中野真矢が『TESI H2』に試乗!ハブセンターステアリングのハンドリングとは!?
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カワサキという勢いのある強力なパートナーを得て新たな歩みをスタートしたビモータの新生第一弾モデルがついに日本上陸を果たし、試乗する機会に恵まれたハブセンターステア初ライドの中野真矢がインプレッション!
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98年に全日本GP250王者に輝き、翌年から世界GPに参戦。ヤマハ、カワサキ、ホンダのライダーとして活躍。ハブセンターステアのマシンは今回が初体験。カワサキが誇るスーパーチャージドエンジンは、ひとたびスロットルを開ければ軽々とフロントが“離陸”するほどの、さすがのパワーを発揮した
bimota TESI H2 戦慄のパワーを手の内に収める
テレスコピック式フロントフォ ーク以外のバイクには乗ったことがない。多くのライダーも私と同じだと思う。ユニークなフロントサスのバイクと言えば、世界グランプリを走っていたエルフを思い起こす。衝撃的なスタイルに「どんな利点があるのかな」「乗ってみたいな」など興味はあったが、遠い存在でもあった。
そして今回ついに、テレスコピックではないバイクに試乗させていただくことになった。ビモータ・テージH2は、なんと言ってもハブセンターステアリングが特徴的だ。エルフを見た時と同様、「どんな乗り味なんだろう」と興味は尽きなかった。
かなり独特で見慣れない形状だけに、正直なところ「クセはあるだろうな」と思い込んでいた。ただ、できるだけ先入観を持たないよう、ニュートラルな気持ちでテージH2にまたがった。ワクワクしながら走り出す。ところが……。
ピットアウトして 1 コーナーに入った瞬間、驚いた。倒し込んだ瞬間のフィーリングに、まったく違和感がなかったのだ。かなり独特な外観のハブセンターステアリングだからこそ、乗り味も特殊だろうという予想は、いい意味で「裏切られた」。通常のテレスコピックとさほど変わらない印象だったのだ。
制動時のノーズダイブを抑えるハブセンターステアリング
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2つ並んだオーリンズ製TTXショックユニットは、右がリア用で左がフロント用となる。どちらも油圧式のリモートプリロードアジャスターを備え、容易にイニシャル調整できる
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前輪ハブの中心に ステアリング軸を配置
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上のストリップ写真を見ると分かるが、ハンドルを切ると、2つのリンクを介し、最終的に左側面に ある下側のシャフトで前輪の向きが変わる。通常のアクスルシャフトに見える部分(下のイラストの 緑のシャフト)は固定で、ステアリング軸はホイールハブの中央(イラストのピンク)にある
だが、もう少し先に進むと、やはりまったく同じではないことがすぐに分かる。同じエンジンを積むカワサキ・ニンジャH2と比べると、より素直にコーナーのイン側に寄ってくれる。倒し込みも軽い。
ニンジャH2は「低重心のモンスターマシン」といったバイクだ。ストレートでの安定性は高いが、コーナーでの倒し込みはワンテンポのわずかな遅れを感じる。車体の重さも影響しているのだと思うが、フロントにどっしり感があって、ツアラーと言いたくなるような安定志向である。
それに対してテージH2は、どちらかと言えばレーサーに近い。重心が高く、だから倒し込みも軽い。「同じエンジンを搭載しているのに、こんなにハンドリングが変わるものなんだな……」と思いながら、じっくりとタイヤを温めて、グリップが増すのを待つ。
徐々にペースを上げていくと、ストレートでコーナーに向けてブレーキングした時の安定感の高さに気付く。テレスコピックで例えるなら、フォークが沈んだ奥の部分でグッと踏ん張ってくれている時の感覚が、作動の初期から訪れるのだ。
フロントフォークがひと回り太くなったかのような剛性感の高さもあり、フロントが下がらないわけではないが、姿勢変化は少ない。安定感が非常に高いので、どこまでブレーキングで突っ込めるのか確かめたくなる気持ちを抑えるのに必死だった。
「もっとイケそうだ!」という安心感とは裏腹に、約870万円という価格に対する緊張感があることは否めない……。
bimota TESI H2 目に見えるすべての機構が独創性に満ちている
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重心の高さはそのまま車高の高さによるもので、発進するまでは足着き性に苦労した。だが、タイヤのグリップが高まるにつれて、運動性能の高さというメリットがうれしくなる。ツアラー然としていたニンジャH2とは異なり、スポーティーなハンドリングは元レーシングライダーの私の心を躍らせる。
これはしかし、一般のライダーの方にも存分に感じていただける楽しさだと思う。それぐらい歴然とした違いがある。ただ、コーナー の立ち上がりではややフロント荷重が抜けるような感覚があった。いったんピットに戻りスタッフにその旨を伝えると、すぐにエキセントリックカムを回して車高を上げてくれた。これにも驚いた。
レーサーのサスペ ンションセッティングはまず車高を決めることが大原則なのだが、フロントの突き出しやスプリングを変えたり、リアのプリロードを変えたりとかなり手間のかかることでもある。ところがテージは実に簡単に前後ともの車高を変えられる。車高変更というセッティングの醍醐味を気軽に味わえるのも大きなメリットだと感じた。そして実際に立ち上がりでのフロントの安定感は増し、さらに減衰力の微調整で簡単にいいバランスが得られた。
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bimota TESI H2 乗り比べて明確に分かった TESIが目指す設計思想
スポーツ性と安定感のバランスが絶妙なテージH2。今回はサーキットでのみテストしたが、想像するに公道でもハブセンターステアリングの効能は生かせそうだ。ワインディングが楽しめることはもちろん、高速域になればなるほど安定感が増すという特性を考えると、高速道路の進路変更もかなりの安心感が得られるだろう。
唯一気になったのはエンジン特性だ。スロットルを開け始めた時の反応が鈍く、回転が上がると一気にグワッとパワーが盛り上がる。コーナー立ち上がりでの微調整ができず、なかなか手こずった。
ただしこれは同時に試乗したニンジャH2も同じ。テージH2固有の特性ではない。パワー感は凄まじいのだが、もう少し扱いやすいよう調整したいところだ。
独創的なハブセンターステアリングといい約870万円という価格といい、テージH2はまさに夢のバイクだ。他とは違う技術に挑むマインドはもちろん、実際の走りにもそれだけの価値があることが確認できた。
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メーターも共通で、各種電子制御も同様の物を装備。ブルートゥース接続で「KAWASAKI RIDEOLOGY」アプリも使用可能
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bimota TESI H2 高速道路をワープするように移動ツーリングも楽しめる(河村)
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河村聡巳
一般ライダーを代表して公道を走った本誌編集長。ドキドキだったが高速道路に乗ったとたん、そのまま500kmくらい走れそうなとっつき易さに魅了された
筑波サーキットでは僕も試乗させていただいたのだが、後日、公道でも乗ってみたくなり、無理を言ってテージH2をお借りした。
高速道路では、カッチリとした車体構成で、サスペンションのセッティングも硬く感じる。でも路面の凹凸のショックはきっちりと吸収されているので、不快な突き上げ感は皆無。ハブセンターステアリングだからと言って、その機構を意識する必要ない。直進安定性が素晴らしいのに、特別な入力をせずとも左右へのレーンチェンジが軽快にスッと決まる。
法定速度であれば、1速だけでもカバーすることができる。だが高速道路を走るのに高回転をキープするのは無意味。ギアをどんどん上げて6速に固定、トップロールオン加速でも全域トルクフルなので、ストレスなく車体を前に押し進めてくれた。
ちなみに100㎞/h走行時の回転数は4200rpm程度。そこから少々回転が落ち込んだとしても、シフトダウンすることなく、狙ったとおりに加速することが可能だ。ライディングポジションは、ハンドル位置が低く、取り付け角度が絞られ、バーエンドの垂れ角も大きい。かなりの前傾姿勢となる。
しかしステップバー、シートとのバランスが絶妙なので、走行状態であればそれほどきつくは感じない。むしろこの戦闘的なポジションが、高速道路を突き進むのに、いい意味での緊張感を伴ってその気にさせてくれた。
ワインディングでは、あらためてハンドリングのスムーズさに驚かされた。テレスコピックだと、ブレーキングでフォークを沈めて、姿勢を変化させて、なんて動きを考えるが、テージH2はほぼノーズダイブしない。ブレーキレバーを握り、意識してフロントを沈めようとしても、大きなピッチングは起こらない。不思議な感覚だ。それは懐かしのアンチノーズダイブ機構の動きとも違う。
それなのにそこから、想像しているよりも軽快にノーズが狙った方向に切れ込んでいく。ハンドリングは軽いのだが、決してオーバーステアではない。常にコーナリング体制にあるといえるディメンションは、スポーツライディングを楽しむにはうってつけだ。そうこうしているうちに、これまでテレスコピックでどうやって曲がっていたのかが分からなくなってきた。あまりに乗りやすくて、もうテレスコピックには戻れないかもとさえ思わされた。
ステージを問わず、トルクフルな特性を利用して、迷ったら一つ高いギアをセレクトする。4000?6000rpmくらいで、スルスルと走るほうが、僕には合っている。どのギアでも、それだけ回っていれば、ストレスを感じることはなく、むしろ安心でき、それが楽しさにつながる。その回転域では本来のポテンシャルを発揮しているとは言えないが、僕には十分楽しめた。テージH2のオーナーになれる方が、心の底から羨ましい。
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