元MotoGPライダーの中野真矢がMVアグスタの新型BRUTALE RR SCSをインプレッション
MVアグスタのミドルカテゴリーを担うスーパーネイキッド、BRUTALE 800の2021年モデルが登場。 国内にはスタンダードモデルのROSSOと、トップグレードモデルのRR SCSの導入が決定した。日本上陸を果たしたばかりの、BRUTALE RR SCSを、中野真矢がサーキットでインプレッション。新生BRUTALEは何処がどのように変わったのか? そして、その走りは如何なるものか?
MV AGUSTA BRUTALE RR SCS 知的な野獣
年々厳しくなる排気ガス規制。地球環境を考えれば、やむを得ない話ではあるが、こと“バイクの楽しさ”については難しい面もある。排気ガス規制はエンジンの性能に大きく関わってくる。従来からあるエンジンを新規制に適合させると、パワーダウンする傾向が強いからだ。
ブルターレは刺激的な乗り味が魅力の一台。そしてキャラクターを際立たせているのが、エンジン特性だ。今回試乗したブルターレ RR SCSは、新排気ガス規制のユーロ5に適合すべく刷新されたモデルである。
私、中野真矢は初期型のブルターレ800を所有していたことがある。購入の決め手は、ラジカルなパワーフィール。 いや、言葉を濁すのはやめよう。初期型ブルターレ800は、レスポンスは過敏、パワー感は強烈。“こんな過激なバイクってアリ?”と思わせる、凶暴とも言える乗り味に魅せられたのだ。
だからユーロ5の対応で、“牙”が抜かれてはいないかと気になっていた。 また、車名にあるSCSにも注目していた。SCSは「スマート クラッチ システム」の略称。自動遠心クラッチを採用し、ほぼ全てのシーンでクラッチ操作を不要としている。クイックシフターとオートブリッパーの一般化により、走行中にクラッチ操作を行わないマシンは珍しくはない。
だが、SCSは発進や停止時にもクラッチ操作が不要。停止状態からの発進時、ギアを1速に入れる時でさえ、クラッチを切る必要はない。ブレーキをかけ、シフトペダルを踏み込むだけだ。 SCSには、興味を惹かれると同時に、違和感と若干の不安も感じていた。
自分にとって、バイクにクラッチ操作は不可分。スロットルとクラッチの操作は、パワー特性を掴むための作業でもあるからだ。それを、スロットルだけで行うのは、自分の引き出しにはない。不安にもなる。だが、なんということはない。軽く緊張しつつスロットルを開けると、あっけないほど普通に発進した。 考えてみれば自動遠心クラッチはスーパーカブでお馴染み。
よほどスロットルを急に開けなければ破綻しない。最高出力140hpのハイパワーマシンであっても、そこに変わりはなく、スクーター感覚で発進できた。 最初の走行では、パワーは抑えめで、トラクションコントロールもしっかり介入させるモードを選択。とても乗りやすく、ブルターレらしい俊敏さは感じられるのだが、今ひとつ物足りない。
そこで、フルパワー&トラクションコントロールOFFにセットを変更。 これはもう最高だ。自分の知る過激なブルターレは、ユーロ5規制でも健在。ウイリーコントロールもOFFにすると、1速2速ではフロントがポンポンと浮く。
今回、ブルターレ800のスタンダードモデル・ロッソの20年型と乗り比べることが出来た。熟成の進んだ先代ロッソはアクセレーションが素晴らしく、実に完成度の高いモデルであったのだが、さすがに最新最強モデルのRRの方が速い。コーナー間の短いストレートで、最高速が約10㎞/h違う。
ブルターレ専用エンジンのロッソに対し、RRのそれはスーパースポーツF3由来のもの。エンジンパーツの多くが異なり、より高回転・高出力型となっているだけのことはある。ロッソも素晴らしいが、パワーを求めるのならRRだ。そして、SCSが走行中にスポーツ性をスポイルすることは一切なかったことを記しておきたい。
その上で、街乗りでのメリットは大きい。例えば、気持ち良くワインディングを走った帰り道の渋滞路。そうしたシチュエーションでの肉体面・精神面の疲労度は大きく軽減されるだろう。加えて、クラッチレバーを使用してのマニュアル操作が残されているところも嬉しい。クラッチレバーは重いが、万が一のトラブル時にも走行可能というのは安心材料だ。
と、ブルターレ RR SCSの親しみやすい部分だけを強調してはきたが、このバイクはそれだけではない。パワフルなエンジンに俊敏な車体。ポテンシャルの全てを引き出すのは、生半可なスキルでは叶わない。荷重がフロント寄りになりやすい、ストリートファイター的ポジションに、ストローク量の大きなサスペンションはモタード的。
ハンドリング自体はニュートラルだが、極めてクイック。一般的なネイキッドのつもりで乗ると戸惑うだろう。自分の場合、着座位置を後方に置き、後輪への荷重を増やすと、より気持ち良く攻めることができた。
ブルターレの走らせ方に悩んだら、試していただきたい。もっとも、乗り方に絶対の正解はない。いろいろとトライをしてみるべきだ。このマシンには、それだけのキャパシティがある。そして、自分とマシンがシンクロした時の快感は格別だ。ある意味、スーパースポーツを超えたスポーツネイキッド。それがブルターレというマシンだ。
ヘッドライトはBRUTALE1000と共通のフルLED。フロントフォークはMARZOCCHI製φ43mm。ブレーキシステムはブレンボで固める
スタンダードモデルのROSSOもEuro5に対応
BRUTALE800のスタンダードモデルROSSOも、Euro5に適合した’21年型が登場。逆回転クランクを採用する並列3気筒の最高出力は112hp/11000rpm、最大トルクは85Nm/8500rpmを発揮。4つのパワーモード、8段階のトラクションコントロール、アップ&ダウン対応のクイックシフターなど、最新の電子制御を満載しながら200万円を切る198万円を実現。