スポーツも楽しめる新ジャンル、アーバンアドベンチャー|群雄割拠のミドルクラス
アーバンアドベンチャーの最適車格として注目度が高まりつつあるのがミドルクラス。既存のリッターアドベンチャーは、威風堂々としているがやっぱりデカすぎるし、400㏄以下ではエンジン性能に物足りなさを感じる……なんてライダーは多い。タイガースポーツ660の新登場により、’22年はこれまで以上に盛り上がりそうな予感!
ミドルクラスADVにもエンジンの楽しさあり
普段のショートツーリングや市街地移動、年に数度のロングツーリングまで、バイクライフの幅広いシーンをカバーしやすいのが、ミドルクラスのアーバンアドベンチャーだ。
近年、国内外で高い人気が継続されているアドベンチャーカテゴリーでは、数年ほど前からダウンサイジングもブームとなりつつある。
リッタークラスが現在もこのカテゴリーの主役であることは間違いないが、アドベンチャーは基本的に足長で外装類のボリュームがあるので、リッタークラスだとかなり車体がデカくなる。「ダートを走るつもりはまるでないけど、舗装路で乗るにしてもリッターは持て余しそう……」と敬遠するライダーがいても、なんら不思議はない。
しかし、アドベンチャーの快適なライディングポジションや頼れる荷物積載性、アクティブな雰囲気のルックスは魅力。そこで、もう少し小さいサイズを求める人が多くなってきたと考えられる。
現在では400㏄以下のアドベンチャーも増えてきたが、ある程度の俊敏性や動力性能の余裕を考えると、良好なバランスと思われるのが600〜750㏄あたり。今年、この排気量帯にトライアンフが新機種のタイガースポーツ660を投入したことで、ライバルメーカーの車両も含めて注目度が上がるかもしれない。
タイガースポーツの開発ベースとなっているのは、99万3000円という戦略的な価格で市場に衝撃を与えた、ネイキッドのトライデント660。もちろん外装デザインや車体各部の仕様は専用化されているが、660㏄水冷直列3気筒エンジンはカタログ上のスペックを同じくして、81㎰の最高出力を発揮する。
しかし実際に乗ってみると、タイガースポーツのパワーユニットはスペック以上の俊敏な加速性能を披露する。これは、かなりショートなギア比によるもの。レッドゾーンは1万500rpmに設定されているが、1速なら73km/h、2速でも102km/hでレブリミットに到達する。6速100㎞/h巡航時は約4500rpmなので、トップギアでの高速走行に余裕がないわけではないが、ギア比を加速方向に振って俊敏な雰囲気を演出してあるのだ。
600~750㏄のアドベンチャー系モデルは一般的に2気筒エンジンを採用するが、タイガースポーツ660は直列3気筒のエンジンをクラスで唯一搭載している。
ちなみに、クローズドコースでトラクションコントロールをカットしてみたところ、ライディングモードをロード、レインのどちらでも、1速ならスロットルワークだけで前輪が宙に浮いた。もっとも、そんな激しい乗り方をしなくても、3気筒エンジンは独特なドロドロとしたサウンドを奏でてライダーを飽きさせない。また、3気筒としてはかなりフラットにパワーが立ち上がる味つけなので、普通に走るぶんには加速で極端に車体姿勢を乱すこともない。
前後ホイールは17インチ。タイヤ銘柄とサイズがトライデントと共通のオンロード寄りの構成。そのため、前後サスペンションこそやや長めながら、オンロードスポーツ車から乗り替えてもさほど違和感はないはずだ。ただしハンドリングは、スーパースポーツのようにフロントからグイグイ曲がる感じではない。舵角をやや多めに付けながら、前輪がほんの少し大回りするような感覚があり、このあたりはいかにもアドベンチャーといった雰囲気だ。
ちなみに、Uターンは非常に得意。ハンドル幅がそれほど広くないため、フルロック状態でもグリップに手が届きやすく、操作しやすい。ツーリング先ばかりでなく、普段使いもするアーバンアドベンチャーとして、これも大きな利点となる。とはいえ、やはりタイガースポーツ最大の魅力はエンジンにあるが、同じようにエンジンフィーリングに優れたミドルアドベンチャーとしては以前から、スズキのVストローム650も人気が高い。
熟成が進んだ645㏄水冷Vツインエンジンは、低回転域からトルクがあって市街地でも走りやすく、そのまま高回転までフラットに回る。大きな盛り上がりや、エキサイティングなパワー感こそないが、だからこそ扱いやすく、長旅でも疲れない。こう書くと退屈なエンジンに思われそうだが、実際にはVツインならではのパルス感がしっかりあってクルージングはかなり心地よく、そして飽きない。
’99年型SV650シリーズがルーツで、20年以上も熟成されてきた645㏄水冷Vツインエンジン。2モード+オフに切り替できるトラコン付き。
ハンドリングはタイガースポーツと比べてニュートラルで、穏やかな旋回性ながらライダーのフィーリングに忠実。これまた、旅でも疲れにくい性格だ。タイガースポーツもUターンは得意だが、Vストロームのハンドル切れ角は非常に大きく、ハンドルをフルロックで小回りしたときにはホイールベースが1560㎜もあるとは信じられないほど。シート高はそれなりにあるが車体はスリムで、市街地でも使いやすい。
ヤマハのテネレ700みたいにオフロード走破性能を重視した車種もあるが、適度な車格とパワーをオンロードでの万能性につなげるというのが、ミドルアドベンチャーの基本路線。タイガースポーツ660やVストローム650は、まさにこの方向性にある。ゴージャスな装備こそないが、これまでロードスポーツモデルに乗ってきたライダーでも、違和感なく乗り替えられるだろう。
TRIUMPH TIGER SPORT 660
十分な俊敏性を感じられるエンジン特性とオンロードスポーツ系に近いハンドリング
【TIGER SPORT 660 SPECIFICATIONS】 ■水冷4ストローク直列3気筒DOHC4バルブ 総排気量660cc■最高出力81ps/10250rpm ■最大トルク64Nm/6250rp■タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 ■全幅×全高 834×1398 /1315mm※ ■ホイールベース 1418mm ■シート高835mm ■車両重量207kg ■燃料タンク容量17.2L ■価格112万5000円 ※スクリーンポジションにより変動
SUZUKI V-STROM 650 ABS
熟成のVツインエンジンが生むパルス感と穏やかでまとまりのある操縦性
【V-STROM 650 SPECIFICATIONS】 ■水冷4ストロークV型2気筒DOHC4バルブ 総排気量645cc■最高出力69ps/8800rpm ■最大トルク6.2kgf・m/6250rpm ■タイヤサイズF=110/80R19 R=150/70R17 ■全幅×全高 2275×1405mm ■ホイールベース 1560mm ■シート高835mm ■車両重量212kg ■燃料タンク容量20L ■価格92万4000円