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BMW S 1000 RR|電子制御を感じず210hpを体感できる

スペインで開催された新型S 1000 RRの試乗会。高い空力性能を獲得したウイングレットと、革新的な電子デバイスは、はたしてライディングにどのような恩恵をもたらすのか?ジャーナリストであり、レース経験も豊富な鈴木大五郎さんが検証する!

走る悦びをサポートする、秀逸の電子制御システム

’09年に登場したS 1000 RR。前のフルモデルチェンジから4年。近年のサイクルからすれば、かなり早いタイミングでの刷新であるが、その内容は地味ながら着実にアップデートされていた。 

まず目に付くのはフロントフェアリングに装着されたウイングレットであろう。MotoGPではお馴染みとなったこのデバイスは、スーパーバイクのベースモデルとなる公道用マシンにも次々と採用されている。BMWにおいては、スーパーバイクのホモロゲーションモデル、M 1000 RRにすでに装着済みだが、S 1000 RRに装着されたものはそれとは異なるデザインになっている。また、’23年型M 1000 RRはさらにレースシーンにおける改良が進められたようだ。 

新旧のM1000RRとも異なる専用ウイングレットは300km/hで17.6kgのダウンフォースを発生。最高速付近でもハンドリングに重さは感じられなかった
新旧のM 1000 RRとも異なる専用ウイングレットは300km/hで17.6kgのダウンフォースを発生。最高速付近でもハンドリングに重さは感じられなかった

多くのライダーにとってはデザイン面でのアクセント程度になるのかもしれないが、ハイスピード域では当然その効果が重要になってくる。およそ300km/hの最高速付近では、約17kgのダウンフォースを発生するという。当然これは従来モデルに羽を装着しただけでなく、フロントフェアリング全てがトータルでデザインされており、スクリーンも形状変更することでパフォーマンスに結びつけているという。

メインフレームも改良され、剛性バランスが最適化されている。具体的には横剛性を少し落とすという最近のトレンドに準じたものだが、そこは以前のフルモデルチェンジの際にも従来モデルから大きく改良された点でもあり、そのアジャストがさらに繊細になっているのが分かる。また、サーキット走行用にピボット位置が調整できるように変更された。これはM 1000 RRから転用された部分である(’23年型のMモデルではさらにアップグレードされているようだが)。 

エンジンは基本的に従来型を踏襲しているものの、細かいモディファイと同時に吸入効率を上げ、3hpアップの210hpを絞り出す。さらに目に見えない電子制御のアップデートが数多く施されている。 

基本的には前モデルを踏襲するエンジンだが、細かい改良に加え新型エアボックスの採用により、3hpアップの210hpに到達。底なしに淀みなく加速していく圧巻のパワフルさを得た。クラッチカバー等はブラックアウトされた
基本的には前モデルを踏襲するエンジンだが、細かい改良に加え新型エアボックスの採用により、3hpアップの210hpに到達。底なしに淀みなく加速していく圧巻のパワフルさを得た。クラッチカバー等はブラックアウトされた

さて、今回の試乗会はスペイン・アルメリアサーキットで行われた。

BMWにはさまざまな仕様違いが存在することが多く、日本仕様がどのようになるのかは現時点では不明だが、試乗車はホイールをカーボン製に換装し、Mステップを装着。保安部品を取り外し、ブリヂストン製スリックタイヤを履いた、よりスポーツ性の高い状態で用意されていた。 

ライディングモードはレイン、ロード、スポーツ、ダイナミックのほか、レースモードではさらに細かく3つのモードが設定可能。3つの設定を独自に作り、ボタン操作で簡単に入れ替えられるようにエンジニアにセットしてもらった。

試乗車はオプションのステップに換装され、逆シフトへの変更も簡単にできた。スイングアームピボットは、M1000RRにも装備されている調整式を採用する
試乗車はオプションのステップに換装され、逆シフトへの変更も簡単にできた。スイングアームピボットは、M1000RRにも装備されている調整式を採用する
ノーマルのアルミホイールのほか、鍛造アルミホイール、カーボンホイールもオプションで設定。カーボンホイールはノーマルに対しマイナス1700gとなる
ノーマルのアルミホイールのほか、鍛造アルミホイール、カーボンホイールもオプションで設定。カーボンホイールはノーマルに対しマイナス1700gとなる
左スイッチボックス横にあるジョグダイアルとボタンで、表示を変えるとともに各種設定を変更できる。レースプロモードでは細かい設定が可能で、それを3パターン保存することができる
左スイッチボックス横にあるジョグダイアルとボタンで、表示を変えるとともに各種設定を変更できる。レースプロモードでは細かい設定が可能で、それを3パターン保存することができる

コースに飛び出しまず感じたのは、直列4気筒らしいスムーズなパワーデリバリーだ。可変バルブタイミング機構とシフトカムにより、低回転域からしっかりとトルクを伴って回ってくれる。そして9000rpmを超えるとハイカムに切り替わり、14600rpmまで淀みなく回転が上昇していく。 

1周約4kmのアルメリアサーキットではストレートを除き、ほぼ2速で走行するのだが、そのパワーバンドの広さにも驚かされる。3速で走らせても十分トルクフルではあるのだけれど、グリップ力の高いスリックタイヤの恩恵もあり、高回転域でのマシン操作をしっかり許容する。 

アップデートされたトラクションコントロールは、これまでの6軸IMUに加え、ステアリングの舵角センサーも用い、より細かい制御を行っている。マシンによっては制御が介入することをライダーに感知させるようなものもあるが、これは非常にスムーズでそれに気が付かないほど。介入度をもっとも下げればスリックタイヤといえどもスライドが始まるのだが、自分でコントロールしているのかどうか分からないほど、自然なフィーリングとなっている。

超高回転域では、スロットルの開閉に対して非常にリニアにマシンが反応する。スリックタイヤの絶対的グリップ力が助けになってくれるのだが、だからといって下りで減速しながらマシンを寝かせるような場面では、リアがすっぽ抜けないかと心配になるほどだ。

量産二輪車としては初採用となるステアリングアングルセンサー。加速および減速時の、スライドによるステアリングの切れ角を検知し、6軸IMUと連動してより細かい制御に結びつける
量産二輪車としては初採用となるステアリングアングルセンサー。加速および減速時の、スライドによるステアリングの切れ角を検知し、6軸IMUと連動してより細かい制御に結びつける
マルゾッキ製セミアクティブサス(DDC)はライディングモードと連動、または任意で大まかなダンピング設定を選択すると、走行状況に応じて自動調整される
マルゾッキ製セミアクティブサス(DDC)はライディングモードと連動、または任意で大まかなダンピング設定を選択すると、走行状況に応じて自動調整される

強大なバックトルクを逃すデバイスとしてスリッパークラッチがあるが、新型RRはそれに加え、舵角センサーに連動したMSR(エンジン・ドラッグ・コントロール)を装備。これにより、リアタイヤがスリップやホッピングしようとした際、瞬間的にスロットルバルブが開き、グリップを回復させることができる。結果的にエンジンブレーキを強めに設定でき、リアを引っ掛けるようにして高い旋回力を引き出すことが可能となった。また、ABSプロにはスリックタイヤ対応の設定も追加された。超絶グリップの先にある、繊細な領域でのコントロールを支配下においただけでなく、ブレーキングドリフトのサポートも実現したのだ。 

本気で走らせると、とにかく〝凄まじく速い〞ということを思い知らされるマシンだが、同時に、純粋に走りに集中することができるのは、あらゆる面からライダーをサポートしてくれているからであろう。 

しかし、最後の走行でペースを落として走らせたとき、あらためてRRが培ってきた速いだけでない頼もしさを思い出させてくれたのである。 

あらゆるペースで優しいフィーリングとフィードバックがあるS 1000 RR。ライダーの技量に関わらず、純粋に「スポーツライディングを楽しむため」という基本理念はそのままに、さらなる高みに進化したマシンとなっていた。

身長165cmでも走行中に大柄さは感じられないが、停車時の足着き性は良好とは言えず前傾も強め。Uターン等の取りまわしではやや気を使う

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