上半期の注目モデル『GB350』を本誌編集長がインプレッション! 最新レトロの実力は?
往年のGBシリーズをリアルタイムで知る本誌・河村にとって、新世代のGBはやはり気になる存在だ。 2つのバランサーを装備する空冷バーチカルシングルは、不快な振動を打ち消すことで心地よい鼓動感を味わわせてくれた。
振動のない鼓動が楽しめる新世代の空冷シングル HONDA GB350
個人的にも気になる一台のGB350だが、発表時の写真では非常に華奢なシルエットに見えた。ところが実車を初めて目にしての感想は、「でかっ!」だった。ロングストロークのシリンダーが垂直に立ったエンジンから腰高にも見えるが、印象は「前後に長い」バイクだ。
スペックを確認すると、全長2180㎜、全高1105㎜、そして軸距1440㎜。意味のない比較だが、かつてのCB750フォア(K0)が全長2160㎜、全高1120㎜、軸距1455㎜である。ほぼ同寸だ。数値だけでGB350を大きいとするか、いまとなってはあの大きく見えたK0が実はコンパクトだったと判断するか……。
ちなみにGB250クラブマン(83年)は全長2015㎜、全高1035㎜、軸距1360㎜で、やはりひと回りコンパクトだったと言える。 ライディングポジションで特筆すべきは、ニーグリップがきちんとできること。内ももがしっかりと燃料タンクの面に沿う。当たり前と思われるかもしれないが、バイクによってはタンクのエッジ下にヒザが触れるものもあり、ニーグリップし辛く感じてしまうのだ。
軽いクラッチレバーをミートして走りだす。1速は発進時のみ。すぐさま2速にかき上げる。すぐに気が付いたのは、鼓動感はあるのに不快な振動がまったくと言っていいほどライダーに伝わってこないこと。
そしてスロットル開度に対し、いい意味でやや遅れ気味についてくるキャブ車のようなパワー特性。単気筒特有の弾けるような爆発感を期待すると、少し肩透かしを食らうかもしれない。低いギアで引っ張って高回転パワーを楽しむバイクではないので、歯切れよく耳に伝わってくるエキゾーストノートを味わいながら、シフトアップしていく。
タコメーターを持たないので、走行中の回転数を知る術はない。でも最大トルクは3000rpmで発揮。そして回転数を気にする必要すらない、トルクバンドの広さを誇る。個人的には3速ギアの守備範囲が広く、ストレスなく走れると感じた。
街乗りでもワインディングでも、とりあえず3速に放り込んで、あとはオートマチック的にスロットルワークのみで走る方が、エンジンの特性的に合っている気がする。その乗り方で、頻繁にシフトチェンジを迫られるシーンはなかった。
シフトダウンを極限までサボることができるほど、低速域で粘るエンジン。エンジンの回転フィールもコロコロとした好みのもの。この特性からも、GB350には「大きなスーパーカブ」的な親近感を覚える。
ギアチェンジの話をひとつ。GB350にはシーソータイプのチェンジペダルが装着されている。これはシリーズモデルの「S」では排除されているので、このモデルならではの特徴だ。通勤の足として毎日スーパーカブに乗っている私からすれば、最注目の装備だった。……が、結果から言うと、そのありがたみを使いこなすことはできなかった。
3速ギアホールドでAT的に駆け抜ける悦楽
コーナー進入時、カブと同様、ここぞというタイミングでかかとを後ろ側のチェンジペダルに乗せ、蹴りこんだ。するとGB350は……加速した。減速ではなく、加速。当たり前だ、シフトアップしたのだから。
カブはロータリー、GB350はリターン式ミッションのため、シフトアップとダウンは逆になる。もちろん普段は、カブからリターン式のバイクに乗り換えたところでシフトミスなどしない。考える前に身体が自然と反応している。
ところが、かかと側にもチェンジペダルがあるだけで、無意識に逆操作、シフトミスしてしまったのだ。結局、つま先側のペダルだけでギアチェンジすることにした。 最高出力は20㎰だが、180㎏のボディを引っ張るには、まったく不満はなかったというか、それ以上の動力性能の必要を感じなかった。
鼓動感を楽しみながらの3速クルージングでは、シフトチェンジも急加速もないため、今回の試乗では、せっかく装備されているアシストスリッパ―クラッチ、ホンダセレクタブルトルクコントロールの恩恵にあずかることはなかったと思う。
3速ギアの守備範囲でのハンドリングは「しなやか」そのもの。試乗の際は、もっとも好みのハンドリングを求めてシート上で前後に動き、ベストの乗車位置を探るが、GB350は最初に腰を下ろした位置で違和感なく、ニュートラルなハンドリングが得られた。
意識して車体を寝かさずとも、バンク角に応じてキレイに舵が入ってくれる。曲がりすぎるわけでも、曲がらないわけでもない。路面が荒れていても、前後サスの吸収性と相まって、フレームがきれいにショックをいなしてくれた。
ちなみにフロントには19インチホイールを装着している。これは未舗装路が多いインドの道路状況による理由もあるだろう。かといって、「19インチだから」と特別に意識することはない。粘るエンジン特性と相まって、Uターン時でも特に身構える必要はなかった。
フロントブレーキはシングルだが、制動力、コントロール性ともに十分といえる。気に入ったのは、リアブレーキペダルの操作ストロークの少なさ。タッチがよく、かつコントロール性に優れているので、嬉々として多用していた。
GB350は、インドで生産されたパーツを日本に輸入して、塗装から組み立てまでを熊本製作所で行うという。だからというわけではないが、品質は折り紙付き。決して速くはないが、走っていてストレスは感じずハンドリングは素直。心地よい鼓動感と良質で歯切れのよいエキゾーストノートを、いつまでも楽しみたくなるバイクだ。