカンガルー革のムジェロも展開。
おすすめレーシングスーツその2「KUSHITANI K-0077XX VERDE SUIT」
クシタニの技術を結集したフラッグシップ。レーシングユースを前提に、優れた運動性と快適性を追求することで、プロテクターによるパッシブセーフティだけでなくアクティブセーフティも高める
おすすめレーシングスーツその3「Alpinestars GP PRO Leather suit TECH-AIR AIRBAG COMPATIBLE」
モトGPをはじめとするトップライダーのレザースーツには数年前から搭載され、欧州では14年にストリート用、16年初頭にレース用の製品版がすでに発表されていたアルパインスターズの「テックエア」が、ついに日本市場にも導入された。
外部データを用いず、車体との接続も不要な完全独立作動式のエアバッグは、アクシデント発生時に上半身を包括的に保護する設計。レース用ではライダーのマシン制御不能状態を検知してから45/1000秒、ストリート用では衝撃を感知してから25/1000秒で完全膨張して、5秒間にわたってライダーを保護する。
レース用のシステムは、再起動や充電をせずに2回まで作動させることが可能。作動させたくはないが、万が一の際の安心感は絶大だ。
バッテリーは25時間の連続作動が可能で、約6時間で満充電するベストのような形状のエアバッグ本体と、システムの作動に対応する設計が施されたアウターを組み合わせて使用する
おすすめレーシングスーツその4「BERIK LS1-10306-BKレーシングスーツ」
牛革を使用したスタンダードモデル。肩甲骨や腰、膝にシャーリングが設けられ、胸から太腿にパンチングメッシュ加工が施される。MFJ公認も取得し、レーシングユースに必要な基本性能を備える
世界中のプロライダーも愛用するイタリアのベリックには、日本の一般ライダーがサーキットデビューするのを力強く応援してくれるブランドという一面もある。というのも、ベリックを正規輸入販売するボスコ・モトでは、サーキット走行に必要なライディングギアのうちレザースーツ、グローブ、ブーツ、チェスト&バックプロテクター、インナースーツの6点をセットにして、超お得な価格で販売してくれているのだ。
あとは、ヘルメットさえプラスすればいい。もちろん、ベリック製品なので基本的な性能や機能は十分なレベル。レザースーツはMFJ公認も取得しているので、レースに出場することもできる。
走行風の整流効果を高めて、万が一の転倒時にはプロテクション効果も期待できるハンプを背中に搭載している
レーシングスーツの歴史はバイクとともに日本のレーシングスーツはクシタニから始まった
日本でレザースーツ作りがスタートしたのは1953年のこと。スズキの依頼で、ワークスライダーやテストライダーのために、上下が繋がった革製のワンピーススーツを、革製品の製造販売を行っていた櫛谷商店、現クシタニが製作してからである。
英国製のワンピーススーツを参考に国内初のワンピースレザースーツを作り上げるため、クシタニは仔牛の革を使用した。それは薄く軽いうえにキメが細かく、また伸縮性にも優れていた。日本メーカーと契約した外国人ライダーが契約のために来日すると、その足で櫛谷商店にやってきて採寸、完成したスーツを着て世界GPを戦った。
伸縮素材を一切使用していないにもかかわらず、小さなカウルに身体を押し込んでも、そのスーツはライダーにピタリとフィットしライディングを妨げないことから「クシタニは凄い」と、瞬く間に世界のトップライダーたちに浸透したという。
ライディングスタイルの変化に合わせてレザースーツも進化する
そしてライディングスタイルの進化によって、レザースーツも一気に進化。まずはプロテクターだ。身体をコーナー内側に大きく傾けるハングオフスタイルの構築により膝や肩、肘に樹脂製のプロテクターがセットされ、また身体を左右に大きく動かしても運動性を妨げないようシャーリングが採用されていった。
1色のレザースーツでは見分けがつかない。そんな理由から国内レースでは2色以上を使い、ライダーの個性を求めた。革の厚さを決め安全性を高める努力がなされたが、キルティングパットや樹脂プロテクターなどの装着は、ライダーの好みに委ねられていた
近年のレザースーツでは、より広い範囲にシャーリングや高い耐久性を持つ伸縮素材を使用し、ボディコンシャスなシルエットながら、極めて高い運動性能を発揮できるようになった。もちろん転倒時には衝撃を吸収するだけでなく、路面を滑走した際にどのような保護性能が必要か、革の耐摩擦性能も徹底的に研究されている。80年代終盤にパンチングメッシュが登場したときには、さらに慎重にテストが繰り返されたという。
レザースーツの進化は止まらない
プロテクターに対する考え方も、日々進化している。肘、肩、膝から背中、胸など保護範囲の拡大に加え、樹脂プロテクターや衝撃吸収素材、そしてエアバッグと、保護方法も多岐にわたり、そのオペレーションも日進月歩だ。現在のモトGPでは、エアバッグを採用するメーカーのエンジニアがPCを使い、走行前に各ライダーのシステムを起動させるのが普通の光景になっている。
革という天然素材をベースにしながら、コンピュータ制御のエアバッグに採用される最新機器と永年培ってきた安全に対する深いノウハウを緻密にミックスしながら、レーシングスーツはこれからも進化していくだろう。