BMW史上最大のビッグボクサーが上陸! R18 FIRST EDITION
高回転を得意としないOHVは、今や「味わい」を楽しむエンジンだと思われがちだ そんな中、BMWは約30年ぶりに空冷OHVを復活させた 常に先進技術を市場に投入するBMWの新作が、ただのノスタルジック志向ではないはずだ 果たして現代のOHVが持つ可能性とは何なのか。試乗によってその現在地を確認した。
ノスタルジーだけでは語れない空冷OHVの現在地
BMW R18 FIRST EDITION
OHVって何だ?
OHV(オーバー・ヘッド・バルブ)は、クランクシャフト付近にカムシャフトを備え、プッシュロッドを介してバルブを開閉させる機構。プッシュロッドが長くなるので、高回転では正確なバルブ開閉が難しくなる。その難点を克服したのが、1本のカムシャフトをバルブ上部に配したSOHC(シングル・オーバ ー・ヘッド・カムシャフト)。
さらにカムシャフトを2本に分けたのがDOHC(ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト)だ。これにより高回転&高出力化が可能になった。DOHCの普及以降、OHVは大排気量から発生する低回転の高トルクを生かした、“味わい”を楽しむ物という位置づけになっている。
疾走する鼓動の塊
トルクリアクションという言葉を聞いたことはあっても、実際に体感したことがない人は、ぜひR18に乗っていただきたい。跨るだけで結構、あとはセルボタンを押せば、エンジンが始動すると共にグワンと左側にマシンが傾く。誰でもわかるこの挙動。分からなかったらバイクに乗る資格なし!
というのは 冗談だけれど、実際にこれがかなり強烈。油断しているとそのままマシンを倒しそうになる。それほどまでに、1800ccが生み出す16kgf・mのトルクは強烈だ。スマートキーによる今風な始動儀式、アメリカンクルーザー的シルエット、それでいてBMW流のハイセンスで落ち着いた佇まいから、もっとおっとりとしたものを想像していたから、そのリアクションのインパクトは余計に大きかった。
ライディングポジションは大柄ではあるものの、シート高が低くてヒザ周りもスリムなため想像以上に〝人車一体感”が強く、その巨体に跨がっても不安に感じることはなかった。ただ、一つだけ〝難癖”をつけるとすれば、左右に張り出した巨大なシリンダー(もちろんそれが特徴なのだけど)により、足の置き場がやや窮屈なことと、ペダル類が目視できないことくらい。まぁ、慣れれば気にならないだろう。
ハンドリングは、極低速域ではやや切れ込みを感じさせるものの、基本的に素直で、この巨体を忘れてしまうほど軽快な操作性であった。剛性感はさすがBMWといった印象で、長いホイールベースでありながらもウネウネとした剛性不足を感じさせることはない。
そんなR18の真骨頂はやはり、高速道路でのクルージング性能にある。1800㏄という排気量から生み出されるトルクは頼もしい上、疲労の原因になるような振動も感じられず、快適そのもの。しかし、ひとたびアクセルを捻ればOHVとは思えないほど瞬時にレスポンスして怒濤の加速を見せる。
鋭いレスポンスが生む、暴力的なまでの加速 BMW R18 FIRST EDITION
ライディングモードはレイン/ロール/ロックの順でパワフルになる。レインは発進からして大人しく、ジェントルに走るにはドライ路面でも重宝する設定。ロールは大排気量らしいパワーとトルクを存分に味わえる。まあ、ほとんどのシーンはロールで事足りるだろう。
そしてロック。このモードはアイドリングからして特異なキャラクターを誇示してくる。ユッサユッサと車体を揺らし、スロットルを操作するとあのトルクリアクションがマックスで味わえる。そしてそのまま開け続ければ、鼓動感を伴った図太いトルクで車体をワープさせるかのように押し出していく。ワイルドかつ刺激的。それでいて不快なバイブレーションとはなっておらず、新たなBMWの個性を打ち出すことに成功している。
ここ10年、BMWは新たなターゲット層を戦略的に開発し続けている。それだけに、前時代的な空冷OHVを復活させたということは、新しいマーケットの掘り起こしを狙ってのことだろう。R18はノスタルジックなイメージだけで作られた物ではない。固定概念を打ち破る〝ロック魂”が宿っているのだ。
SPECIFICATIONS