質実剛健のゲルマン魂がミドルスポーツの世界を牽引する! KTM 890DUKE R
勢力図を塗り替えるオフロードの常勝軍団 KTM 現在、小型二輪(250cc超)のマーケットは 好調とは言えない。そんな中にもかかわらず、次々と販売記録を更新しているのがKTMグループだ。本家たるKTMはもちろん、その傘下にあるハスクバーナも年々知名度を高め、存在感を確立。ここからは先頃導入されたニューモデルのインプレッションを中心にお届けしていこう。
KTM初のパラレルツインエンジンを搭載し、18年に導入されたスポーツネイキッドが790デ ュークだった。メスの意味を持つ「THE SCALPEL」というニックネームが与えられたそれは、ボディラインが鋭利なだけでなく、その名にたがわぬシャープなハンドリングを披露。軽快でキビキビとした走りを好むライダーに、新たな選択肢を提供してくれた。
それから2年、その上級グレードとして新たに加えられたモデルが8 90デュークRである。 車名の数字が示す通り、分かりやすいトピックは排気量の変更だ。従来、799㏄だったシリンダー容積は890㏄に増し、ボアとストロークがいずれも拡大されている。
だからと言って、決して低回転に寄せてきていないのがKTMらしいところだ。121psの最高出力は790デューク比で16psも向上しているだけでなく、高回転化も実現。さらにパンチの効いたパワーフィー リングを想像させる。 そんなわけで少々身構えて走り出したのだが、スタートは極めてイージーで、すぐにトルクバンドにのせることができる。どの回転域でもバイブレーションは巧みに抑制され、「メス」というよりは「ナタ」のような力強さに溢れている。
後にリリースを確認したところ、 コンロッドとピストンが軽量化された一方、クランクマスは20%増大。そこに改良されたバランサーシャフトの効果が加わり、スムーズさの下地になっているようだ。 このエンジンの美点は、出力と回転数が絶妙にバランスしているところにある。121psという数値自体は高出力と表現して差し支えないものながら、それを9250rpmで発生。
例えば、600㏄の4気筒で そのパワーを再現しようとすれば 13000rpm以上は回さなくてはならず、その領域で襲いかかってくる高周波サウンドは、かなりプレッシャーになるからだ。 その点、このパラレルツインは回転数に対して加速感、トラクション、音質がリニアにリンク。パワーを制御している感覚が強く、それが高い 一体感となってかえってくる。
今回はサーキットでの試乗だったため、基本的にトラックモード(オプション)で走行したが、手に余るようならエンジンモードをスポーツ、 ストリート、レインと段階的に下げていくことで解決する。 選択したモードに応じてスロットルレスポンスが緩和される他、トラクションコントロール、ABS、ウイリーコントロールの介入度を調整 することで、車体のスタビリティをいかようにも引き上げられる。
向上したエンジンのポテンシャルに合わせ、足周りにも手が加えられている。違いが明白なのがブレーキ で、これまでKTMのロゴが入れられていたフロントのキャリパーをブレンボのモノブロック「スティルマ」に換装。ディスクもφ300㎜からφ320㎜に大径化され、ストッピングパワーとコントロール性が大きく改善された。
また、790デュークのフロントフォークは意外なことに非調整式だったが、890デュークRには左右独立式の減衰力調整機構を装備。リアショックはフルアジャスタブルなだけでなく、圧側減衰力は高速と低速 の2系統で調整できるようになるなど、完全に刷新された。 この恩恵は大きく、コースイン当初はピッチングし過ぎるきらいがあったが、ストロークスピードを制限していくことで即座に車体 姿勢は安定。セッティングが楽しめることの意義は大きい。
さて、肝心のハンドリングだが、これにはなんの不満もない。クイックに曲がろうとするより、滑らかな弧を描くように走らせると本領を発揮するタイプだ。そのため、ドーンと突っ込むのではなく、フワッとコーナーに飛び込んで旋回 スピードを上げていくといい。790デュークよりもハンドル位置は低く、前方へオフセットされ、ステップは後退しているため、自然とスポーツライディングにいざなってくれる。車体をこじらせない、ライト ウェイトスポーツならではの乗り方 を教えてくれるはずだ。 790デュークと890デュークRの間には、23万8000円の価格差があるものの、それはまったく正統である。手にできる喜び以上の価値が込められている。