フロントフォークをみればバイクのキャラクターが分かる!【今さら聞けないバイクのギモン】
フロントフォークの角度についての基本
トレールとはタイヤの接地点とステア中心軸間のこと
上の図で表されているのが、トレールと言われているところ。フロントフォークが回転する軸であるステア中心軸をキャスターという角度をつけてセットし、前輪の接地点より前方にずらすことにより、トレール量を設定する。このトレールが、バイクの直進性や旋回の安定性を生んでいる。自分のバイクのトレールはどうなっているか、スペック表で一度確かめてみるのも面白い。
カテゴリーによってキャスター角もさまざま
スーパースポーツやネイキッド、アメリカンといった各カテゴリーごとでハンドリングに特徴がある。その特徴の一端を担っているのがキャスター角だ。俊敏なYZF-R1と直進安定性の強いハーレーのVRSCFを比べるとキャスター角に10度の違いがあり、それがそれぞれのバイクのキャラクターを決めている。
「バイクによってフロントフォークの角度が違うのはなぜ?」
フジタ/ワタクシ最近、資料を調べているうちに気になるコトがありまして。
先生/ンンッ?そのニヤついた顔には、専門的なこと聞けそうなきっかけ仕込めた、背伸び魂胆フル充電しちまった感が漂ってるけど……。
フジタ/ヒ、ヒドイこと言わないでくださいヨ。これでも一日も早くマニア度を高めようと努力してるんですから。
先生/ほらナ、キミの中間カット近道探そう行動は、分かりやすいったらないんだもの。
フジタ/何と言われようとイイです。で本題ですが、アライメントとハンドリングの関係を聞かせてください。
先生/アライメントか、それってバイクのどこを見てそう思ったの?
キャスター角とハンドリングの関係?
フジタ/キャスター角です。スーパースポーツの歴史をチェックしていると、フロントフォークが年代を追うごとに立ってきていますよネ。GPマシンも同じで、スペックを調べるとわずかな違いを試行錯誤しているみたいじゃないですか。
先生/フンフン、また随分とムズカシイところに興味がいっちゃったんだナァ。確かにフロントフォークの斜めになった角度が、どんどん立ってきた時代はあった。それがどんな違いを生んでいると想像してるワケ?
フジタ/つまり立ってる、浅いキャスター角ほど曲がれるバイクへ進化してるように思えるんです。
先生/正解! それじゃ、今回はそういうことで終了。
フジタ/待ってくださいよ〜。そんなにイジメなくても……。
先生/ゴメン、ゴメン。本当はキャスター角が浅くなるほど、曲がるって機能だけで言うと、むしろ曲がらない側に働きかねないんだ。
フジタ/ゲッ、何ですかソレ。イメージと逆だなんて、スペック見てたときは完全にコーナリングマシン度合いと比例してたのに。
先生/それじゃ聞くけど、キャスター角って何のために斜めにしてるの?
フジタ/「……」
二輪車の歴史からキャスター角を考える
先生/まず基本の理屈から覚えよう。大昔の自転車って、前輪が大径でそこに漕ぐペダルが直結してた。後ろに小さな径の車輪が付いていたけど、舵を切って方向を変えるのと駆動するのは大径の前輪に集中してた。分かりやすく言うと、一輪車だと加速や減速で前後に乗り手が揺すられる。それを安定させる補助輪として小さな後輪が加えられた。
ところがスピードを出せるギヤとチェーンの組合せが登場すると、前輪駆動ではどうにも曲がりにくい。それで後輪を駆動する構成が考えられた段階で、とんでもない発明があったんだ。二輪車ってスピードが出ると車輪を傾けて曲がるよネ。コレ動輪と従輪の組み合わせが必然でネ、前輪を従輪にすると、傾けたときうまくバランスできることに気がついた。
つまり、後輪が旋回で描く軌跡を妨げないよう、前輪がその旋回軌跡に沿ってわずかに内側を向くことで、スムーズに曲がっていけるのを発見したってワケさ。
フジタ/ンー、ンー、なるほど。前にライテク本で見た前後輪を両側から2本のパイプで固定すると、傾けたときそれぞれの旋回軌跡を生じようとしてお互いに打ち消し合って曲がれない、だから前輪のほうに舵角がつけられるようにしているアレですよネ。
先生/まァ、そんなところだ。大事なのは、車体が傾いたとき、後輪が描こうとする旋回軌跡にすぐさま反応する前輪が必要ってコト。それと真っ直ぐ走ってるときは、直進安定性も欲しい。このふたつの機能を与えたのが、キャスター角とトレール量なんだ。自転車だとフォークの下のほうを前に曲げて、前輪の接地点とステアリング軸とのズレを与えているのだけど、バイクはフォークそのものを傾けて装着している。
ところで、キャスター角がつくと何で直進安定性が出て前輪がフラつかないんだと思う?
キャスター角がつくと直進安定性が出る理由
フジタ/ンー、ンー、ンー。
先生/ステアリングヘッドに、重い車重が載ったとき、前輪の接地点から最も遠い位置にステアリング軸の動きの中心が行こうとする。つまり車体から見ると舵が切れていない真っ直ぐ前を向く方向ってことになるだろ?
フジタ/オ〜、そうだ! それが直進性なんですネ。だからアメリカンのように、ハイウェイを真っ直ぐ走ることが多いジャンルのバイクは、フォークが寝てキャスター角がきついんだ。正直に言います。あれはチョッパー・デザインのために、斜めの角度を強くしてあるんだと思ってました。
先生/間違ってばかりもいない。じつはデザインの意味もあるんだ。それじゃ、車体が傾いたとき前輪が内側を向きやすいのも、この斜めのステアリング軸ってのも分かる?
フジタ/確かに。ゆっくり走ると分かりますが、車体が傾くとグラッと前輪が内側へ切れようとします。オヤ?するとアメリカンは曲がりやすい……。ク〜、何だか頭の中が混乱しそうデス。
先生/まァ聞けヨ。このフォークを斜めにすることで、直進時に前輪が前を向こうとする復元力と、車体を傾けたとき素早く舵角をつける性質とを、うまくバランスさせるのに、フォークをステアリング軸からズレた位置にマウントするブラケット、三つ股とか呼ぶよネ。ここの前方に突き出すオフセット量でトレールと呼ばれる接地点とのギャップが調整できるんだ。
フジタ/なるほど、それで同じ25度のキャスター角でも、96ミリとか110ミリとかの違いが出せるんですネ。
先生/そう。でもいずれにせよ街中の右左折くらいのスピードだと、キャスター角が強いと真っ直ぐも安定するし、曲がるきっかけを与えると前輪に舵角がつきやすく良く曲がる。ところがスピードが出てくると、この関係がガラッと変わってくるんだナ。速度の高い、慣性力が強くなる領域になると、今度は軽快に素早くバンクして車輪の旋回力で曲がれる能力を引き出せる。そうなるとキャスター角は浅いほうが、車体を傾けるときの運動性が優位になるんだ。
フジタ/な〜るほど、自分が編集の資料探しで見つけた立ったフォークというのは、実はリーンのしやすさを狙ったものだったんですネ。
過去のレーサーはキャスターを極端に立てていたことも
先生/懐かしいナァ、22度とか極端に立ったフォークのマシンもあって、そんな競争めいた時代もあった……。このリーンする運動性、ロール方向の動きに着目している時代は、前輪も16インチに小径化することで、さらにロールしやすくする傾向もあった。
フジタ/ホンダVT250とか、ニンジャ900なんか、ですよネ。GPマシンもガンマやNS500とか、16インチ全盛だったじゃないですか。
先生/レーサーは、実は軽快性を狙ったというより、フルブレーキやコーナリング中のグリップ力アップを狙って、フロントタイヤそのものを太くワイドにしたんだ。外径をあまり変えずに、トレッドをワイド化すると、ホイールのリム径を小さくすることになるだろ?
市販車は前輪タイヤを太くすると乗りにくいから、細いまま小径化してたんで、極低速になるとホイールのジャイロ効果がなくなって、不安定だったんだ。それまで大型バイクは、前輪が19インチとか後輪より大径で、高速の安定性や低速でもジャイロ効果が持続できる、そんな乗りやすさが常識だったから、まさに意識改革といえる激動期。でもいまさらこの組合せが見直されてたりするけど。
フジタ/つまり、キャスター角だけでアライメントを語るなってことですネ。
先生/そう、色々な試行錯誤でフロントの設定は概念が安定しつつある。でもいまはリヤのアライメントで、色々と試行錯誤が繰り返されてるんだ。
リヤのアライメントも時代とともに変化している
フジタ/リ、リヤって、そうか、スイングアームの垂れ角ってヤツ、どこかで読んだ記憶があります。
先生/クーッ、やっぱオタクだなァ。でも垂れ角がアライメントではなくて、スイングアームの付け根、フレームのスイングアームをマウントしているピボットとドライブスプロケットの位置、それと後輪のドリブンスプロケットとの位置関係のことだと思えばイイかな。ところでアンチスクワットって聞いたことあるだろ?
フジタ/この編集部じゃ、日常的に飛び交ってます。でも正確には何の意味だか分かっちゃいません!
先生/何エバッてんだよ。じゃ、バイクは加速するとリヤサスは沈む?
フジタ/そこは知ってます。フロントフォークが伸びることでリヤが沈むように錯覚しがちだけど、実は路面に対して押しつける側に作用してるんですよネ。
先生/そう、加速でリヤサスが沈んだら、コーナリング中にスロットル開けると後輪が一瞬路面から離れようとして滑っちまうもんナ。でもエンジン側のドライブスプロケットがチェーンを引っ張って駆動しようとすると、スイングアームのピボット位置が低かったら、手前に引かれてリヤサスが縮む方向に動こうとしてしまう。スクワット、つまりしゃがみ込む動きになるよネ。そこで以前は、駆動力がかかっても沈まない、アンチスクワットでバランスする位置に、スイングアームのピボット位置を設定してた。
ところがタイヤのグリップ力が強大になって、コーナリングフォースでリヤサスが深く沈むようになった。万一のスリップしたときのリカバーや、ライダーがコントロールしやすいようピッチングモーションも考慮して、ロードレースでもリヤサスのストロークが長くなったことと相まって、高速コーナーだとかなり深く沈む。そうなると、後輪とピボットのアングルが、駆動がかかると沈む側に作用する位置関係になってしまう。
フジタ/オオッ、確かに深くストロークしたら、沈む方向に引っ張られますよネ。そうか、コーナーの速度によってサスが縮むからアンチスクワット効果がなくなることがあるんだ……。
先生/だからピボット位置をあらかじめ高くしておく必要がでてきたってワケだ。ただドライブスプロケットに対しピボット位置が高いと、チェーンがスイングアームの上縁に当たってしまう。そこでいまどきのスポーツバイクには、スイングアームの車体に近いピボット周りの上縁に、樹脂製の長いチェーンスライダーが貼ってあるよネ。
フジタ/ハイハイ、あれってチェーンガイドなんだろうと思ってましたが、アンチスクワットでスイングアームにチェーンが擦れるのを防いでいるんですか。
先生/で、レースだと中速コーナーと高速コーナーでアンチスクワット効果が違うと、ライダーはスロットルを開けると強く曲がれるコーナーと、開けてもグリップのきっかけが弱いコーナーという違いを前提に乗らなきゃならない。その差を少しでもなくそうと、スイングアームを伸ばす傾向がこの30年間続いてきたんだ。もちろんホイールベースが長くなったら旋回は小さくならない。
短いホイールベースでスイングアームを伸ばすには、エンジンの前後長を縮めるしかない。なのでクラッチを上にマウントして、クランク直後にドライブスプロケットを配置できる、トランスミッションを上下に位置させたエンジン構成にほとんどのスーパースポーツが変わりつつある。
フジタ/なるほど、それでスイングアームがやたらに長く、エンジンが超コンパクトなマシンが増えてるんだ……。
先生/他にも前輪荷重や重心位置など、色々な意味も込めてアライメントは設定されているんだ。エンジニアにとって、答えのない宝探しのようなものというほどまだまだ進化するネ。
「NSR500」と「RC212V」のスイングアームを比較
スイングアーム長を稼ぐために、クラッチやトランスミッションの位置を変更するなど、さまざまな工夫が凝らされてきた。今見ると、非常に古臭く感じるNSR500(ストリップは’86年式)の車体構成だが、ご覧のとおりスイングアームはできるだけ長く取られているのが分かる。いまから25年前でも、より安定して速く走るために求めるものは同じだったのである。その結果、現在のレーシングマシンのスイングアーム長は、写真のように驚くほど長い。
Lツインエンジンの大きさをカバーするドゥカティの工夫とは?
前後に長いLツインエンジンを採用しているドゥカティは、ホイールベースを短くしながらスイングアームの長さを稼ぐために工夫をしてきた。フレームではなくクランクケースに直接スイングアームを取付けていたのはそのため。1199パニガーレが採用する超コンパクトなスーパークアドロエンジンになり、クランクケースからスイングアームのマウントが消えた。