250ccに継承されるハンドリングのヤマハ YAMAHA YZF-R25 ABS をチェック
2020年 カワサキがこのクラスに4気筒エンジンを復活させたことで、若者のみならずアラフィフライダーも再び注目した国産250cc スポーツ。その最新事情を探るべく、YAMAHA YZF-R25 ABS その実力に迫った。
Tester 鈴木大五郎 Daigoro Suzuki
アメリカでダートトラックやロードレースの経験を積み、国内では鈴鹿8耐などで活躍。現在は雑誌のテスター、インストラクターとして幅広く活動している
ヤマハハンドリングを体感できる小さなスーパースポーツ
「ヤマハハンドリングを分かりやすく説明せよ」などと問われたならば、どう答えようか非常に悩 ましく思う。ずいぶん昔、ある雑誌の企画で「ヤマハハンドリングを検証する」的なものがあり(本誌でも20年11月号で 同様の特集を掲載したわけだが)、当時の開発陣に話を伺った。
しかし、本人たちは「どうなんでしょうねぇ ……」と、意外とこだわりがないような印象。作っている張本人もはっきりと明言できない奥深さなのか、それとも単にはぐらかされたのかは分からないが、なかなか謎めいたハンドリングであるのかもしれない。
それでも、感覚的にはヤマハハンドリングというのは間違いなくあって、「あーでもない、こーでもない」とさまざまな憶測をして、そのフィーリングが作られていると議論した記憶がある。では、このR25はどうだろう。以前に乗った際も「ヤマハらしいねぇ」と感じたことは確かであるのだけれど、今回のように6車種を取っ替え引っ替え走らせるというシチュエーションで比較してみると、その意味というか、違いが個性としてはっきりと感じられたのであった。
バンク角に比例して旋回性が高まっていくのはどのマシンでも同様。しかしR25はそこにプラスαの旋回力、とくにフロント周りの舵角のつき方というか、セルフステア感が強い印象。そして優しいフィードバックが付随しているのが明確に感じられる。そうそう、これこそがヤマハハンドリングの定義なのではなかろうか?
高剛性化された昨今のスポーツバイクでは感じにくくなっていたフィーリングが、日常的なスピード域で味わえる幸せ。操っていて楽しいし、自信を持って攻め込んでいける感覚。ライディングポジションが自然で、ヒザ周りがピタリとタンクにフィットする感触も、コーナリングで旋回力を発揮させる操作に対してプラスに作用している。
と同時に、ハンドリングは車体のみで決まるものではないという認識 をあらためて感じさせてくれたのがこのエンジンである。スロットルオフから開け始める瞬間の柔軟さ。ややトルクが薄いという印象もないわけではないものの、逆にそのおかげでスロットルを合わせやすく、操作した瞬間に鋭く曲げていくことも可能にさせている。なんとなくでも曲がっていくマシンが多い軽量クラスではあるが、そこに自分の意志とリンクしている感覚があると、俄然スポーツライディングをしていると感じさせてくれるエキサイトメントがあるのだ。
エンジンの回転数が上昇していった際のストレスの無さも気持ち良い。もちろん250㏄という排気量なりのパワーではあるのだけれど、スロットル開度に合わせてフリクションなく気持ち良く回っていく感触は「これもヤマハっぽいなぁ……」と感じさせてくれたのだ。
スタイリングに裏切られることのないスポーツマインド。受動的ではない操作感がこのマシンの魅力ではあるが、それが押し付けがましくないのがR25の素晴らしさなのではないだろうか。
YZR-M1にも採用されるM字型のエアインテークがスポーティさを主張。サイドカウルの凝った形状は空力向上を狙ったものだ