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【History Bikes/~MOTO GUZZI V85TT~】他の何にも似ていない独自のスタイル

※この記事は過去に掲載された記事を再編集した内容です。

身も心も癒してくれる愛すべきゆるキャラ的存在17年のEICMAでコンセプトモデルが披露され、昨年正式に公開されたモト・グッツィのアドベンチャーモデル「V85TT」が日本に上陸した。これまでの流れと明らかに異なるのは、モト・グッツィというブランドを選択肢に入れたことがなかった新しいユーザーを獲得していることだ。実際すでに多くの受注を集めているという。

80年代スタイルのネオクラシック

最大の要因はデザイン性だろう。いわゆるアドベンチャーにカテゴライズされるモデルながら、モト・グッツィ自身はこれを「クラシックエンデューロ」と呼ぶ。

スクランブラーにしろ、カフェレーサーにしろ、ネオクラシック系のスタイルが花盛りとはいえ、モト・グッツィはそのテイストをアドベンチャーに持ち込むという斬新さを発揮。その意表を突いたアプローチに心をつかまれた人がかなり多い。モト・グッツィ、してやったりである。

ただし、単なる思いつきではない。実はモト・グッツィは1980年代にパリ・ダカールラリーに参戦している。1985年のV65、そして86年のV75がそれで、今回のテスト車両がまとっているサハライエローの車体色は、その時の外装デザインをモチーフにしている。

つまり、クラシックエンデューロを名乗るだけの、れっきとしてヒストリーを持っているのだ。

レトロな見た目と現代の技術の融合

装備単体で見ていくと、明らかにクラシックなのは大型の丸目2灯ヘッドライトくらいなのだが、逆に言えばそれだけで80年代に見える強力なアイテムだ。 一方で、光源自体は最新のモデルらしくLED化されている。メインキーをオンにすると、その中央部に鷲のカタチが浮かび上がるなど、心憎い演出も光る。

ライト類とウインカーはすべてLED化。ウインドスクリーンは角度を2段階に調整できる


車名の由来は、「850cc(正確には853cc)のV型エンジン」から成り、そこにイタリア語ですべての地形を意味する「TUTTO TERRENO」を加えたものだ。

実際、フロントに19インチホイール、リヤに17インチホイールを採用し、そこにミシュランのトレールタイヤ「アナキーアドベンチャー」を装着。エンジンにはアンダーガードも備え、不整地での走破性の向上が図られている。

もちろんロングラン性能も抜かりはない。燃料タンクは21Lの容量が確保され、満タンで400km前後の走行が可能だ。

V9のエンジンをベースに改良が施されたエンジンは、空冷OHVながら80hpの最高出力を発揮。低回転の鼓動と高回転の伸びを両立

角度が可変するウインドシールド、2km/h毎の速度調整が可能なクルーズコントロール、大型のグラブバーなどが標準装備されている他、オプションも豊富に展開。特にトップとサイドのアルミケースは幾種類かあり、ツーリングを快適にする大型のケース(写真)からタウンユース向けの小型のものまで、ラインナップする。

オプションで両サイドとトップのケースを用意。容量は最大で119リットルに達し、利便性が向上

エンジンモードは3種類

トラクションコントロールとABS、スロットルレスポンスを統括するエンジンモードには3パターンが盛り込まれ、電子デバイスも充実している。それらの情報はフルカラーのTFTディスプレイで確認することができ、現段階で物足りなさがあるとすればグリップヒーターが付いていないことくらいだろうか。

139万8600円~142万5600円という車体価格は、ミドルクラスのアドベンチャーの中ではリーズナブル、あるいはコストパフォーマンスに優れていると表現して差しつかえない。ヨーロピアンメーカーに対してはもちろん、国産勢を含めても高い競争力を持ち、そのこともモトグッツィファン以外から注目を集めている要因だ。

TFTカラーディスプレイを装備。スマートフォンやインターコムと接続し、電話の発信や応答、音楽再生も可能だ。エンジンモードはROADとRAINの他、OFF-ROADも設定。ダートでのトラクションコントロールは最小限になり、リヤのABSはキャンセルされる

さて、肝心の乗り味だが、自然と顔がほころんでくる穏やかさにあふれている。空冷OHVの2気筒エンジンはV9シリーズから派生したものながら、チタン吸気バルブ、軽量ピストン、シリンダーヘッドの設計変更といった多岐に渡る改良が施され、80hp/7750rpmの最高出力を発揮。

V9のそれが55hp/6250rpmゆえ、まったく別モノになっていることが分かる。高出力&高回転化によって、モト・グッツィらしい牧歌的なフィーリングが失われたのではないか? ただスムーズなエンジンになったのではないか? そういう不安の声を何度か聞いたが、心配はいらない。

アイドリング+αの領域で発するドコドコとした鼓動感はむしろ増え、エンジンにまたがっているというタフなイメージを演出。そこから少しスロットルを開け、3000~3500rpmも回っていれば、ほとんどの場面をカバーするフレキシビリティが心地いい。

いざ回転数を上げていくと鼓動が徐々に相殺され、それが車体のスタビリティに変換されていく。低回転で刻むビートを楽しむか、中高回転でまろやかさに包まれるか。いずれにしても、その車上では「これぞ、モト・グッツィ!」と言える、癒しの時間を過ごすことができる。

サスペンションも終始おおらかさな動きを崩さず、ねっとりと張りつくような乗り心地が特徴だ。スロットルに対して間髪入れずにダッシュするようなレスポンスや、シャープなコーナリングを求めるなら他に選択肢がいくらでもある。

V85TTの美点は車体のサイズ感にもある。どんどん巨大化するアドベンチャーの中にあって、平均的な日本人の体格にフィット。830mmのシート高は良好な足つき性をもたらし、引き起こしや取り回しでもストレスはほとんどない。

そのため、フラットダートならそれほど身構える必要はなく、それをサポートしてくれるのが、エンジンモードの「OFF-ROAD」だ。

これを選択すれば、スロットルレスポンスが一段と穏やかになり、エンジンブレーキが増大。反面、トラクションコントロールの介入度が減少し、ABSはフロントだけが機能するため、より積極的なライディングを可能にしながらもパワーが過度に出過ぎない、絶妙のセッティングに切り換わる。

フロントにφ41mmの倒立フォーク、リヤは車体右サイドにモノショックを装備。 いずれもプリロードと伸び側減衰力の調整機構を備える
フロントにφ41mmの倒立フォーク、リヤは車体右サイドにモノショックを装備。 いずれもプリロードと伸び側減衰力の調整機構を備える
フロントにφ41mmの倒立フォーク、リヤは車体右サイドにモノショックを装備。 いずれもプリロードと伸び側減衰力の調整機構を備える

日常もツーリングもちょっとした冒険気分も満たし、扱いやすく、テイスティで、ライフスタイルに対するこだわりを強く感じさせるモデル。それがV85TTというバイクである。

それが現実的なプライスタグを掲げているのだから、ヒットは約束されたようなもの。19年は、モト・グッツィのシェア拡大とイメージの変革の年になりそうだ。

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