Moto2を体感できるレプリカモデルが限定販売ーTRIUMPH DAYTONA Moto2 765ー
『TRIUMPH DAYTONA Moto2 765』 トライアンフのスーパースポーツであるデイトナが帰ってきた。’19年からMoto2のエンジンサプライヤーになったトライアンフは、多くのラウンドでレコードタイムや最高速を更新している。NewデイトナMoto2™ 765は、まさにMoto2のレーサーレプリカそのものだ。しかし、そのポテンシャルを楽しめるのは限られたオーナーのみなのだ。 今回は、2019年に話題となったモデルを振り返る企画として、NewデイトナMoto2™ 765の発表会の模様とその魅力にせまる。イギリスではすでに完売し、日本では100台ほど導入され2月に発売予定となっている。
市販車で育まれMoto2で強さと速さを手に入れた3気筒エンジン
Moto2を体感できるレーサーレプリカがトライアンフから限定販売
「これはデイトナのファイナルステージなんです」。今後、限定モデル以外のデイトナはリリースしないんですか? との質問に「リリースしません」と即答し、スティーブ・サージェントさんはこう答えてくれた。
サージェントさんは、市販車の設計からスペックなどを決定するプロダクト部門の責任者で、トライアンフがモト2に参戦を決める際もドルナと話し合いを進めてきた人物だ。 モトGPのイギリスラウンドで発表されたデイトナ モト2™ 765(以下、デイトナ765)はアメリカとカナダ市場で765台、欧州&アジア市場で765台、世界限定1530台が販売される。今後大量生産されることはなく、日本には2月に100台ほどが導入されるという。
モト2のエンジンサプライヤーがトライアンフになる――それを聞いたとき、僕は驚いた。スーパースポーツであるデイトナはしばらくラインナップから外れていたからだ。しかし、モト2へのエンジン供給は、トライアンフがスーパースポーツカテゴリーに復活するための最良の道であったことがいまなら分かる。それは多くのラウンドで、レコードタイムや最高速をブレイクし、しかも大きなトラブルは皆無だからだ。
通常、多気筒であれば4気筒だし、実際にトライアンフも4気筒にチャレンジしていた時期もあるが、自分たちの合理性を追求した結果、3気筒をチョイス。ついにはモト2にまで辿り着いたのは立派である。 モト2に搭載されるエンジンは765㏄で、最高出力は140㎰。デイトナ765はそのエンジンのストリートバージョンを搭載し、130㎰を発揮する。まさにモト2のレーサーレプリカの登場である。
デイトナ765の発表会で、MotoGPのイギリスラウンド、シルバーストーンサーキットを訪れた。トライアンフの地元での発表会だけに力が入る。発表会はレースウイーク中の金曜日の夜に行われ、土曜日と日曜日はレース観戦というスケジュール。僕(写真上)と一緒に写真に写ってくれたのがチーフプロダクトオフィサーのスティーブ・サージェントさん
トップブリッジにはシリアルナンバーが入る。究極のデイトナとして価値が高まりそうだ
スロットルを開けた瞬間 Moto2ライダーの気持ちを体感できる
イギリスGPでモト2マシンの発する甲高いエキゾーストノートを聞いた瞬間、身体の中がゾクゾクとしてきた。「ヤ、ヤバイ……なんて良い音なんだろう……」映像からは伝わってこない臨場感に興奮する。濁りのないクリアなエキゾーストノートは想像以上。等間隔爆発だけれど、並列4気筒にはない存在感と低速からトルクに溢れる力強いサウンドにワクワクしてくる。
モト2は、全車イコールコンディションのエンジンを搭載して、フレームビルダーやチームがシャシーや足周りをつくり上げて競い合っている。昨年までの4気筒エンジンよりもさまざまなラインで走れるようになり、バトルが増えたのは3気筒エンジンの低中速トルクの力強さによるところが大きいという。
「ブレーキで奥まで突っ込んでしまい、そこからスロットルを開けてもエンジンがついてきます。だから旋回中の自由度が高く、ライダーはさまざまな工夫をしながら走れるのです。小中排気量特有の進入スピードを稼ぐ乗り方をしなくてもいいのです」とサージェントさん。
確かに旋回スピードを高める乗り方だとラインが制限されてしまう。そしてトルクで走らせる乗り方の方がモトGPへの順応も高いだろう。 これは我々がスポーツ走行を楽しむ上でも重要な要素になる。ビッグバイクのように乗ることのできる765㏄は、とても身近なスーパースポーツとしてコーナリングを楽しませてくれるはずだ。しかも3気筒だから車体はスリム。ポジションもコンパクトでハンドリングは軽快だ。 想像してみよう。高いギヤのまま中速でスロットルを全開。後輪が路面を掴み3気筒特有のトラクション感じながら立ち上がる走りを――。
もちろんその魅力はトルクだけではない。確かな速さと信頼性もある。今年の第6戦イタリアGP(ムジェロ)の最高速は300㎞/ hを超えた。昨年からイタリアGPだけで比較すると、レーストータルタイムは10・756秒、ファステストラップは0・456も短縮している。当然だが、全シャシーメーカーが1年目ということを考えるとかなりのポテンシャルを持っていることが分かる。
90年代からトライアンフが熟成させてきた3気筒エンジンの歴史は長く、06年にそれまで4気筒だったデイトナは3気筒になり、WSSにも参戦。そこから排気量を拡大しながら熟成を図ってきたのだ。 「ビュオォォ〜」とアイドリング付近で奏でる音は3気筒特有で、ブリッピングした際の歯切れも良い。高回転に行ってもそのトルク感は健在で、パワーとトルクと共に迫力も上乗せしていくようなフィーリングは4気筒にはない感性。このエンジンはとても表情が豊かで個性的だ。
3気筒エンジンがレース展開を変えた
歯切れの良い上質なトルク感は4気筒よりも爆発間隔が広いから
イギリスならではの感性でつくられた こだわりとディテールが満載
レースウイーク中は、信じられないほどの晴天に恵まれた。イギリスでこんなに晴天が続き、暖かいのは本当に珍しいらしい。まるでデイトナの再デビューを天気までもが応援してくれているような気がした。 デイトナ765は、モト2レプリカであると同時にプレミアムなミドルスーパースポーツでもある。ミドルクラスとは思えないほどの豪華装備が大人のライダーにふさわしい。
ブリティッシュ・トラディショナル……。今回の発表会に参加させていただき、多くのスタッフに会い、デイトナ765を見てそんな言葉が思い浮かんだ。 決して派手さはないのだが、伝統を大切にし、崩れすぎず、かといって尖りすぎていない、イギリスならではの上品さがトライアンフ全車にある。これこそがイギリスの感性なのだと思うし、それがさまざまなディテールに表現されている。それはデイトナ765も同様だ。
ボディはフルカーボンで、前後サスペンションはオーリンズ製、ブレーキはブレンボ製で、どちらもいま市販車で考えられる最上級グレードの物が装着されている。 フレームとスイングアームは先代のデイトナ675と同様だが、確かに先代のバランスの良さは抜群だったし、そこにパワーアップし最新電子制御をまとったエンジンと上質な足周りが加われば、まるで夢のようなコーナリングマシンに仕上がっていることはすぐに分かる。
カウリングはカーボン製で高級感とスポーティな雰囲気を高める。重心から離れたカウリングの軽量化はハンドリングの軽さに大きく貢献する
ライディングモードでその時ベストなマシンに変身
「シャシーはさまざまなキャスター角やピボット位置を試しましたが、先代と同じディメンションに落ち着きました」とサージェントさん。 電子制御も満載で、ライディングモードは5種類。そのモードにトラクションコントロールやABSの介入度が連動し、シフトアップ&ダウンに対応するシフターも装備する。
デイトナ765はコストのしっかりかけられたミドルスーパースポーツだ。これなら1000㏄が横に並んでも気後れしない。大人が自慢できるミドルスーパースポーツを待っていたライダーも多いはずだ。 1000㏄スーパースポーツが200㎰を超えていく時代に、130㎰/ 12250rpmというスペックはどのように見えるだろう。
サーキット以外はむしろ一生ナラシのようなフィーリングで走らないとならないリッタースーパースポーツよりも、自分で操る醍醐味がそこにはある。また今回は、スポーティな話に終始してしまったが、3気筒のトルクは市街地やツーリングでも扱いやすい。この高回転まで回さなくても楽しめる余裕にも期待していただきたい。
デイトナ復活を待ち望んでいたファンはもちろん、最新スーパースポーツからの乗り換えでも物足りなさを感じさせない魅力的なパッケージを持つデイトナ765。イギリスはすでに完売。日本には2月に100台ほどが導入されるというが、世界中で争奪戦になること必至だ。
チタンサイレンサーはMoto2マシンをイメージしたコンパクトなデザインのアロー製。しっかりと消音しつつも存在感のある3気筒らしい音を発する
前後サスペンションはオーリンズ製。フロントブレーキはモノブロックのブレンボ製Stylemaキャリパーを装着。市販車では最高グレードの機能パーツが最初から装備されているのが心強い
史上初の公式Moto2™ Dorna Sportライセンスを取得したバイクとなったデイトナ765。このマシンを起点に、大人のミドルスーパースポーツという新たなカルチャーが生まれていくかもしれない。そんな勢いも感じさせてくれた