APRILIA 660シリーズを進める理由|原田哲也インプレッション
昨年春、日本で発売されたばかりのRS660とトゥオーノ660をテストライドして、アプリリアが導入した660シリーズのパッケージングを大絶賛した原田哲也さん。あれから1年以上が経過したこの夏、大小ふたつのサーキットで再び試乗してもらい、あらためてこの2台が持つ魅力と未来の可能性について、大いに語ってもらった。
軽さは武器!抜群の楽しさにもつながる
昨年、デビュー間もないアプリリアのRS660に筑波サーキット・コース1000で試乗して、「まるで250㏄のような感覚で操れるし、軽いのに電子制御満載だからコーナーがおもしろい!」と太鼓判を押した、’93年ロードレース世界選手権GP250王者の原田哲也さん。あれから約1年が経過し、あらためてこのRS660および兄弟モデルのトゥオーノ660を、モビリティリゾートもてぎ・ロードコースと筑波サーキット・コース1000でじっくり堪能してもらった。
今年、スーパースポーツのRS660にはリミテッドエディションが1500台限定で追加された。走りに影響を与えるパーツはスタンダードと共通だが、車体色が専用化され、いくつかの純正アクセサリーパーツを標準装備する。また、バーハンドルを装備したストリートファイターのトゥオーノ660には、上級版となるファクトリーが追加。こちらは、最高出力や電子デバイスの制御がRSと共通化され、前後サスペンションがRSやスタンダードよりもグレードアップされている。
「今回は大小ふたつのサーキットで乗り比べましたが、そこでまずRS660とトゥオーノ660ファクトリーに感じたのは、いずれも”速く走りたい”ではなく”楽しみたい”という気持ちを持つライダーに向けたバイクだということ。特にベストマッチなユーザー層を挙げるなら、女性や初中級者、年配のライダーあたりだと思います」
原田さんは、このシリーズに対する印象をこのように語る。その大きな理由は……軽さだ!
「ミドルクラスのツインなので、例えばリッタークラスの4気筒スポーツモデルと比べたらかなり軽く、これはスポーツライディングを楽しむ上で大きなメリット。操作するときに自在感を味わうという楽しさを生みます。この利点は、ツーリングでも同じ。重いと疲労につながるし、Uターンひとつするのも大変。そもら引っ張り出すのにも苦労するから、気づいたら乗る機会が減っていた……なんてことにつながりかねません」
原田さんがバイクに求める”楽しさの質”は、パワーや車格にまるで依存していない。オーバースペックで持て余すより、実質的な性能に優れる車種のほうが、結果的に豊かなバイクライフになることを、長年の経験により熟知しているのだ。
「もちろん、『1000ccのパワーがいいんだ!』という人を否定するつもりはありません。でも僕は、操る楽しさのほうに重点を置いています。そして、RS660やトゥオーノ660にはそれがあります。しかも、この660シリーズのエンジンだって、厳密に言えば扱い切れないくらいの十分なパワーだと思うんです。”簡単”ではないですよ」
SPECIFICATIONS
RS660 Limited Edition
エンジン | 水冷4ストローク直列2 気筒 DOHC4 バルブ |
総排気量 | 659cc |
ボア×ストローク | 81.0×63.93mm |
圧縮比 | 13.5:15:1 |
最高出力 | 100hp/10500rpm |
最大トルク | 6.83kgf・m/8500rpm |
変速機 | 6段リターン |
クラッチ | 機械式スリッパーシステム付き湿式多板 |
フレーム | ダブルビームアルミ製 |
サスペンション | F=KYB 製テレスコピック倒立フォークφ41mm 伸側減衰力&スプリングプリロード調整付き R=モノショック 伸側減衰力&スプリングプリロード調整付き |
ブレーキ | F=φ320mmダブルディスク+ブレンボ製ラジアルマウント32mm対向4ピストンキャリパー R=φ220mmシングルディスク+ブレンボ製32mm対向2ピストンキャリパー |
タイヤサイズ | F=ピレリ製ディアブロ・ロッソコルサⅡ 120/70ZR17 R=ピレリ製ディアブロ・ロッソコルサⅡ 180/55ZR17 |
全長×全幅 | 1995×745mm |
ホイールベース | 1370mm |
シート高 | 820mm |
車両重量 | 183kg |
タンク容量 | 15L |
価格 | 154万円 |
今回の試乗では、MotoGPも開催されるもてぎのロードコースと、1周約1kmで低中速コーナーのみで構成された筑波サーキット・コース1000という、スピードレンジが異なるふたつのサーキットを走行した。
「速度域が高いもてぎでは、やはりセパレートハンドルで前傾姿勢をとりやすいRSのほうが好印象。でもコース1000では、トゥオーノのほうがクイックに曲がり、とくにタイトカーブでは、より自分の思い描いたとおりのラインで旋回できます。これは、ポジションというよりはリアサスペンションの違いが大きく、トゥオーノ660ファクトリーはリアサスのグレードアップが図られているため、リアを高い位置に保ってくれます。昨年、コース1000でRSに乗ったときに、『コーナーの奥でもう少しフロントが低い状態を保ってくれるようにサスをセッティングしたい』と指摘したのですが、トゥオーノ660ファクトリーはスタンダードでもその状態に近い印象です。RS660は、リアサスペンションがやや入りすぎる傾向なので、プリロードをかけるなどの調整をしてあげるといいかもしれません」
ただし、サスセッティングよりも先に、「サーキットを走るなら、まずはもっとハイグリップなタイヤを履かせたい」と原田さん。ちなみにOEM装着されているのはピレリのディアブロ・ロッソコルサⅡだ。
「悪いタイヤではないですが、路面温度がかなり高かったこともあり、だいぶズリズリと……。でもハイグリップタイヤに換装してあげたら、よりクイックに曲がるはず。そもそも、『もっと鋭いコーナリングを』と追求したくなるようなバイクです。ハイグリップタイヤを履かせることで、旋回時にサスはもう少し入るはずなので、その状態でサスペンションセッティングしてあげるのが最良でしょう」
アプリリアの660シリーズは、2気筒エンジンのミドルクラスということで、価格が100万円台半ばに抑えられている。「リッタークラスもいいですけど、660を選んでタイヤやサスなどを自分好みに仕上げていくというのも楽しいし、所有欲を満たすことにもつながるはず」と原田さんは推奨する。
しかもこのシリーズは、エンドユーザーがカスタムすることが難しい電子制御に関しては、リッタークラスに匹敵する充実ぶり。RS660およびトゥオーノ660ファクトリーは6軸IMU(慣性計測装置)付きで、エンジンマップ調整にトラクションコントロール、コーナリングABS、ウイリーコントロール、エンジンブレーキコントロール、上下クイックシフト、さらにクルーズコントロールと盛りだくさんだ。ライディングモードはロード用が3種類とトラック用が2種類あり(それぞれ1モードは任意設定用)、さまざまな電子制御の介入レベルも連動して切り替わる。
SPECIFICATIONS
TUONO 660 Factory
エンジン | 水冷4ストローク直列2 気筒 DOHC4 バルブ |
総排気量 | 659cc |
ボア×ストローク | 81.0×63.93mm |
圧縮比 | 13.5:15:1 |
最高出力 | 100hp/10500rpm |
最大トルク | 6.83kgf・m/8500rpm |
変速機 | 6段リターン |
クラッチ | 機械式スリッパーシステム付き湿式多板 |
フレーム | ダブルビームアルミ製 |
サスペンション | F=KYB 製テレスコピック倒立フォークφ41mm フルアジャスタブル R= 別体式リザーブタンク付きモノショック フルアジャスタブル |
ブレーキ | F=φ320mmダブルディスク+ブレンボ製ラジアルマウント32mm対向4ピストンキャリパー R=φ220mmシングルディスク+ブレンボ製32mm対向2ピストンキャリパー |
タイヤサイズ | F=ピレリ製ディアブロ・ロッソコルサⅡ 120/70ZR17 R=ピレリ製ディアブロ・ロッソコルサⅡ 180/55ZR17 |
全長×全幅 | 1995×805mm |
ホイールベース | 1370mm |
シート高 | 820mm |
車両重量 | 181kg |
タンク容量 | 15L |
価格 | 145万2000円 |
「試しにロード向きのモードでサーキットを走ってみたら、さすがに介入が多すぎて、トラコンも立ち上がりのかなり早い段階で効いてしまいました。まあ、それだけ早く全開にできている証でもありますが……。そこで、モードはトラックに変更して、トラコンは”2”に。これなら、まだ多少は介入しているはずですが、非常にナチュラルなので気づきません。ここから先は、ライダーの技量や好みでアジャストすべき部分。いずれにせよ、このクラスでいろんな電子制御を細かくセッティングできるというのが、大きな魅力になっていると思います」
ただし原田さんは、電子制御よりもまず”軽さ”、そしてもうひとつ、”開けられるエンジン性能”のほうをより高く評価している。
「リッタークラスだと、サーキットによっては僕らでも扱い切れないことがあります。カパッとスロットルを開けられず、探っているだけで終わるからストレスが溜まるばかり。開けられずに悶々とするなんて公道と同じで、せっかくのサーキット走行なのに残念すぎます。でもこの660シリーズなら、適度なパワーで遅すぎないけど全開時間が長いので、走り終わったときに爽快感が得られます。しかも車体の軽さがあるから、意のままに操れるという快感も。つまり、スポーツライディングしていて楽しいんです。昨年も断言したのですが、これは一般ライダーにも安心して薦められるシリーズです」