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「パニガーレV4S」のネイキッドバージョン「ストリートファイターV4S」がついに登場

とにかく一度乗ってみてほしい DUCATI STREETFIGHTER V4S ドゥカティのスーパーバイク「パニガーレV4S」のネイキッドバージョンが「ストリートファイターV4S」として登場することになった。 このネーミングはしばらく途絶えていたものだが、満を持して復活アグレッシブさとフレンドリーさが高次元でバランスし、最大のヒット作になるのでは!?

過走行車両が続出しそうな快適快速ネイキッド

ストリート、高速道路、ワインディング、そしてサーキットと、ありとあらゆるシチュエーションでストリートファイターV4Sのテストを行うことができた。走行距離は600㎞を超えたと思うが、疲労はほぼないに等しい。ドゥカティとしてはあり得ないことながら、これは本当だ。夢のように快適に距離を重ねることができ、スーパーバイク由来のエンジンを搭載したモデルのみならず、モンスターなどを含めても、群を抜くオールラウンド性能を持っている。

ドゥカティを好むライダーは、多かれ少なかれ我慢の先にある快楽を知っているものだ。街中で苦痛を強いられたとしても、いざスロットルを開けられるステージを迎えると印象が一変。それまでのストレスをすべて置き去りにできる、マシンとの一体感がそれだ。 たとえ一瞬、たったひとつのコーナーだとしても代償を払うだけの価値を見出してきたものだが、ストリートファイターV4Sにはその必要がなく、極めて高い手の内感をいつでもどこでも感じることができる。 生粋のドカティスタはそれを軟弱になったと思うかもしれないが、とにかく一度乗ってみてほしい。フレンドリーさとアグレッシブさの間を、自由に行き来できる奥深さに魅了されるに違いない。

では、そのフィーリングを具体的にお届けしていこう。まず成り立ちを簡単に説明しておくと、このモデルはセパレートハンドルとフルカウルを備えるパニガーレV4Sのネイキッドバージョンである。本来、ストリートファイターというのはスーパースポーツのカウルを剥ぎ取り、アップハンドル化したカスタムの総称だが、大胆にもドゥカティはそのまま車名に採用。Lツインエンジンを搭載したモデルは以前にも存在していたものの、今回およそ5年ぶりに復活することになった。

フロントカウルとサイドカウルを持たないストリートファイターV 4Sは、当然ながらかなりスリム、もしくはコンパクトな印象だ。車体を引き起こす時の手応えも軽いのだが、シート高はパニガーレV4Sよりも10㎜高く設定されている。 とはいえ、足着きが悪化しているかといえばそんなことはない。シート生地が厚くなったぶん、沈み込みが多く、お尻を包み込むようにホールド。乗り心地はむしろ良好だ。

モチーフはJOKER

このモデルのモチーフはアメリカンコミックのキャラクターとして知られるジョーカーだ。邪悪さとフレンドリーさという二面性をヒントにフロントマスクをデザイン。ハンドリングやエンジンの特性もそれにふさわしい仕上がりだ

速さ、優美さ、先進性、快適性……ドゥカティの魅力のほとんどすべてがココにある

パニガーレV4Sに対し、若干出力が落とされているとはいえ(214㎰→208㎰)、パワーユニットの基本的な仕様は踏襲されている。それゆえ、エンジンを始動させた時のサウンドは獰猛と表現して差し支えなく、強面なフロントマスクにふさわしい、身震いするようなバイブレーションを伝えてくる。 もっとも、そこから先は従順で軽快だ。

ライディングモードの選択をアグレッシブなRACEにしていたとしても、スロットル微開の域ではフレキシビリティに富み、エンジンが先走るようなことはない。パニガーレV4Sなら手首の動きに神経を注いでいないと、路面のギャップを拾った時に右手が動いてしまうことがあった。だがストリートファイターV4Sのアップハンドルならリラックスして持てるため、無用な力が入らず手首の疲労も皆無。200㎰超のスーパーバイクを日常的に扱えてしまう事実に驚かされる。

もちろんこれは歓迎すべき変化だ。 そのまま延々と安楽で、穏やかだったとしたら興覚めされるところだが、もちろんそんなわけはない。なにせ実態は1103㏄のV型4気筒である。8000rpmあたりからパワーは急激に盛り上がり、猛烈な勢いで加速。ファイナルが大幅にショート化されていることも手伝って、中回転域の加速GはパニガーレV4Sを凌ぐ迫力で車速をグイグイと押し上げていく。 ただし、緻密な作り込みを感じさせるのはここからだ。以前のストリートファイターなら車速に応じてステアリングの手応えが希薄になり、その不安定さをスリルに感じられるライダーだけに受け入れられたが、新型はホイールベースが延長され、ステアリングヘッドを前方へオフセット。車体のディメンションが見直され、フロントの接地感が奪われるようなリスクが消えている。

そういう素性の良さをサポートしているのが、第2世代に進化したトラクションコントロールやウイリーコントロール、そしてラジエターサイドに設けられた4枚のウイングレットで、これらはすべてスタビリティの確保を目的に機能。その恩恵は計り知れない。

気筒休止システムが作動

昔気質のドカティスタは、ここでもやはり軟弱化を嘆くかもしれないが、208㎰の世界をナメてはいけない。電子デバイスはもちろん、空気のチカラを使ってでも車体を抑え込む必要があるほど、アブノーマルな世界なのだ。 それを理解していると、これほどのエンターテインメントはない。スロットルを大胆に開けてもフロントタイヤのリフトは最小限に留められ、パワーを最大限に加速力へと変換。コーナリング中でもそれは変わらず、従来は滑り始めてから反応していたトラクションコントロールが予測型に進化したおかげで、フルバンク状態でもトラクションを得ることが可能になっている。

ストリートファイターV4Sは、ドゥカティ史上、速さと扱いやすさが最も高いレベルでバランス。この一台の中に、ドゥカティの先進性と醍醐味がすべて詰まっていると断言していい。もう一度書くが、とにかく一度乗ってみてほしい。

初代パニガーレV4シリーズ(’18 年)から採用されているのが発熱を抑えるためのリヤバンクの気筒休止システムだ。’20 年型からその作動が常態化し、水温が75°以上になると停車のたびに機能。発進時にクラッチレバーを離していくと、「ボンッ」という手応えで再点火したことが分かる

かつてのストリートファイター

ストリートファイターの名を持つモデルが初めて披露されたのが、’08年のEICMAだ。スーパーバイクシリーズとモンスターシリーズのイイトコ取り仕様として、翌’09年に正式デビュー。モデルチェンジとグレードの追加を経ながら、’15年モデルまでラインナップされた。

2009 STREETFIGHTER

ストリートファイターの初代モデル。スーパーバイクのフラッグシップ「1098」の水冷Lツインを搭載し、155psの最高出力を誇った

2012 STREETFIGHTER 848

その後、追加されたのが「848EVO」のエンジンと車体をベースに持つミドルクラスのモデルで、より扱いやすいキャラクターが与えられた

羽根が2枚ではなく、4枚になった理由

MotoGPに参戦するメーカーの中でもドゥカティは空力デバイスの取り組みに積極的だ。そのノウハウを市販車にも盛り込み、現行のパニガーレV4S(左)には巨大な2枚のウイングレットを採用。ストリートファイターV4Sが4枚化されたのは、同等のダウンフォースとスタビリティをよりスリムな車体で再現するための策だ

電子制御サスペンションの効果

上級グレードに当たるストリートファイターV4Sにはオーリンズの電子制御サスペンションが標準装備される。荷重や姿勢に応じて減衰特性がリニアに変化し、タイヤのグリップを最大限に引き出すことができる

一度ラインナップから外れ、再び復活した背景

ストリートファイターV4/Sがヴェールを脱いだのが、’19 年のEICMAだ。その存在はひと際目を引き、来場者の投票によって選出される『モスト・ビューティフル・バイク・オブ・ショー』で見事大賞を受賞。しかもそれは、並み居るライバルに圧倒的な得票差をつけてのことだった。 その会場で、ドゥカティのセールス部門を率いるフランチェスコ・ミリチアさん(以下、F.M)にストリートファイターにまつわる話をいくつか聞くことができた。

Francesco Miliciaフランチェスコ・ミリチアさん

ドゥカティには’94年に入社し、’18年にセールス部門のトップに就任。タイ工場の立ち上げ責任者も務めるなど、幅広く活躍している

ストリートファイターの存在意義

――スーパーバイクのパフォーマンスをアップライトなポジションで楽しめるストリートファイターは、ドゥカティにとって初めての試みではなく、以前のモデルも一定の成功を収めていたように思います。にもかかわらず、この数年ラインナップから外れていたのはどうしてでしょう? 

F.M 我々は’15 年に注目すべき一台のブランニューマシンを送り出しました。なんだったか覚えていらっしゃいますか? モンスターファミリーのフラッグシップである「1200R」がそれです。エンジンにはスーパーバイクと同系の1198ccの水冷Lツインを搭載し、160psの最高出力はモンスター史上最高の数値。スーパーバイクにもひけを取らないスピードを誇りました。そこで、いたずらにラインナップを分散するよりは1200Rをネイキッドの頂点として展開した方が自然だと考え、ストリートファイターを一度ストップさせたのです。

――それが復活したのはなぜでしょう? 

F.M もちろんパニガーレV4/Sの存在を抜きにして語れません。MotoGPマシンさながらのハイスペックは広く知られるところですが、それをアップハンドルで楽しみたいという声を多数頂戴しました。そこで我々はすぐ開発に着手。このマシンの登場は、必然と言っていいでしょう。

――なるほど、よく分かりました。ところでこういうカテゴリーの場合、ベースマシンに対してそれなりにデチューンされるのが一般的だと思います。しかしながら、例えば最高出力はパニガーレV4/Sの214psに対して208psを公称。実に微妙なダウンに思いますが? 

F.M 同じ214psに設定することも、逆に180ps程度に抑えることもできたのですが、電子デバイスが進化した今、パワーをそれほど制限する必要はなくなりました。ではなぜ6ps低くなっているかと言えば、可変ファンネルを廃したからです。これはトップエンドの最後のひと伸びで効く装備ですが、ストリートに主眼を置いたモデルゆえ、あまり意味はないと判断しました。

ちなみに、’20 年型のパニガーレV4/Sが穴あきフレームを採用したのにストリートファイターV4/Sでは見送ったのも同じ理由です。これはフルバンク時の最後のしなりを最適化するための構造ですから、やはりストリートでは過剰だと考えました。それより重要視したのが空力で、かつてのストリートファイターと比較するとカウルを取り払ったことの影響が大きく、いかに安定性を確保するかに注力しました。バイプレイン・ウイング(2枚翼)はその象徴的な装備ですから、ユーザーの皆様にデザインも含めて共感して頂けるものと信じています。

2015 Monster1200R

「R」の名を持つ初のモンスター。160psの最高出力、オーリンズの足周り、200サイズのリアタイヤなどSBK並のスペックが与えられた
エンジンはパニガーレV4/Sとほぼ同じ仕様。トルク特性の変更とファンネルの変更によって最高出力は6psだけデチューンされている
’20年型のパニガーレV4/Sには穴あき加工が施されたフレーム(写真)が採用されたが、ストリートファイターV4/Sは未加工

DUCATI STREETFIGHTER V4/S 全詳解

電子デバイスの選択や切換はハンドル左側のスイッチボックスに集約され、その操作方法は分かりやすい
ステアリングヘッドはパニガーレV4/S比で前方へセット。オーリンズのステアリングダンパー(電子制御)を装備する
5インチのフルカラーTFTディスプレイを採用。タコメーターやスピードメーターの配置は2パターンから選べる
灯火類はすべてLED。クーリング用のエアインテークを内蔵し、通過した空気はサイドフェアリングに導かれる
50km/hの時点で2kg、270km/hでは28kgのダウンフォースを発生するウイング。減速時のスタビリティにも貢献する
高回転高出力なV型4気筒エンジンながらメンテナンス間隔は1万2000kmに設定され、ロングライフ化も実現
サスペンションの減衰力はオーリンズのSmartEC2.0で統括的に制御。フロントはNIX30、リアはTTX36がベース
キャリパーはブレンボのモノブロックStylema。コーナリングABSと連動し、バンク中も安定した減速と制動が可能だ
マルケジーニの軽量アルミ鍛造ホイールにピレリのディアブロ・ロッソ・コルサⅡが組み合わせられている
アルミ鋳造のスイングアームは再設計され、ロング化。ホイールベースはパニガーレV4/S比で16mm延長されている
シート高は845mm。内包材はパニガーレV4/Sより厚みのあるタイプに変更され、乗り心地の向上と疲労の軽減を実現
シフトアップにもダウンにも対応するクイックシフター。IMUと連動し、バンク中のギアチェンジでもスムーズに作動

充実のパフォーマンスパーツ

STMの乾式クラッチキットやアクラポビッチのエキゾーストなど、オプションを豊富に用意。フルエキゾースト装着時には最高出力が220psに到達し、6kgの軽量化も実現するなど、さらにパフォーマンスが向上する

STDモデルはなにが違う?

STDモデルであるストリートファイターV4の専用装備が下記の通りだ。サスペンションとステアリングダンパーの電子制御が廃された点が大きな違いでエンジンスペックは同じ
※ショーワ製φ43mmフルアジャスタブルBPF/ザックス製フルアジャスタブルモノショック/ザックス製ステアリングダンパー/アルミ鋳造ホイール
12.6kg・m/11500rpmという最大トルクの内、その70%を4000rpmで発生。レブリミッターは15000rpm(6速時)で作動するが、9000rpmの時点でトルクは90%に達するなど、より扱いやすい特性が与えられている

パニガーレとディメンションは違う?

こちらはパニガーレV4/Sとのディメンションの差だ。フロント荷重が減少したぶんをホイールベースの延長とステアリングヘッドのオフセット、シート高のアップで補完。またファイナルレシオが大きく異なっている。

Panigale V4SとSTREETFIGHTER V4Sとの数値の違い

STREETFIGHTER V4S:シート高 845mm(835mm) 、ホイールベース 1488mm(1469mm)、キャスター角 24.5°(24.5°) 、トレール量 100mm(100mm)、ファイナルレシオ 15/42(16/41) 、車重 199kg(198kg) ※( )がパニガーレPanigale V4S

STREETFIGHTER V4S  279万9000円

STREETFIGHTER V4 243万5000円

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