DUCATI DesertX 郷愁漂うルックスに惑わされるべからず!電子制御が実現した秀逸のオンロード性能
’80~’90年代のラリーレイドマシンを彷彿させる、DUCATIのデザートXがついに日本上陸! 本格的なオフロード仕様に見えるこのマシンだが、DUCATI得意の各種電子制御を満載し、オンロードでのスポーツ性能も両立しているという。そんな話題のマシンに、DUCATIで鈴鹿8耐に出場し、DUCATI公式のサーキットレッスン「DRE」ではインストラクターを務める、ジャーナリスト伊丹孝裕がライドした。
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.ITAMI
取材協力/ドゥカティジャパン
希少なホモロゲーションモデルを手に入れ、ただしそれを本気の競技仕様に仕立てるのではなく、ストリートでサラリと流す。そういう使い方を夢見たことがある人は、案外多いと思う。時代をかなりさかのぼるなら、四輪のラリー向けに少数が生産されたグループBカーあたりが究極だろうか。ランチア・ラリー037、ルノー・5ターボ、プジョー・205T16などがその象徴で、漂う雰囲気はシリアスそのもの。そこには粋で、スタイリッシュで、それなりのやせ我慢を伴うストイックさがあり、限られた者しか踏み込めない世界が感じられる。
ドゥカティの新型マシン「デザートX」を眺め、そして走らせていると、ふとそれに近い感覚を体験している気になれる。’80年代から’90年代のパリ・ダカールラリー黄金期を彩ったモンスターマシン達。それをプライベートで操っているような浮世離れ感だ。無論、本物がどうだったかは知る由もない。ただし、目線を落とした先に広がる燃料タンク、区間距離も計測できるラリーメーター、ユーティリティよりもスポーツ性に特化した足まわり……といったあれこれに接すると、自然と想像力が掻き立てられる。かつて砂漠を疾走するラリーマシンに憧れた世代なら、このスタイリングを前にするだけで、少なからず心拍数が上がるのではないだろうか。
もっとも、デザートXはただ昔を懐かしむネオクラシックではない。かつてのラリーマシンをモチーフにしているのは確かだが、エンジンもサスペンションも電子デバイスも走破性を最優先に仕立てられている。したがって、足つき性にさしたる配慮はなく、エンジン特性はストップ&ゴーにおけるトルクよりも、スロットルを開けた時のパワーデリバリーを重視。ライディングポジションは、スタンディング時にしっくりと馴染み、あちらこちらから戦いの匂いがする。ライダーフレンドリーであることにあまりプライオリティはなく、だからこそ、たたずまいが凛々しい。優しさを求めるのなら、スクランブラーが受け皿になってくれるはずだ。
専用のスチールトレリスフレームに懸架されたエンジンは、他のモデルで実績のある937ccの水冷テスタストレッタ11°デスモドロミックだ。ホイールはフロントに21インチ、リアに18インチを採用し、KYBサスペンションのトラベル量は前後それぞれ230mmと220mmを確保。最低地上高は250mmになっている。
印象的なのは、しなやかにストロークするフロントフォークの上質さだ。路面の凹凸をきれいにいなし、タイヤの路面追従性を引き上げてくれている。また、ブレンボのM50モノブロックブレーキキャリパーとの相性が抜群によく、ブレーキレバーの入力量によって、フォークのストローク量と車体姿勢をいかようにも調整、もしくは修正することができる。ブレンボのメリットは正確なコントロール性にあるが、それを最も体感しやすいパッケージだと思う。
エンジン特性と各種電子デバイスを統括するライディングモードには、スポーツ/ツーリング/アーバン/ウェット/エンデューロ/ラリーの6パターンが設定されている。その選択によって、最高出力(110ps/95ps/75ps)と、そこに至る過渡特性(フル/ハイ/ミディアム/ロー)の他、トラクションコントロール(8段階)、ウィリーコントロール(4段階)、エンジンブレーキコントロール(3段階)、ABS(3段階+前後解除も可)が瞬時に切り換わり、車体の安定性やスポーツ性を最適化することができる。
オンロードではスポーツを、オフロードではラリーを選ぶとエンジンのポテンシャルが最大限引き出され、セーフティ機能の介入度は低下。この2つのモードで引っ張ると7000rpmあたりからひときわ快活になり、他のモードだとフラットに伸びていく。ごく簡単に大別すると、そういうフィーリングの違いがある。
ライディングモードがなんであれ、クラッチを繋ぐ時、あるいはスロットル微開時にレスポンスが鈍くなる領域がある。体感的にはトルクが薄く、走り始めはこれを不思議に思っていた。同系エンジンを搭載するモンスターやムルティストラーダV2とは印象が異なるからだ。
撮影のために少しばかりダートに持ち込んだ時、その理由が少し分かった。そうした路面では、ダイレクト過ぎるのも考えものだ。少々ダルな領域があった方が開けやすく、スロットル操作に対して神経質にならないで済む。そのタイムラグによってタイミングが計りやすくなり、実走を通して作り込まれたことがよく分かる。
エンジンや車体から発せられるメッセージが多く、ライダーがすべきは、いかにそれを引き出すかだ。バイクの方から積極的に寄り添ってくれるタイプではなく、そのハードルは決して低くない。ただし、その車上では特別なものを手にしている強い満足感と高揚感を堪能することができる。本領が発揮されるオフロードでの振る舞いは、然るべきライダーが別の機会に届けてくれるので、少々お待ち頂きたい。