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安全性への飽くなき探求心! 『ヒットエアー』エアバックの無限電光に中野真矢が訪問

転倒時にライダーの体を護るエアバッグは、レースの世界ではかなりの勢いで普及している。無限電光の「ヒットエアー」は、その先駆け。2001年から販売を続けているものの、公道での普及はまだまだだと言う。

ユーザーファーストの姿勢からエアバッグは生まれた 本音で語る。とことん語る。TalkingGrid Shinya Nakano Presents

中野 お世話になっております。ホントのこと言うと、あまりお世話になりたくありませんが(笑)。
竹内 ははは、その通りですね。

中野 無限電光はエアバッグ「ヒットエアー」で知られています。私も56レーシングのヤングライダーたちに使わせていただいているんです。

竹内 MFJの公認レースでは、20年から18歳以下のライダーにエアバッグの着用が義務付けられていますからね。 鈴鹿サーキットやツインリンクもてぎでは、地方選手権レースやスポーツ走行時に22歳以下の装着が義務付けられるなど、着用の義務化がどんどん推し進められています。

中野 モトGPでは18年から着用が義務付けられていますよね。転倒後にレーシングスーツが膨らんでいるシーンをよく見かけます。 私の現役時代にはなかった光景ですよ。「時代は変わったなあ」と思いますし、それだけ効果も高いってことなんでしょうね。

竹内 ライダーの体を守るという意味では、間違いなく安全性を高める装備だとは思います。 ただ、もちろん完璧なものではありません。レースを実験場にするつもりではありませんが、転倒が多いから知見が蓄積しやすいのは確か。サーキットでの経験を生かしながら、もっともっと安全性を高めていかなければ、と強く思っています。

無限電光 竹内貴哉さん Takaya Takeuchi
海外への語学留学などを経て、24歳で父の会社である無限電光に入社。工場での製造を経験し、現在は製造管轄、レーシングサービスや広報など幅広い業務にあたる29歳。ライダーの命に関わる仕事だけに、冷静な安全性追求意識を持っている

中野 ヒットエアーはバイク用エアバッグの先駆けですよね。もともと無限電光は電気工事の会社だった、と伺っていますが、どういうきっかけでバイク用エアバッグ作りを始められたんですか?

竹内 僕の父が無限電光の社長を務めているんですが、若い頃から乗り物好きで、バイクでもいろいろな経験をしたようなんです。バイクの危なさを身に染みて分かっていたんですね。自分で何かを作ったり発明したりするのが好きなこともあり、「どうにかバイクの安全性を高めたい」という思いで、エアバッグの開発に着手したようなんです。

Navigator:中野真矢
’77年生まれ。千葉県出身。MotoGPやスーパーバイク世界選手権で活躍。現役引退後の’12年、自身のチーム「56レーシング」を発足し、若手ライダーの育成に力を注ぐ。ライダーたちは無限電光のエアバッグ「ヒットエアー」を着用している

中野 それが’95年とのことですから、今から26年前。今ほど周囲の理解はなかったでしょうね。

竹内 ええ、まったく。「安全装備?そんなものいらないよ」と言われてしまうような時代でしたからね。社長は多額の借金をこしらえたりして、相当苦労したようです。幸い僕はまだ幼かったので、よく分からなかったんですが(笑)。

中野 バイク業界には不思議なところがあって、安全装備に関してはなぜか後手になりがちなんですよね。これは反省点でもあるんですが……。

竹内 分からないこともないんですよね。何となくですが、「安全、安全というのはカッコ悪い」という雰囲気は、バイクに限らず趣味の世界ではよく見られます。リスクにチャレンジする姿がカッコよく見えるのは確かですしね。

中野 バイク乗りはその傾向が結構強いような気がします……(笑)。でも、実は大間違いなんですよね。バイクは安全あってこそ、です。レースって相当アグレッシブに攻めているように見えますが、高い安全性が担保されているサーキットだからこそできることです。

さらにエアバッグのような安全装備を着用すれば、転倒した後もまたすぐ走れる可能性が高くなる。ウチのチームのヤングライダーたちも、さっき大転倒したかと思ったらすぐまた走ってる。「おいおい、さっき転んでなかった?」って(笑)。

でも、これがものすごく大事なんです。たくさん走ることが、速くなるための出発点。安全装備によってより少しでも多く走れるようになるなら、使わない手はありません。エアバッグを作るお仕事だと、「助かりました」と感謝されることも多いんじゃないですか?

竹内 ありがたいことに、非常に多いです。弊社に届いたメールや手紙はすべてファイリングしてあるんですが、1000通はありますね。
中野 そんなに! やりがいのある仕事ですね。

竹内 はい! お客さまにこんなに感謝していただける仕事って、他にはないんじゃないかと思います。すごく使命感を持って仕事に向き合えるのは、ありがたいことです。でも一方で、やはり命に直接関わる仕事ですからね。緊張感は忘れないようにしています。

ヒットエアーのエアバッグは自社工場で生産していて、信頼できる腕利きのオペレータたちが手作業で組み立てています。品質には自信を持っていますが、「何かあったらどうしよう」というヒヤヒヤ感は消えたことがない。緊張感というより、恐怖心に近い気持ちが常にありますね。

中野 エアバッグ作りに真摯ということですから、ユーザーであるこちらとしてはありがたいんですよ。56レーシングではヤングライダーたちを育成していますが、安全装備ひとつでも彼/彼女らの将来を大きく左右するわけですからね。竹内さんには緊張を強いて申し訳ないですが(笑)、今後もその調子でぜひよろしくお願いします。

竹内 ええ、もちろんです。

ジャケットの上から着用する一体型エアバッグ・ハーネスタイプ

MLV-C(4万1800円):ジャケットの上から羽織るタイプ。コンパクト設計でジャケットへの干渉を抑えている。アジャスターでサイズ調整でき、シーズンを問わず着用可能だ

ジャケットそのものにエアバッグ機能を内蔵したタイプ

MX-8(4万9500円):自然な着用感ながらエアバッグシステムを内蔵し安全性の高さを発揮するモデル。肘、肩、脊髄パッドを標準装備し、胸部パッドもオプション装着できる

使命感と緊張感の両方を強く感じている(竹内)

中野 レースでの普及を起点にして、最近では各メーカーがいろんなスタイルのエアバッグをリリースしていますよね。ヒットエアーの利点はどこでしょうか?

竹内 ヒットエアーは、エアバッグを着用したライダーとバイクをワイヤでつなぎます。万一転倒してライダーとバイクが離れるとワイヤを介して安全ピンが外れ、瞬時にエアバッグが展開する仕組みです。機械的な作動で、シンプルかつ信頼性が高いのがメリットですね。

もうひとつ挙げられるのは、コスト面でしょうか。これは社長のポリシーなんですが、「より多くのライダーができるだけ平等に恩恵を受けられる製品でなければならない」と。ヒットエアーは構造としてはシンプルですから、コストを抑えて作れることも大きいです。ただ、「ワイヤは面倒だ」というご意見があるのも確か。よりユーザーフレンドリーな製品になるよう、開発は続けています。

中野 そうやって企業努力をしていらっしゃるし、レースでは装着が義務化されているし、エアバッグは公道ライダーの皆さんにもどんどん普及しているのでは……?

竹内 残念ながら、僕たちのアピール不足もあって、まだまだなんですよ。公道でももっと多くのライダーに使っていただきたいんですが……。
中野 ライダー側の安全意識も高まらないといけないですよね。

竹内 クルマに乗る時は、シートベルトを着用するのが当たり前になったように、バイクに乗る時はエアバッグが当たり前、という時代になってほしいと思っています。

中野 レースで言えば、昔のレーシングスーツやブーツはペラペラでしたからね。だんだんゴツくなって、最初は違和感があったけど、今やそれナシじゃ心配で走れたものじゃありません(笑)。
公道でも胸部プロテクターが浸透しつつありますし、エアバッグもどんどん普及していくはず。大変だと思いますが、頑張ってください。

竹内 いやぁ、僕の大変さなんて、先駆者の社長に比べたら大したことないですよ(笑)。
中野 その心意気で、ぜひ!

ヒットエアーを初体験する中野さん。瞬時に展開して首、背中、尻、そして脇への衝撃を緩和するエアバッグの効果の高さにビックリ。転がってみても首から尻にかけてまったく接地せず、「これは安全だ!」と感心しきり
56レーシングのライダーたちは、レース本番ではレーシングスーツ内蔵型を、練習では一体型エアバッグのレース専用モデルを着用。サーキットでは一般的となったエアバッグは、公道でもじわじわと普及している

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