自身もSUZUKI 隼のオーナーである元GPライダー青木宣篤が3世代の隼を比較インプレ
新型の3代目ハヤブサは、2代目のフレームを踏襲しているという。エンジン同様、最初はあまり期待が持てなかった。
ハヤブサを飼いならす――3世代で変わらないもの。そして、変わったもの。
劇的な変化はないのだろうか、と。しかし、走らせての印象は、やはりエンジンと同じように、かなりの進化が感じられた。 もっとも印象的だったのは、シートの真下あたりに重心が来ていることだ。GSX-R750と似た手法 でマス集中化を果たし、重量物を極力車体中央付近に集めたとのこと。
今までのフロントヘビー傾向に対して、新型はフロント50:リア50の理想的なバランスを実現している。 ハヤブサの押し引きはかなり重いので取り回すのは大変だが、いざ走り出してしまえばウソのように軽快だ。これは地道なマス集中の成果。こういうことをシレッとやってのけるのがスズキらしい。
また、フロントタイヤの接地点にきちんと荷重が乗っているのも非常に好ましい。ブレーキングすると荷重がグーッとフロントにかかるものだが、その荷重がちゃんとタイヤの接地点に掛かるようになっているから、違和感がなく、安心感が高い。
通常だとディメンションを変えなければ得られない効果だが、そのままのフレームでこれを成し遂げるとは、エンジンと同じようにかなり地道な開発が行われたはずだ。 サスペンションはよく動き、これも軽快さをもたらす要素となっている。
初代、2代目、そして今回の3代目と世代が進むにつれてサスの動きもよくなっているのだが、方向性はそれぞれに違う。初代から2代目になった時は、快適性が増した。2代目から3代目になった今回は、運動性能が高まっている。 ブレーキング時のフィードバックも多く、前輪まわりで何が起こっているのかがとても分かりやすい。
ただ柔らかいのとは違い、ハヤブサの領域である超高速域に対応する剛性感は備えつつ、挙動がよく伝わってくるので安心感がある。 初代、2代目ときて、3代目のステップアップ度合いがもっとも大きい。ハヤブサを操るにはハンドル操作が欠かせないが、それに対するリアクションがもっとも迅速で、ヒラヒラと操れる。それでいて、2代目で得た快適性は維持しているのだ。
スズキの意地とプライドを感じる
車体まわりでは、ABSもビッグステップを感じた。少し前のABSは、ブレーキングをしたまま車体を傾けていくと減圧してしまう傾向が強かった。こちらがブレーキを握っていても勝手にリリースされてしまうのだ。そしてリリースしたかと思ったらまたブレーキがかかる、の繰り返し。ブレーキ圧が10、0、10、0と変動し、ドタバタとした印象があった。
新型ハヤブサのABSに、そのような挙動はまったく見られない。6軸センサーが投入されたことによって車体姿勢を検知しているから、ブレーキ圧コントロールの精度が飛躍的に高まっている。ハードブレーキングで前のめりになりすぎると、ABSが介入する。だが、一気に全リリースするような振る舞いは見せない。
10だったブレーキ圧を7にする、といった印象だ。そして再び10に戻す。まだ前のめりだな、と判断すると7にする。これを短時間で繰り返す。そして車体の傾きに応じて7が6になり、5になり……といった具合で、制御は非常にきめ細やかだ。
ほどよい過渡が用意されているから、ここにも気がかりな点はない。「どうやったら転べるんだろう」と、不埒なことを考えてしまうほどだ。
トラクションコントロールもABSと同様に、徹底して安心感を重視した設定になっている。効きやすい傾向で、極力滑らせない。ほどよく滑らせて前進させようとする最近のスーパースポーツ系トラコンとはかなり狙いが異なる。ハヤブサの個性に合わせたセッティングと言える。
さて、初代、2代目を交えながら、新型ハヤブサを総括してみよう。初代ハヤブサのエンジンには、今になって思えばムダな燃料噴射があり、それが味わいとなっていた。燃焼のムダとムラが、血の通ったエンジンという印象を与えていたのだ。
2代目は、ジェントルになった。排気量が40㏄アップしたことで得た余裕をトルクに回し、初代にあった谷を丹念に埋めたのだ。
そして3代目、新型ハヤブサは、この形態での究極体になった。ストリートから300㎞/hまで不安なくこなせるというハヤブサらしさを維持したまま、今まで以上に高級感のある走りを備えている。
見えてくるのは、スズキの意地だ。「内燃機関を搭載する乗り物は、こうあるべきだ」という、スズキからの回答である。