『The Sound of TRIPLE』ミドルクラス並列3気筒の魅力に迫る!
2気筒でも4気筒でもないそれはハンパなのか、イイトコ取りなのか―― !?
知らないままはモッタイナイ 並列3気筒の開けられるチカラ
’90年代に入り、徐々にトリプル、つまり3気筒エンジンが認知されるようになった。ひとえにそれはトライアンフの粘りによるもので、ヤマハやMVアグスタも追随してひとつのトレンドを形成。あの独特のザラついたエキゾーストノートは決してマイナーな存在ではなくなった。3気筒エンジンの魅力とは一体どこにあるのか? 試乗を通し、それを紐解いていこう 。
日英伊 最新3気筒インプレッション YAMAHA MT-09SP / TRIUMPH STREET TRIPLE RS MV AGUSTA BRUTALE800 ROSSO
イギリス人は結構しつこい。というか、モノに対する時間のスタンスが長い。ファッションとしてアンティークやビンテージを愛するのではなく、親から子へ、子から孫へ引き継いでいくような価値観を美徳としているからだ。 家や庭、家具、鞄、時計などが最たる例だが、それらをじっくりと使い込み、時代や環境の変化に応じてカスタマイズを加えながら次の世代へ託す。そういう継承の文化を育んできた人たちである。
モータースポーツに関しても同様で、1907年に始まったマン島TTレースは現存する世界最古のモータースポーツというだけでなく、そのコースまでもがほとんど当時のまま使用されている。世界グランプリやF1が初めて開催された地も、やはりイギリスである。
で、それが本特集においてなんの関係があるのか。現代の3気筒はヒンクレーに拠点を置くトライアンフ抜きにしては語れないという前フリのためである。そのエンジン形式を古くから手掛けているだけでなく、経営破綻から復活する際(90年)、全面に押し出して優位性をPRしたのもやはり3気筒だった。
3気筒の市販車は成功しない。少なくとも長続きはしない。それがバイク業界の定説だったが、そういう外野の声をよそにトライアンフは邁進。あきらめることなく、マーケットに浸透させた功績は大きく、Moto2の世界では速さと信頼性も勝ち取っている。 それゆえ、3気筒の市場は当然トライアンフの独壇場だったわけだが、10年にMVアグスタがF3セリエ・オロを、13年にはヤマハがMT‐09を発表して裾野が拡大。モデルチェンジやバリエーションモデルの追加を繰り返しながら今に至る。
ここに揃えた3機種は、そんな3メーカーの主力となるモデルである。先鞭をつけたトライアンフに対し、あとの2メーカーをフォロワーと見る向きがあるものの、それは明らかに間違いだ。事実、そのエンジンフィーリングにもハンドリングにも似通った部分はなにひとつなく、それぞれが独自の世界観を築いている。
ではまず、18年の春に発売が始まったヤマハ・MT‐09SPから見ていこう。末尾につく「SP」の文字は、STDモデルに対する上級グレードを意味し、サスペンションの仕様が大きく異なる。フロントにKYB、リアにオーリンズを標準装備。フルアジャスタブルなのは当然だが、フロントの圧側減衰力が高速と低速の2ウェイで調整可能だ。この方式をリアではなく、フロントに採用している点がやや珍しい。
ハンドリングは最も個性的であり、刺激的だ。そもそもネイキッドとモタードを融合するというコンセプトが特異なのだが、ライディングポジションもそれに倣い、シートにまたがるとハンドルバーに覆いかぶさるような上体姿勢になる。
必然的にリアに掛かる荷重が弱まり、大きくストロークするフロントフォークがそれを助長。いつでもどこでもリアタイヤを振り出せそうな鼻息の荒さを伝えてくる。こうした挙動は、SPならではのコシのある減衰力によって上手くトラクションに振り分けられているのだが、それでもトリッキーであることに変わりはない。他でもなく、エンジンそのものがかなりイケイケだからだ。
845㏄の3気筒エンジンは116㎰の最高出力を発揮する。パワーそのものは特別高くない一方、印象的なのがトルク特性で、スロットルを開けた瞬間、「ドンッ」と蹴り飛ばされるかのようなレスポンスを披露。ハンドル右側に備わるDモードボタンを操作し、エンジンの出力特性を最もアグレッシブな「A」にセットすればそれは顕著だ。数ある日本車の中でもフロントタイヤのリフトのしやすさは一、二を争う。
ヤマハはこのエンジンの特徴を「粘り強く高いトルクを引き出す」としている。その文言からは実直な真面目タイプをイメージさせ、実際トルクバンドは極めて広いのだが、本質的にはピーキーだ。ただし、乗り込んでいくとそうやすやすとは一線を越えないことが分かってくる。エキセントリックな振る舞いで周囲を困惑させながらも、ちゃんと引くところはわきまえている芸人的というか、SP専用のサスペンションやトラクションコントロールが最後にセーフティネットとして機能。ヤマハの巧みなキャラ設定が光る個性派バイクだ。
YAMAHA MT-09SP
The Memory of Pikes Peak International Hill Climb 2013-14 パイクスピーク制覇を目指し3気筒を選んだ理由
かつて連載させてもらっていたが、僕伊丹はアメリカのコロラド州で開催される「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」というレースに参戦していた。パイクスピークというのは山の名称で、その頂上に設けられているゴール地点までいかに速く到達するか……という単純明快なタイムアタック競技だ。
過去3度出場し、そのうちの2度は本稿の主役である3気筒を搭載したマシンでエントリーをした。2013年がトライアンフのスピードトリプルR、2014年がMVアグスタのF3 800というチョイスだ。
その理由はシンプルで、絶対的なパワーよりもスロットルを開けると間髪入れずに立ち上がるトルクを優先したからだ。
なぜなら、コースは登山道ゆえ、つづら折れのようなタイトコーナーも少なくない。おまけに路面にはアスファルトが敷かれているとはいえ、至る所がめくれ上がっているのだ。そんな環境では確実に路面を掴むエンジン特性が必須であり、いかに低中回転域のうま味を引き出せるかがカギだと判断。3気筒にはそれがあり、分かりやすいトラクションも魅力だった。
結果的に転倒などもあって思うような結果は残せなかったのだが、雲に向かってスロットルを開けた瞬間、路面を掻きむしるように力強くダッシュするあの手応えは他では得難い。もう一度チャンスがあっても3気筒を選ぶと思う。
どこからでも湧き起こるトルクを武器に、力づくで突き進むのがMT‐09SPだとすれば、その真逆にあるのがMVアグスタのブルターレ800ロッソ(以下、ブルターレ)である。こちらの3気筒はとにかく回してナンボの高回転型ユニットだ。排気量は798㏄あるため、低速トルクもしっかり出ているのだが、高回転域の刺激がそのことを忘れさせる。
本領はタコメーターのバーグラフが8000rpm付近に達したあたりから始まり、共鳴するエキゾーストノートと、それに連動して身体全体に伝わってくるビリビリとしたバイブレーションがライダーのアドレナリンを分泌させる。
ホイールベースは今回の3台中、最も短い1400㎜だ。加えてシートの座面は高く、コーナーに向かってリーンする時は倒れ込むように一瞬でパタンと寝る。言い方を変えると、思い切ってそれができないとフ真面目タイプをイメージさせ、実際トルクバンドは極めて広いのだが、ラフラと不安定になるばかりだ。
一定のスキルを持つ者と持たざる者で見る世界がまるで異なり、その前者だけが抱ける「乗りこなしている感」がたまらない一台だ。MVアグスタの中では末弟の役割を担うが、そこに流れているのは紛れもなくイタリアの血である。
MV AGUSTA BRUTALE800 ROSSO
その意味で、トライアンフのストリートトリプルRSには冒頭で記したようなイギリスらしい技術の積み重ねが感じられる。ひと言でいえば、バランスの極みだ。パワー、出力特性、車重のすべてがコントロール下にあり、操作に対して予想通り、狙い通りに反応。ハンドリングも自由自在で、「ここ!」と決めたラインから車体が外れることなど、そうはない。
リニア、ニュートラル、ナチュラル……と表現は色々あり、それらのことはしばしば「手の内にある」と総括される。カタチのない、実に漠然とした言葉ではあるが、このモデルに少しでも乗れば、その片鱗に触れられるに違いない。
トルクフルなMT‐09SP、爽快に回り切るブルターレ、一体感の意味を教えてくれるのがストリートトリプルRSだ。それらはまるで異なり、いかようにも味つけできる懐の深さが3気筒の魅力でもある。
TRIUMPH STREET TRIPLE RS
同じトリプルでも全く異なるエンジンフィーリング個人的にはトライアンフのバランスが好み Impression of Second Opinion
ライダースクラブ編集長 河村聡巳
3気筒といえばMVX250FとNS400Rが頭に浮かぶ昭和世代。ひょっとしたら今回は乗る順番を間違えたのかも。MT-09から乗っていれば、たぶん印象は違ったはずだ