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「INDIAN FTR1200S(インディアン・FTR1200S)」~フラットトラックから生まれたアメリカン・スポーツネイキッド~【R/C インプレッション archives】

扱いやすく、パワフルで、スタイリッシュな注目のニューカマー

モータースポーツでも数々の栄光を手にしてきたインディアン

インディアンというブランドには絢爛豪華な大型クルーザーのイメージが強く、実際それにふさわしいモデルをいくつもラインナップしている。フラッグシップのひとつであるロードマスターを例に挙げると、全長2656mm、車重421kgという堂々たる体躯を誇り、レザーシートやプレミアムなオーディオシステムを完備。

二輪では極めて珍しいエンジンの気筒休止システムも投入され、車体価格を引き合いに出せば、それは468万円~というスペシャルな世界だ。 その一方で、スポーツバイク、あるいはモータースポーツのブランドでもある。創業して間もない1907年にはイギリスの1000マイル耐久レースで優勝し、1911年のマン島TTレースでは表彰台を独占。アメリカ最大のレース、デイトナ200マイルの第1回大会でも優勝を果たしている。

また、世界初となるスターターの開発やセミモノコック車体の採用、並列4気筒エンジンの搭載(27年)、ツインキャブレターの実用化(37年)……など、技術的にリードした分野も多い。近年、アンソニー・ホプキンスが実在の人物を演じた映画『世界最速のインディアン』で一躍その名に脚光が集まったが、つまりそういう熱いブランドである。 そのスピリッツは現代の新生インディアンにも引き継がれている。

象徴的な存在がフラットトラックのために開発されたFTR750で、17年にレースに復帰するや、ハーレーダビッドソン、ヤマハ、カワサキといった強豪を下し、いきなりタイトルを獲得。そのまま18年のシーズンも制し、瞬く間にかつての栄光を取り戻してみせた。 となれば、そのイメージをストリートでも味わいたくなるのは必然だ。インディアンもそのことをよく分かっており、FTR750の活躍と並行して開発されていたのが、このFTR1200Sである。

アメリカ流のピュアレーサーレプリカ

ミドルクルーザー、スカウトのエンジンを流用しているため、排気量も車体サイズもひと回り大きくなっているが、ワイドなハンドルと燃料タンクカバーからシートにかけてのシルエット、フロントに装着された19インチホイールとタイヤのブロックパターンはまぎれもなく、FTR750からインスピレーションを受けたもの。アメリカ流のピュアレーサーレプリカであり、スクランブラーがひとつのカテゴリーとして定着したのと同様、フラットトラッカーがそれに続く可能性がある。

だとすれば、FTRはその嚆矢になるに違いない。なにより他メーカーの追随を許さない、確固たるヒストリーと実績があるからだ。 FTRにまたがった印象は大柄なスポーツネイキッドのそれに近い。ポジションの自由度が高いため、フロントに荷重を掛けるのも、リヤ寄りに乗るのも自由自在。それによってハンドリングは変化するが、どこにも負担が掛からない場所にドカッと座り、バイクに任せた方がライディングにリズムが出る。 フロント19インチホイール、比較的寝ているキャスター角、たっぷりとしたトレール量はいずれもスタビリティを重視したものだ。

それゆえ、クルリと旋回するタイプではないが、旋回力自体はニュートラルな特性を維持。したがって予測が立ちやすい一方、ひとつ注意しておきたいのがタイヤのグリップだ。標準装着されるUSダンロップのブロックタイヤDT3-Rは明らかにダート色が強く、アスファルト上で荷重を掛けていくと腰砕け感が少なからずある。

凝ったシステムを直感的に操作できるユーザビリティの高さ

もっとも、今回はサーキット試乗だったことを考慮しておくべきで、ストリートではそのネガが差し引かれるはずだ。ロードスポーツとして選択肢に入れているライダーは、タイヤを交換するだけで高い満足度を得られるに違いない。

120hpの最高出力にはなんの不足も不満もない。とりわけ「SPORT」モードを選択した時にレスポンスはダイレクトで、低回転域から厚みのあるトルク感で車速を押し上げていく。「RAIN」や「STD」だとスロットル開度が少ない時は穏やかな反面、ある程度の領域に達すると鋭さを増す。そのため、「SPORT」をナチュラルに感じられるライダーもいるだろう。それらの選択と切換をタッチパネルで行えるところが新しく、ディスプレイの表示も美しく整理。凝ったシステムを直感的に行えるところの開発陣のレベルの高さがうかがえる。

その一端をサスペンションにも垣間見ることができた。マニュアルにはライダーの体重毎に最適なセッティングが掲載され、それにしたがうとハンドリングは劇的に変化。フロントの接地感がどんどん増し、オンロードモデルとしての資質が高まっていった。 フラットトラックという先入観にとらわれると特殊な乗り物に思うかもしれないが、これは高いパフォーマンスを持つスポーツネイキッドだ。 扱いやすく、パワフルで、スタイリッシュなニューカマーとして注目すべき存在である。

単純明快かつ大胆なフラットトラックをイメージ

北米で最も高い人気を誇るモータースポーツのひとつがフラットトラックだ。インディアンはそこにワークスマシンFTR750(上)を送り込み、’17~’18 年にかけて連覇。FTR1200Sのモチーフになった。

インディアンの創業は1901年のこと。ロイヤルエンフィールドと並び、現代に名を残すブランドとしては最も古い歴史を持つ

INDIAN FTR1200S(インディアン・FTR1200S) ディテール

1203ccの水冷V型2気筒エンジンを搭載。シリンダーの挟み角は60度で120hpの最高出力を発揮する
上級グレードの1200Sにはアクラポヴィッチ製のスリップオンエキゾーストを標準装備
エンジンカバーにはマグネシウムが採用され、軽量化に貢献している
リヤにはφ265mmのディスクとブレンボの2ピストンキャリパーを装備
リヤサスペンションは別体タンクを持つモノショック。フルアジャスタブルで150mmのホイールトラベル量が確保されている

ブレンボのモノブロックキャリパーとザックスのφ43mm倒立フォークを組み合わせる。タイヤはダンロップのDT3-Rを履く

ウインカーやテールライトを含め、灯火類にはすべてLEDを採用。上がロービーム時、下がハイビーム時でそのデザイン性のよって存在感を主張する

レームとエンジンの存在感が際立つ造形の美しさ

メインフレームとスイングアームには鋼管を組み合わせたトレリスタイプだ。シートフレームにはアルミが組み合わせられ、その間に燃料タンクを設置。ピボットはエンジンのクランクケースに設けられ、ブラケットで締結される

高い運動性を確保するための工夫が随所に光る

シート高は840mmと高い部類だがアップライトなポジションによって緊張感は少ない
ナンバープレートホルダーを兼ねたリヤフェンダーは頑強そのもの
燃料の給油口は一般的な位置にあるがタンクそのものは大部分がシート下に収められている

3種類のライドモードを搭載トラクション&ウイリーコントロールも装備

ディスプレイ内の情報選択はハンドルのトリガースイッチだけでなく、直接指で触れられるタッチパネル方式を採用。RAIN/STD/SPORTのライドモードの他、ABSやトラクションコントロールの切り換えが可能だ。

豪華装備のSとスタンダードモデルを用意

ラインナップはレースレプリカのほかに2種。エンジンスペックは共通だがSTDは電子デバイスの制御項目とサスペンションの調整機構が少ない。またメーターがアナログ式に変更されるのが主な違いだ。価格はすべて2019年9月現在のもの。

FTR 1200 S レースレプリカ/236万4000円

FTR 1200 S/209万9000円

チタニウムメタリック/サンダーブラックパール
インディアンレッド/スチールグレー


FTR 1200/189万9000円

サンダーブラック

Specifications:INDIAN FTR1200/S(インディアン・FTR1200/S)

エンジン水冷4ストロークV型2気筒
バルブ形式DOHC4バルブ
総排気量1203cc
ボア×ストローク102×73.6mm
圧縮比12.5対1
最高出力120hp/8250rpm
最大トルク11.7kg-m/6000rpm
変速機6速
クラッチ湿式多板
フレームスチールパイプトレリス
キャスター/トレール26.3°/130mm
サスペンションF=φ43mmテレスコピック
 R=スイングアーム+モノショック
ブレーキF=φ320mmダブルディスク
 R=φ265mmシングルディスク
タイヤF=120/70R19
 R=150/80R18
全長/全幅/全高2286/850/1297mm
軸間距離1524mm
シート高840mm
車両重量235kg(230kg)
ガソリンタンク容量12.9L
※カッコ内は1200


※本スペックは『ライダースクラブ 2019年11月号』掲載時のものです。

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