電子制御時代の寵児! アプリリア RSV4 1100 Factoryのスゴさを宮城 光 が解説!
2008年、アプリリアは翌シーズンのWSB参戦を発表したが、その時点で同社にはベースとなる市販車は存在せず、お披露目されたのはレース仕様のRSV4だった……。もちろん後に09年モデルの市販RSV4が登場するのだが、そんなストーリーからもこのバイクの特異性が垣間見える。それから10年を経て、RSV4は排気量を拡大、最新の空力デバイスも装備した「RSV4 1100 Factory」として、新たなシーズンを迎えた。しかし、アップデートを重ねつつも大きく路線変更を行わずに、10年を超えて存在し、古さを感じさせないスーパースポーツなど、他に無い。その魅力と真実を、RSV4を愛して止まない宮城 光が語る。
驚異的な長寿を支える秀逸なエンジニアリング
僕のRSV4は12年モデル。この5月に3度目の車検を受けて、8年目に突入。11年後半に本誌の企画で試乗した際に、猛烈に気に入って手に入れて以来、ずっと乗り続けているのは僕の連載(東京ハイスピード)でご存じの読者も多いだろう。とはいえ仕事柄、最新のスーパースポーツはもれなく乗っている。それでもRSV4は乗り替えを意識せず、丸7年乗って何ら不満が無い。
SPECIFICATIONS RSV4 1100 Factory
その魅力のひとつ目が「シャシー」。コレが抜群に良くできている。ふたつ目は「エンジンの爆発間隔」だ。かつてホンダファクトリーライダーだった時のNSR500は2ストロークⅤ型4気筒で、当時はプライベートでもRC30(VFR750R)に乗っており、僕は基本的にⅤ型4気筒の爆発間隔やトラクションのフィーリングが大好きなのだ。
そして3つ目が「電子制御」。じつは僕が試乗した11年モデルからAPRC(アプリリア・パフォーマンス・ライド・コントロール/トラクションコン、ウイリー、ローンチコントロール、クイックシフター、マップ切り替えなどを統括したシステムの呼称。このモデルに向けてドイツのボッシュ社が世界初の二輪用IMUを開発したといわれる)が装備されたが、毎シーズンのようにアップデートされ、つねにライバル車を上回っている、と僕は感じている。
4つ目はサスペンションで、RSV4(上級モデル)はずっと前後共にオーリンズを装備しており、この秀逸さは誰も異論がないだろう。そして最後は、エンジン搭載位置やスイングアームピボットの高さ、キャスター角まで変えられるアジャスト機能。じつはここまで調整可能な車体を持つバイクは、純粋なレーシングバイクでも存在しないのだ。
この5つのパッケージが揃ったバイクを、僕はRSV4の他に知らない。つねに最新タイヤのトレンドやパフォーマンスに合わせたハンドリングを、アップデートによって実現しているのだが、じつは他メーカーのような大幅な変更(エンジンの形式やレイアウト変更、フレーム形状やサスペンションの方式など)は行っていない。
にも関わらず、しっかりと時代の要求に応えて毎回キッチリと正常進化しているのは、元々のエンジニアリングが際立って優秀なのだと思うし、大いに評価すべきポイントだろう。だからこそ僕のRSV4も、7年乗っても古臭さなど微塵も感じないのだ。
扱いやすさを重視し排気量を拡大
そして19年モデル。空力デバイスはファクトリーマシンRS・GPを踏襲した最新デザインだし、オプションでは、やはりファクトリーマシンと同デザインのカーボン製ブレーキ冷却ダクトも用意。この進化はファンにはまことに嬉しいトコロ。
空力デバイスを標準装備
そして1078㏄に拡大された排気量。このV4エンジンは元々低回転域からトルクがシッカリしているが、1100はいっそう顕著……というより物凄い! 無駄に高回転まで回さなくても十分以上に加速する。パワーにおいても〝確実に〞200馬力を超えているのを体感できる。
もう、本当にこれ以上のパワーの必要性を感じないし、アプリリアならではの秀逸な電子デバイスでなければ、このパワーに制御が追い付かず、生半可なデバイスだったら遅れて介入した後に大きな反動が出るのではないかと思う。
それくらいアプリリアの電子制御は〝いちばん最初のトコロ〞を検知して、後追いではなくキチンとリアルタイムでコントロールしているように感じるのだ。とはいえ1100は、あまりのパフォーマンスの凄さゆえに、スロットルを開けて走るには、ライダーのフィジカル的な能力もふくめて相応にスキルが高くないと難しい。コレは誤解されると困るし、変な表現で恐縮だが〝普通には乗れるけれど、100%の性能では乗れないよね〞という感じだ。
スーパースポーツでもっとも優れた制御を搭載
エンジン搭載位置や車体のディメンションをアジャストできる
さらに1100に標準装備されるユーロ4対応のアクラポヴィッチのマフラーは、良い音が、しっかりライダーに伝わってくる。敢えて個人的に気に入らない点を挙げるなら容量を増して大きくなった燃料タンク。僕のRSV4の方がシャープで気に入っている。だが、コレはまったく好みの部分なので、評価の対象ではないけれど(笑)。
驚異的な長寿と最新プロダクトの融合。10年経っても古さを感じないRSV4は、スーパースポーツのベンチマークとして、これからも存在し続ける、と僕は確信しているのだ。