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NinjaZX-10R/RRがモデルチェンジ! 元MotoGPライダー中野真矢が開発秘話を探った

カワサキで最もピュアなスーパースポーツ、NinjaZX-10R/RRがモデルチェンジ イメージを一新するニューデザインのカウリングにはウイングレットを新たに装備 予想される日本でのリリース時期は21年春。今回はそんな話題のモデルについて中野真矢さんによる開発者インタビューをお届け

開発者インタビュー 新型Ninja ZX-10Rの開発秘話を中野真矢が探る 変えた理由、 変えなかった理由

中野 自分はカワサキでモトGPを走っていた時代に、ZX10Rのプ ロモーションビデオのライダーを務めさせていただいたことがあるんで す。そういった縁もありますし、新型ZX10Rのお話がうかがえるということで、とても楽しみにしていたんです。よろしくお願いします。
西山 こちらこそ、よろしくお願いいたします。

川崎重工業 MY21 Ninja ZX-10R プロジェクトリーダー 西山隆史さん(写真左)と元MotoGPライダー&モーターサイクルジャーナリスト 中野真矢さん

中野 西山さんは、いつからZX10Rに関わられてきたんですか?
西山 2012年からレース用マシン専任で開発チームに参加しました。担当していたのは主に車体設計です。今回発表した2021年モデルからは、市販車の開発も兼任しています。プロジェクトリーダーを務めるのは、この車両が初めてになります。

中野 そうなんですね。2015年にSBKでチャンピオンを獲得されましたよね。そのシーズンが終わった時、チャンピオンマシンのジャーナリスト向け試乗会を開催されたじ ゃないですか。自分は、光栄なことに呼んでいただけたのですが、本当に素晴らしいマシンだと感動しまし た。あの時のマシンも西山さんが関わっていらしたんですね。
西山 ありがとうございます。ジョニー(ジョナサン・レイ)が、カワサキで初めてワールドチャンピオンを獲った年のバイクですね。

中野 プロモーションビデオの撮影でZX10 Rを走らせたのもサーキットでしたが、その時のマシンと比べると、随分と進化しているなと驚きました。まあ、市販車とファクトリーマシンですから、単純に比較できるものではありませんけど。でも、 お世辞抜きに良いマシンでした。

自分とZX10 Rとの関わりというと、実はそれぐらいなんです。ですがSBKでの活躍には注目してきましたし、新型には、興味津々です。何しろ、顔つきが……大胆に変えられましたよね。(笑)。他にもいろいろと変わっていると思うんですが、今回はフルモデルチェンジといっていいんでしょうか?
西山 いや、実はフレームやスイングアームといった基本骨格は変わっていないんです。

中野 そうなんですね! 意外です。
西山 外装はまるまる変えました。空力面の向上が大きなテーマでしたから。あとレースベースモデルのZX10RRに関しては、エンジンにも手を加えています。

中野 空力の話となれば、やはりウイングレットが装備されたことが気になります。いわゆる外付けのウイングではなく、内臓式にしたことにはこだわりがあったのですか?
西山 4年ほど前から、SBKの車両を使ってウイングレットのテストはしていました。モトGPでウイングレットが登場して、話題になっていた頃のことです。ライダーからは 「ウイングをつけると、フロントの接地感が良くなる」というインプレッションがありました。効果が確認できたので、次のZX10RRに取り入れたいということになりました。

そうしてウイングレットの採用が決まったのですが、ただ羽根をつけるのも芸がないね、と……。カワサキらしさを出しながら空力的な効果を発揮させたいと考え、インテグレートタイプのウイングレットを選択しました。ウイングレットをカウルの中に収めながら、しっかりとダ ウンフォースを生み出せる形状を、デザイナーと相談しながら作り上げ てきました。

中野 自分も現役時代に、空力へのトライは随分とやりました。相当な回数、風洞実験をしたんでしょうね。
西山 そうですね。その甲斐あって、確かな効果のあるウイングレットが作れたと開発部門では確信を持っていました。ですが、実験の結果だけでは足りません。昨年、ニューデザインのカウルを装着した車両をジョニーが走らせてテストしたのですが、ちゃんと効果があるとコメントをもらえたので、これは自信を持って世の中に出せるなと安心しましたね。

中野 ウイングレットで狙った効果は、加速時のウイリーを抑えたり、コーナリング中のフロントのダウンフォースを上げたりですか?
西山 そうです。最も効果を発揮するのは高速域ですが、コーナリングからの加速時でもフロントが軽くなりにくい。結果的に旋回スピードも上がるという結果が得られました。

中野 なるほど。ウイングレットは難しいと聞きますよね。形状や取り付け角度によっては、スピードが落ちてしまったりとか……。
西山 単純にウイングを付けただけでは抵抗の発生源になります。そこで、抵抗にならずにダウンフォースを稼げるか? が課題だったのですが、最終的には従来のものより空気抵抗は減らしながら、ダウンフォー スを向上させることができました。

中野 目標を両立できたんですね。
西山 かなり完成度が高いモノが出来たと自負しています。

開発初期段階では従来型のSBKレーサーに、H2Rのウイングレットを取り付けてのテストも行われたという
’21年型ZX-10RRのレース仕様のアッパーカウル。市販モデルに比べると、リバーススラント部下側のスポイラー的な部分の面積が広くみえる。ウイングレットの効果向上を狙ったものだ

中野 カワサキは航空宇宙の分野も手がけられています。そうした部門からの技術協力はあったのですか?
西山 このモデルに関してはありません。開発は二輪部門だけで行いました。ただ、H2Rの開発時には航空宇宙部門の協力を得ていましたし、どういったトライをしていたかも知っています。実は、開発段階ではSBKの車両にH2Rのウイングを取り付けてのテストを行っているんです。どの位置にどういった角度に取り付けると、どのような効果が出るのかを探りました。そこで得たデー タを、完成形のカウルに盛り込んでいます。

中野 それは面白いエピソードです ね! 先ほど、ジョニーのコメントを参考にしたとおっしゃっていましたけど、カウル以外にもそうしたことはあるのですか? 例えば車体の面で。
西山 そうですね。今回フロントフォークのオフセット量と、スイングア ームの軸間距離を変えましたが、SBK参戦から得たデータを活かしています。これはフロントの分担荷重を増やして、旋回性を上げることが目的です。ZX10 Rの強みのひとつに、ブレーキング時の安定性の高さがあります。その長所をスポイルせずにコーナリング性能を高めたかったので、ホイールベースを延長で対処しました。 対処しました。

中野 フレームとスイングアームに変更はなかったのでは?
西山 ピポットやステアリングヘッドの可変機構の範囲内で調整しました。ご存知の通り、レースではサーキットに合わせたディメンジョン変更は必須です。以前は、レース用車両にはディメンジョン可変のための モディファイを施していましたが、現在のSBKのレギュレーションでは許されていません。ですから、ベースマシンのスタンダード状態で可変機構を持たせてあります。

中野さんは、2015年にSBKでチャンピオンを獲得したZX-10Rレーサーの試乗会に参加。招待されたのは世界で12人だけで、そのうちの一人だった

基本コンパーネンツは 変えられなかったのではなく変える必要がなかった

川崎重工業 MY21 Ninja ZX-10R
プロジェクトリーダー 西山隆史
2007年川崎重工業に入社、Ninja1000など市販バイクの設計を担当に関与。2012年シーズンからSBK仕様Ninja ZX10Rの開発チームに参加。市販車のプロジェクトリーダーとしては、新型ZX-10R/RRが初の作となる。愛車はZEPHYR1100、多忙のためなかなか乗る時間がとれないのが悩みとのこと

中野 自分が2015年シーズンのチャンピオンマシンを試乗した時、ものすごく車高が高くて足が着かなかったんですよ。立ちゴケしないかと、ヒヤヒヤしました(笑)。
西山 それはなんとも申し訳ありませんでした(笑)。その車高も調整機構の範囲内で上げたものですね。シート自体も厚みがあったはずです。ジョニーは高い位置に座るライディングポジションを好むんです。

中野 あんまりシートが高いので、ビックリした覚えがあります。あれは、ジョニーの好みなんだ……。
彼はアグレッシブな走りをみせる ライダーですけど、ライディングス タイルはすごくスムーズですよね。バイクも乗りやすくセットアップさ れていた。初めてのサーキットで他人が仕上げたバイクでしたから、かなり緊張していたんです。でも走り出したら、とにかく楽しくて……。ああいうバイクに仕上げるジョニーの意見がフィードバックされているということで、ZX10Rには前から興味があったんです。なにしろS BKでは群を抜いて強いですからね。
西山 おかげさまで、このところ良い成績を残せています。

中野 6連覇ですからね。レギュレーションもカワサキを抑えるような内容に感じます。それでも、勝ち続けるのは凄いことだと思います。
西山 ありがとうございます。新しいZX10 RRでエンジンに手を入れたのは、レギュレーションに対応させるという意味もあったんです。ベース車両のレブリミットを基準に最高回転数が制限されますから。スタンダードと比べて大きくパワーを上げているわけではありません。馬力は1?しか変わっていません。従来のZX10RRと比べ400rpm上げたレブリミット、これが大きい。

中野 では今回のモデルチェンジは、戦闘力は十分に高い従来型を熟成しつつ、空力面をアップデート。レー スへの対応も考慮したと言えますね。
西山 モデルチェンジするにあたり、重要なコンセプトのひとつにSBKでの競争力を維持するということがありました。実際にチャンピオンを取り続けているマシンですし、完成度は高いと考えています。大きく変える必要はないと判断し、足りないところを補うという考え方で開発を進めました。それが、新しいカウルであり、エンジンの高回転化です。

中野 ドラスティックに変わったのは、やはりカウルだと感じます。
西山 パッケージとしてみた場合の戦闘力は高いと判断しています。ですが、空力の面でライバルに見劣りする部分があったことも事実です。さらに他を突き放すため、一歩先を行くためには空力は 手をつけるべき分野でした。ライダーにとっては、フロントの接地感は重要ですよね?

中野 そうですね。
西山 その部分の情 報量を増やす必要性を感じていて、そのためのウイングレッ トです。ZX10Rは市販車ですから、マーケティングの面 でもエクステリアの 変化は必要という声がありました。性能には自信がある製品です。より多くのユ ーザー様にZX1 Rを楽しんでいただくためにも、時代に合わせたデザインを取り入れて、同時に性能も上げる必要があったんです。

中野 時代に合わせたというより、 時代の先を行くデザインですよね。 デザインは誰でも違いがわかりますけど、ウイングレットの効果も万人が体感できるものなのですか?
西山 感じていただけると思います。

無敵のSBK最強マシンが さらに進化を遂げた 期待と興味しかない

元MotoGPライダー 中野真矢
全日本選手権を経て、世界GPにデビュー。WGP250、WGP500で好成績を残し、MotoGPでは、カワサキのファクトリーライダーも務めた。引退後はバイク用アパレルブランド「56design」の代表を務める他、レース解説者、モーターサイクルジャーナリストとして、本誌を始め幅広く活躍中

中野 一般公道でも、ですか?
西山 はい。比較すれば、どなたでも体感できる効果があります。

中野 それは是非体感したいですね。 ウイングレットにネガティブな部分はないのですか? モトGPを見ていると、今までにないシチュエーションでの転倒があります。空力に頼りすぎて、急にダウンフォースが抜けて転倒することがあるのかな? と、考えたことがあります。
西山 ZX10Rに関してはありませんね。ダウンフォー スだけを追求した形状では、横風に弱くなる等のデメリットが出ます。開発時に考えたのは、ダウンフォースだ けでなく、全体的な空力の向上ですから

中野 本当に自信作なんですね。ますます、 乗ってみたくなりました。西山さんは、この新しいZX10Rの開発でプロジェクトリー ダーを務められたわけですが、その立場から「こういうバイクを作りたい」というコンセ プトというか、こだわった部分はどこでしょ う?
西山 ZX10Rに関わるようになってから、多くの期間レース車両の車体を担当してきました。SBKという世界最高峰のレースで経験を積ませてもらったわけですし、そこで得たノウハウをエッセンスとしてどうしても加えたかったんです。具体的には、先ほどご説明したディメンションを変えた部分です。フレームは従来型を引き継ぐ方針が決まって いましたから、その中でどれだけS BKマシンのフィーリングを出せるかが課題でした。

中野 それは、どういった乗り味なのでしょう?
西山 安定感と旋回性の両立です。 狙ったキャラクターに向けて、テストを重ねました。セッティング変更 の繰り返しですから、テストライダ ーには苦労をかけたと思います。

中野 もし、フレームを新設計できたなら、もっと簡単に目標が達成できたのでしょうか?
西山 それは違います。フレームも スイングアームも変える必要を感じ ませんでしたから。

中野 素性の良いフレームなんですね。それで、実際にSBKで勝ち続けていますから、戦績が証明しています。そのSBK最強マシンに対し、最強ライダーであるジョニーはどうコメントしていますか?
西山 彼はバイクと会話するという表現をつかうのですが、「乗ってすぐにバイクと会話できた」と話していました。マシンに対するリクエストは少なからずありますが、ZX10Rの基本特性である安定性の高さやスロットルの開けやすさが、ライディングスタイルに合っているようです。ジョニーは、スロットル開け始めのフィーリングにこだわるライダーなのですが、その辺りも気に入ってくれています。

ウインターテストで2021年型ZX-10RRレーサーを駆るジョナサン・レイ。乗り始めたば かりであるにも関わらず、激しい走りをみせている。その視線が見据えるのは7連覇か?
アッパーカウルに誇らしげに輝くリバーマー ク。カワサキ製品多しといえど、特別な存在 だけに装着が許される特別な紋章だ。2021 年型のZX-10Rは、その“特別”な1台なのだ

中野 自分が乗ったチャンピオンマ シンも、開け始めのフィーリングが 素晴らしかったです。
西山 SBKはプロダクションレー スですから、車両の基本的なキャラクターは変わりません。2021年 型のZX10Rは、ご購入いただいたユーザー様はSBKマシンのテイストを味わっていただけると思っています。リバーマ ークを付けたのは、カワサキのトップモデルの証です。

中野 なるほど、本当 にマシンの仕上がりに 自信をお持ちなんです ね。実際に新型ZX10Rで走れる日が楽しみです。本日はありがとうございました。

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