APRILIA RSV4 Factory【217hpを使い切るための進化】
今季のMotoGPで、大躍進を続けているイタリアのアプリリア。その公道向けフラッグシップが、’21年型でより進化したRSV4ファクトリーだ。RSV4デビューイヤーにSBKでこのマシンをライディングした中野真矢さんが、MotoGPテクノロジーも導入しながら進化した最新型に、サーキットで対峙した。
217hpを使い切るための進化
今年の第3戦アルゼンチンGPをアレイシ・エスパルガロが制したことで、ロードレース世界選手権最高峰・MotoGPクラスでの初優勝を手にしたアプリリア。その後も、エスパルガロとチームメイトのマーベリック・ビニャーレスは、ともに連続表彰台登壇を果たすなど、好調な走りをみせている。
そんなアプリリアのMotoGPマシン「RS-GP」で培われた技術を惜しみなく投入しながら、進化が続けられている市販スーパースポーツが、水冷V4エンジンを搭載したRSV4シリーズ。初代は’09年型でデビューし、昨年には排気量増を含むアップデートを受け、「RSV4ファクトリー」の車名となった。
「よしっ!」
いつも以上に周回数を重ねてサーキット試乗を終え、ピットに戻ってきた中野真矢さんの口から、RSV4ファクトリーを降りると同時に思わず感情がこぼれた。ライディングに確かな手応えと気持ちよさがあった何よりの証拠だ。
「ヨーロピアンメーカーの攻勢がかなり強いということを、MotoGPのリザルトだけではなく市販車の走りでも感じさせられるような1台」
中野さんは最新型RSV4の走りを、まずはこのように表現した。
「現役レーサーとして最後の年、つまり’09年に、戦いの舞台をそれまでのMotoGPからSBK(スーパーバイク世界選手権)に移して、アプリリア・レーシングから参戦しました。このとき、デビューイヤーだったRSV4の開発にも携わらせてもらいましたが、初代RSV4はかなり尖ったバイクで、セッティングもピンポイントだし、タイヤが新品のときはいいけどタレてくると速く走れないなんてことも多くて……。そういう気難しさがあるバイクが、何度かモデルチェンジを繰り返してきて、ついにここまでのパッケージになったのかと思うと、感慨深いものがあります。プロレーサー引退後からこれまで、歴代のRSV4に何度も試乗させてもらっていますが、この’21年型は進化の〝最終形〞に近いと思います」
そして、その外観から、非常にスパルタンな乗り味のバイクを想像してしまいがちだが、「それは大きな間違い!」とも力説する。
「かなりフレンドリーなバイクに仕上がっています。もちろんこれは、あくまでも〝スーパースポーツ系の中で〞という前提付きで、〝乗り手を選ばない〞という意味ではないのですが……。例えばセミアクティブの前後サスペンションは、走っていると柔らかく感じて、リアはふかふかな印象すらありますが、そのおかげでタイヤがタレてきてからも同じようなペースで走り続けられます」
試乗日の気温は30℃以上。計測はできなかったが、晴天だったので路面温度は50℃前後だったと思われるが、たしかに中野さんはそのように過酷な環境下の筑波サーキット・コース1000を何十周も正確なリズムで走り続けていた。
「もう10年以上前の古い話になりますが、僕が乗っていた初期型RSV4の大きな弱点は、コーナーの進入でフロントブレーキをリリースしたところから、フロントのフィーリングが薄くなるというもの。しかし最新型に、その名残は皆無。フロントブレーキレバーを離してからも、前輪の接地感がずっとあります」
一方でエンジンも「車体と同じくフレンドリーさに溢れている」と中野さん。挟角65度の水冷V型4気筒エンジンは、最高出力217hpという量産スーパーバイクとしては最高峰レベルのパワーを発揮するが、かといって手に負えないじゃじゃ馬というわけではない。
「コーナーの立ち上がりでスロットルを開けたときに、『ああ、これはマッピングに相当気を遣って開発したんだろうなあ……』と伝わってきます。この日は、トラックモードでの走行。他メーカーのバイクだと、サーキット向けのモードにしたときにドンつきなどの症状が出ることもありますが、RSV4は非常に開けやすいです。
その扱いやすさのおかげで、意図せず前輪がリフトしてしまうようなこともなく、最大217hpという巨大な力を適切に使えるイメージ。一方で、電子制御のセッティングによりエンジンブレーキを少なめにしておけば、ちょっと2ストロークに近いフィーリングもあります。エジンブレーキが邪魔にならず高い旋回性をうまく引き出せます」
最新型RSV4には、最新世代のAPRC(アプリリア・パフォーマンス・ライド・コントロール)が導入されている。APRCとは、数々の電子制御システムを統合した緻密なパワーユニットコントロールのこと。
これに新規追加されたAEBによりエンジンブレーキの調整ができるようになった。もちろんAPRCにはトラクションコントロールのATCも含まれていて、左手側の+-スイッチにより簡単に介入度を調整できる。中野さんはこの日、一貫して「2」にセットして走行していた。
「コーナーの立ち上がりで時々リアが流れるようなシーンもありましたが、基本的にはトラコンが介入したかどうかもわからないほど緻密な作動。こういう部分も、乗りやすさに大きく貢献していると思います」
どこまでも、最新型RSV4ファクトリーを高評価する中野さん。そこで最後に、ネガに感じる部分を聞いてみたのだが、その回答すらも最後は誉め言葉になってしまった。「敢えて挙げるなら、若干個性が少ないのかな、とは思います。だって、ひたすら乗りやすいですから……。
そういう意味では、僕らがアプリリアとか欧州のスーパースポーツに思い描いてきたイメージとはちょっと違うかもしれません。抜群にまとまりがよく、極めてフレンドリーで、その結果として速い。もちろんRS-GPは完全に別物ですが、RSV4に乗ると、MotoGPでアプリリアが活躍しているのも納得できる気がしてきます」
APRILIA RSV4 Factory
- エンジン:水冷4ストローク V型4気筒 DOHC4バルブ
- 総排気量:1099cc
- ボア×ストローク:81×53.3mm
- 圧縮比:13.6:1
- 最高出力:217hp/13000rpm
- 最大トルク:125Nm/10500rpm
- 全長×全幅:2055×735
- シート高:845mm
- 車両重量:202kg
- 燃料タンク容量:17.9L
- 価格:316万8000円