次世代スポーツツアラーHONDA NT1100 試乗インプレッション
ビッグアドベンチャー、アフリカツインのエンジンを搭載したモデルとしては、第三弾となるNT1100。コンセプトは次世代スポーツツアラーとのことだが、一体どんなキャラクターに仕上がっているのだろうか?
ワインディングを軽快に走れる次世代スポーツツアラー
軽い。走り出した瞬間にそう感じた。とはいえ車両重量は248㎏もある。リッタークラスとしては決して軽いほうではないが、迫力ある見た目のボリューム感とは裏腹に、操作感がものすごく軽く感じられたのだ。
NT1100が登場すると聞いたとき、17インチホイールを履いたアドベンチャー寄りのモデルなのだろうと思った。アドベンチャースタイルのX-ADVを彷彿とさせるデザイン。加えてエンジンとフレームはアフリカツインがベースというから、てっきりヤマハ・トレーサー9GTやカワサキ・ヴェルシス1000SEのようなキャラクターを連想してしまっていた。
ところがホンダによれば、あくまでスポーツツアラーであって、アドベンチャーではないという。もちろん、デザインに関して言えば、流行りのアドベンチャーテイストを意識していないことはないだろうが、走りのキャラクターは次世代のスポーツツアラーを目指した、とのことだ。
この「次世代」スポーツツアラーとは何か? 試乗する前は正直意味がわからなかった。だが乗ってみると、新規軸に合点がいった。
今までの高速ツアラー作りの手法は、時速160㎞での巡航は当たり前というヨーロッパのアウトバーン走行にも対応するため、車重は重めで、車体剛性もかなり高く設定するのがセオリーだった。
しかし、このNT1100の作り方は全くの逆。まずメインフレームとエンジンはアフリカツインがベースだ。そもそも、アフリカツインはアドベンチャーモデルの中でもオフロード特性が強いモデル。不整地でしっかりと路面を掴むために、縦方向はともかくとして、横方向の車体剛性はかなり低く設定されている。
おかげでNT1100は、街中やタイトな日本のワインディングがものすごく走りやすい。重く剛性の高い車体を持て余し気味になる一般的な高速ツアラーにはない扱いやすさがある。しかも、それが走り出しから感じられるのだから驚きだ。
ワインディングセクションに持ち込むと、さらにイメージが変わった。エンジンはアフリカツインと同じくパルスの強いテイスティなもの。オートマチックのDCTだけに、マニュアルトランスミッションと比較するとスポーツ性はないが、それでもコーナリングでは十分にトラクションをかけて地面を蹴り進む楽しさを味わわせてくれる。ボリューミーな見た目に反して、一般的な高速ツアラーにはないスポーツ性があるのだ。
驚かされたのはやはり車体性能だ。前述したとおりのしなやかなフレームが、ワインディングでなかなかにいい仕事をしている。
試乗後、開発陣にインタビューする機会を得た。すると、この走りの軽快感には相当こだわった……というより「軽快な走行フィーリングのツアラー」というコンセプトありきで開発がスタートしたとのこと。
ワインディングを気持ちよく駆け抜けるキャラクターのためにフメインレームを新作することも考えたそうだが、アフリカツインの流用がベストという結論に落ち着いたのだとか。もちろん、ヘッドライトなどの構造変更のため、取り付け穴などの細部は変更されているが、特性を左右するような変更は加えられてない。
一方の足まわりは、バネ下重量の軽減を狙ってかなりのパーツが新作された。ロードセクションを重視し17インチサイズのホイールをチョイスするとともに、ホイールそのものも軽量化。さらに、衝撃吸収性をアップさせるスポーク部交差形状も採用されている。新作のスイングアームは、アルミ鋳造ではあるものの圧力鋳造を採用したことで、押し出し材を採用したアフリカツインのアルミスイングアームと遜色ない軽さを実現したのだという。
ワインディングでのスポーツ性アップのために、ライダーの上半身が僅かに5度前傾、前輪分担荷重51%というこだわりのライディングポジションが設定された。結果、アップライトなポジションで前方視界を稼ぎながらも、しっかり前輪荷重を意識して曲がって行けるようなキャラクターが生まれたのだ。
実際、しなやかな車体からのインフォメーションは多く、思いのほかスポーツ走行が楽しい。もちろんサーキットレンジのハイスピードな走りにも適しているとは思わないが、ワインディングを気持ちよく走るのなら、このくらいのスポーツ性が実にちょうどいいと感じる。
最後に高速走行。記すべきは何よりもウインドプロテクションについてだろう。NT1100は、5段階、165㎜幅で動かせる大型スクリーンを装備するとともに、足元の走行風を減らすディフューザーにも徹底してこだわっている。特に最大13度角度が変わるスクリーンの出来は秀逸。寝かせれば風を感じられるのに対し、立てればほぼ走行風はライダーに当たらない。ホンダの現行車は一通り試乗しているが、ここまで防風性能が変化するモデルにはお目にかかったことがない。
NT1100は、ワインディングも楽しく走れて、街乗りがしやすく、そして程よい高速巡航性能も合わせ持っている。試乗を終えると、ホンダの言う次世代スポーツツアラーの形が見えてきた。
エンジン | 水冷4ストローク直列2気筒SOHC4 バルブ |
総排気量 | 1082cc |
ボア×ストローク | 92.0×81.4mm |
圧縮比 | 10.1:1 |
最高出力 | 102ps/7500rpm |
最大トルク | 10.6kgf・m/6250rpm |
変速機 | 電子式6 段(DCT) |
クラッチ | 湿式多板 |
フレーム | セミダブルクレードル |
サスペンション | F=SHOWA製φ43mm倒立フォーク R=リンク式モノショック |
ブレーキ | F=4ピストンラジアルマウントキャリパー+φ310mmダブルディスク R=シングルピストンキャリパー+φ256mmシングルディスク |
タイヤサイズ | F=120/70ZR17 R=180/55ZR17 |
全長×全幅 | 2240×865×1360<1525>mm |
ホイールベース | 1535mm |
シート高 | 820mm |
車両重量 | 248kg |
タンク容量 | 20L |
価格 | 168万3000円 |