国内仕様でも200ps超えは当たり前! 国産スーパースポーツがスゴイことになってきた
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がんじがらめの規制時代から一転 200ps級の国内仕様が登場している理由 かつての厳しい馬力規制・排気量規制をよく知るライダーにとってその制限が撤廃された今は、まさに夢にまで見た時代と言える 果たしてそれはどのような経緯を辿ってきたのかを簡単に振り返っておこう。
もうすぐ出揃う国内仕様のスーパースポーツ
RIDERS CLUBでは、数回にわたり、これまでホンダ、カワサキ、スズキの国内3メーカーから登場したリッタースーパースポーツの随時更新してお届けしてきた。それぞれに共通しているのは「国内仕様なのにフルパワー化されている」という点で、200psに達する本気のマシンがごく普通に購入できるようになったことを意味する。
残ったヤマハがどうするのかと言えば、もちろんこの流れに追随。 YZF‐R1/R1Mにマイナーチェンジを施し、20年8月20日に国内仕様の正規販売を復活させる。復活と書いたからには近年は途絶えていたわけだ。実は、09年から14年の期間以外はいわゆる逆輸入車として流通していたのである。 ただし、かつての国内仕様はフルパワー仕様に対してスペックの乖離 がかなりあった。
CBR1000RRに日本専用のスペックを与え、継続的に販売してきたホンダも同様で、それを引き出せるか出せないは別として、購入動機や選択に少なからず影響していたはずだ。 なぜそれほど差があったのか? 国内仕様車と逆輸入車はなにか違うのか? このあたりの事情を軸に、規制の紆余曲折を振り返っておこう。
2004 Honda CBR1000RR
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2015 YAMAHA YZF-R1
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2014 YAMAHA YZF-R1
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自主規制と法規制の狭間にある二輪界
二輪界には昔からさまざまな規制がある。規制は規制でも、メーカーや日本自動車工業会が主導する自主規制もあれば、国交省や環境省が関連する法規制もあり、時代に合わせて刻々と変化してきた。 既述のYZF‐R1を例に出すと、 国内仕様と欧州向けのフルパワー仕 様で次のような違いがあった。
● 14年型国内仕様
最高出力:145ps 車両重量:212㎏ 速度リミッター:180㎞/h 価格:141万7500円
● 14年型欧州フルパワー仕様
最高出力:180ps 車両重量:206㎏ 速度リミッター:なし 価格:162万円
このように、14年当時は欧州向けフルパワー仕様に対し、国内仕様のスペックに明確に劣っていた。厳しい日本の音量規制と排ガス規制をクリアするためには致し方なく、反面、パーツ供給やメンテナンス、価格、販売網の充実といったサービス面で優位性があったのだ。
ところが、8月に登場する20 年型 YZF‐R1/R1Mは、国内仕様も欧州フルパワー仕様もまったく同じスペックを持つ。完全な共通化ではないが、国や地域によってまちまちだった規制の統一が進み、国内仕様が復活したというよりは、日本専用モデルを作る必要性がなくなったというのが正しい。
結果、今まで逆輸入車の販売を手掛けていたヤマハの関連会社プレストコーポレーションは役割を終えたと判断。 20年6月にすべてのサービスを停止すると発表した。 読者は50代前後の方が多いと思われるが、とりわけこの年代はフルパワー仕様という言葉に魅力を感じるに違いない。 なにせ 80年代のあのバイクブームのさなか、国内向けモデルの排気量は750㏄までしか認められておらず、しかもパワーは77ps以下に制限されていたからだ。
あくまでも自主規制だったが、現実的には法規制も同然で、それなのに一度日本から出て戻ってくるだけで1200㏄だろうが、150? だろうが大手を振って走れるイビツな時代が長く続いた。ある意味、ダブルスタンダードがまかり通っていたと言ってもいい。
排気量規制の始まり 1969 Honda CB750Four
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1973 KAWASAKI 750RS(Z2)
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1972 KAWASAKI 900 Super4(Z1)
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馬力と排気量の規制はどのように始まったのか
そもそも国内メーカー間の自主規制がクローズアップされたのは、69年に登場したホンダ・CB750フォアがきっかけだ。バイクのあまりのハイスピード化に歯止めをかけるため、ナナハン以上のモデルは海外向けに限定することを決定。
80年代に入ると馬力規制も厳しさを増し、50㏄=7.2ps、125㏄=22ps、250㏄=45ps、400㏄=59psといったように、排気量毎に細分化されていった。そんな風にがんじがらめだった規制が、少し緩み始めたのが90年に入ってからだ。
先陣を切ったのがヤマハで、この年にVmax1200の国内販売を開始。ただし、最高出力は大幅にデチューンされ、本来145psを発揮するV型4気筒エンジンは97psに留められていた。 翌91年にはカワサキがGPZ900Rの国内仕様を投入するも、やはり最高出力は108psから86 psへ大きく引き下げられていた。
この馬力の自主規制と並行し、排ガスの法規制が強化されていったのがこの頃だ。余談ながらこれに小中排気量モデルは対応できず、2ストローク250㏄や4ストローク400㏄などのレーサーレプリカは急激に衰退。 90年代後半に相次いで生産 中止に追い込まれたのである。
結局、馬力規制が撤廃されるには07 年まで待たなければいけないのだが、その後、一気にフルパワー時代が到来したかと言えば、そんなこともない。なぜなら、今度は日本独自の騒音規制とさらなる排ガス規制が厳しさを増し、足枷になったからだ。 真っ先に犠牲になったのがやはり小中排気量モデルで、特に空冷エンジンやキャブレター車は次々に消滅していったのである。
オーバーナナハンの解禁 1990 YAMAHA Vmax1200
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1993 KAWASAKI GPZ900R
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1993 Honda CBR1000F
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マーケットをリードするホンダならではの意地
こうした規制のハードルは、大排 気量モデルにとっても決して低いも のではなかった。その象徴が15年にホンダが発売したロードゴーイングレーサー・RC213V‐Sによく表れている。 2190万円もした価格からも見 て取れる通り、リアルモトGPマシンレプリカとして送り出されたわけだが、国内仕様の最高出力は70ps/6000rpmに過ぎなかったのだ。
ちなみにキットパーツを組み込み、 本気を出した時の最高出力は215ps/13000rpmである。なのに、日本の公道で乗ろうとするとパ ワーは1/3以下、使える回転は1/2以下になるのだ。それでも発売に踏み切ったのは、リーディングカンパニーとしてのホンダの意地に他ならない。
国内仕様と逆輸入のフルパワー仕様が日本で共存してきた状況は、決して健全なものではなく、ホンダとしてはこれを認める立場になかった。 そのため、手間もコストも掛かり、それでいて本来のスペックからかけ 離れてしまうことを承知の上で国内仕様を作り続けてきたという経緯があるのだ。中には作り込み不足が見えるモデルもあったが、「日本のライダーには可能な限り国内仕様を用意する」という姿勢にホンダの矜持が見て取れる。
もっとも、仕様変更に四苦八苦していたのはホンダだけではない。例えばドゥカティやMVアグスタを筆頭とする欧州のスポーツバイクブランドも同様で、日本で各種検査を受けるメーカーは、スタイルを著しく損なうこと覚悟で日本専用のマフラーを装着し、回転数を制限することでそれをクリアしていたのだ。 これがほんの数年前のことだが、今や国内仕様も欧州仕様もなく、フルパワーをそのまま日本で楽しむことができるようになった。一体、なにがあったのか?
いかに音量を抑えるか 2015 Honda RC213V-S
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1987 Honda VFR750R(RC30)
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2018 Honda CRF450L
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ハイパワー時代はいつまで続く?
そのカギを握っていたのが、欧州で段階的に実施されてきた環境規制の強化だ。ユーロ1(99 年)、ユーロ2(05年)、ユーロ3(07年)と進められてきたのがそれで、これらは日本の規制と別モノだった。 しかしながら、16年に導入されたユーロ 4、そして今年から実施が始まっているユーロ5をきっかけに、国際基準の調和が図られたのだ。
ごく簡単に言えば、欧州で認められた製品は、日本でも問題なしとする基準の統一化が進んだのである。 200psを大きく超えるフルパワーモデルが、国内でもそのままラインナップされるようになったのはこのおかげである。 それを受けて躍動しているのがカワサキで、スーパーチャージャーによって231psの最高出力を得ているニンジャH2カーボンは、それだけで充分驚きだが、ラムエア加圧時に至っては242psを公称。まさに異次元である。
とはいえ、そう遠くない将来にユーロ6が適用されれば、再びスペックダウンを余儀なくされるかもしれない。環境保護のために規制基準は確実に強化されるからだ。スーパースポーツやフラッグシップモデルが放つ大パワーをいつまで謳歌できるかはわからないものの、この時代をリアルタイムで過ごしている我々は幸運だと思う。
欧州ブランドも 苦肉の策!?
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2020 KAWASAKI NinjaH2 Carbon
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Ninja H2は量産車として唯一となる、コンパクトなスーパーチャージャーを搭載する