「KTM 790DUKE(KTM 790デューク)」~絶妙なバランスが想定ターゲットを拡大!!~【R/C インプレッション archives】
800ccのツインとは思えない加速の良さで『まだまだイケるぞ!』という余裕さえ感じる
16年にプロトタイプが、そして17年のEICMAでベールを脱いだKTMの790DUKE。新開発のエンジンは初の並列2気筒で、フレームもトレリスではなくエンジンを強度メンバーとするバックボーンタイプと、新機軸のネイキッドがついに登場。ワールドローンチが行われるスペイン領のグランカナリア島に、宮城 光が飛んだ。
日本から遥々やってきた風光明媚な島で待っていた790DUKEは、想像以上にコンパクトで、イメージとしては国産400ccくらいだろうか。とはいえホイールベースは1475mmとかなり長め。しかしこれは、スイングアームの長さ(625mm)を稼いだ結果だ。 LC8cと呼ばれる新しい並列2気筒エンジンは、クランクシャフトの前方と、シリンダーヘッドの2本のカムシャフトの間の2カ所にバランサーを備えるためか、横方向からは相応に大きく見える……が、全幅は凄くスリムで単気筒並み。エンジン名の末尾につく小文字のcはコンパクトの意味だというが、確かに納得。シート高は825mmと相応に高いけれど、このスリムなエンジンのおかげで足着き性は良好だ。
そんな第一印象を抱きながら、いざスタートすると……このエンジン、すごく気持ち良く9800回転くらいまでストレスなく回る! 75度位相の並列2気筒は、同社の75度Vツインと同じ435度―285度の不等間隔爆発で、バランサーの効果か快適なビートを刻む。およそ800ccのツインとは思えない加速の良さは、高回転域でもミドルクラスにありがちな“かつかつな”感じではなく、『まだまだイケるぞ!』という余裕さえ感じる。
ミドルクラスだが電子制御は充実しており、使いやすさも秀逸。モードはトラック、スポーツ、ストリート、レインの4種で、レイン以外はどのモードも最高出力を発揮。変わるのはスロットルレスポンスだ。スポーツはスロットル開度とスロットルボディの開度が1対1。トラックはスロットル開度よりもボディが多く開き、ストリートやレインはスロットル開度よりもボディが開かない設定だが、自分的にはサーキットからワインディングを通して、ストリートがフィットした。ちなみに、穏やかなレインのモードでも違和感がないところは、プログラムの優秀性を強く感じる部分だ。また、オートシフターも使いやすく、アップは気持ちよく決まるし、ダウン時はエンジンブレーキの補正が絶妙だ。
歳を取ったベテランにもオススメできる一台
そして前述したように、ホイールベースとスイングアームの長さは、じつにハンドリングに良い効果を生んでいる。いわゆるピーキーな感じは皆無で、常にフロント荷重が適度にかかっている安心感がある。しかもこのフィーリングは速度レンジを問わない。いわゆるスーパーモタード的なバイクだと、高速域での直進安定性はあまり期待できないモデルも少なくないが、790DUKEなら安心できるし疲れない。“軽くて細いのにフラれない”というのは、かなりポイントが高い。
WP製の前後サスペンションはアジャスト機構を装備しないが、長いストロークをフルに使え、オフ車的にフロントがポンッと浮く感じも含めて、ピッチングを利用して楽しく走れる。それでも常に安定感を確保しているので怖くない。ちなみにスポーツバイクの海外試乗では、アグレッシブに走る外誌ジャーナリストも多く、たいてい何台か転倒するが、今回はサーキットでもワインディングでも転倒者は皆無。ここからもハンドリングの安定性を想像できる。
タイヤは同社のオフロードからのつながりでマキシスを履くが、共同開発を行っただけに、車体やサスとのマッチングが良い。個人的にはサーキット走行の際に“サスをアジャストして少し減衰力を効かせたいな”というシーンがなくはなかったが、タイヤとの相性が良くワインディングではまったく問題ナシ。
……と、自分としてはこのバイク、かなり気に入ってしまった。これに乗ったら、もうスーパースポーツに乗らなくなるかも……とあらぬ心配をするほどだ。裏を返せば、スーパースポーツに少し疲れた人や、歳を取ったベテランにもオススメできる。そして、外国車はちょっと……と避けてきた人にも、ぜひチャレンジしてもらいたい。790DUKEは、そんな懐の深さを持っている。
KTM 790DUKE(KTM 790デューク) ディテール
Specifications:KTM 790DUKE(KTM 790デューク)
エンジン | 水冷4ストローク並列2気筒 |
バルブ形式 | DOHC4バルブ |
総排気量 | 799㏄ |
ボア×ストローク | 88×65.7mm |
圧縮比 | 12.7対1 |
最高出力 | 105hp/9000rpm |
最大トルク | 8.87kg-m/8000rpm |
10kg-m/6500rpm | |
フレーム | バックボーン |
キャスター/トレール | 24度/98mm |
サスペンション | F=倒立式テレスコピック |
R=モノショック+スイングアーム | |
ブレーキ | F=φ300mmダブルディスク |
R=φ240mmシングルディスク | |
タイヤサイズ | F=120/70-17 |
R=180/55-17 | |
軸間距離 | 1475mm±15mm |
シート高 | 825mm |
乾燥重量 | 169kg |
燃料タンク容量 | 14L |
価格 | 112万9000円 |
※本スペックは『ライダースクラブ 2018年5月号』掲載時のものです。