【SUZUKI V-STROM 800DE】21インチを採用しながら高いオンロード性能
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アドベンチャーバイクの中でもオフロード特性を強めた、フロント21インチホイールのモデルが人気。このフィールドにスズキのVストロームシリーズも参戦するという。ただVストロームの強みはロードスポーツ性能だったはずだが?
オンロードにおいてネガな要素は皆無
昨年のEICMAで、このVストローム800DEが発表された時、「なぜフロント21インチホイール仕様が必要なんだ?」と疑問に思った。
Vストロームシリーズは、アドベンチャーモデルの中でもそのスタンスはちょっと特殊だ。ラインナップは250、650、1050と幅広いが、その多くはオンロード性能重視。主力機種であるVストローム650、1050などは、フロントタイヤに王道の19インチサイズを装着しているものの、車体にはアルミツインスパーフレームなんていう、ロードバイクのようなコンポーネントを採用。
実際、現行の1050の前身であるVストローム1000が登場した際には、「ステルビオ峠最速!」なんてキャッチコピーを掲げていたくらいだ。ちなみにステルビオ峠とはアルプス越えの九十九折れのワインディングであり、Vストロームシリーズはそのくらいロードスポーツ性能重視のイメージが強い。
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それなのに、オフロード性能を重視するアドベンチャーモデルが人気だからといって、21インチモデルを出すのはちょっと違うんじゃないの? なんて思ってしまったのだ。
ところがである。Vストローム800DEをワインディングで走らせて、考えが180度変わった。オンロードの走りがものすごくいいのだ。
一般的にフロント21インチホイールのアドベンチャーモデルは、オンロードの走りにネガティブ要素が出がちだ。オフロード性能を上げるためにはサスペンションもしなやかにしなければならないし、滑りやすいダート路面で踏ん張るためには車体剛性もかなり低く設定する必要がある。これらの要素が、路面のミューが高くて強い応力がかかる舗装路では逆にアダとなって不安定感となる。
ところがこのVストローム800DEは、かなりのハイペースで走っても不安要素が出てこない。しっかりコーナーで攻め込む走りが楽しめたのだ。
新規軸の〝Gモード〞で手軽にスライドを楽しめる
ダート性能強化のために21インチホイールを採用しつつ、ロードスポーツ性能に関してはしっかり作り込んできたVストローム800DE。
開発陣に「なぜフロント21インチなのにここまでオンロード性能を高められたのか?」と聞いた。どうやら秘密は後輪のサイズとタイヤのトレッドパターンにありそうだ。
アドベンチャーモデルで、オフロード性能を上げようとする場合、フロント21インチ化はもちろんだが、リアホイールにも大径の18インチを採用するのが定石だ。ところがVストローム800DEは、あえてオンロードでの走りの軽快性を優先して17インチホイールを採用。トレッドに関しても専用設計とし、市販のダンロップ製トレイルマックス ミクスツアーからパターンを変更。斜め方向のトレッドに関してはオフロード性能をアップのために幅を広げているものの、リアタイヤの縦方向の溝に関しては舗装路での安定性アップを狙って逆に幅を狭めたという。
またワイディングを走らせた印象として非常に絶妙だと思ったのは車体、フレームの剛性感の高さだ。650や1050ほどの高剛性ではないにせよ、かなりロードスポーツ性を意識しているのは明らかだ。このVストローム800DEには同じエンジンとメインフレームを使用する、GSX-8Sという兄弟車がある。こちらは前後17インチホイールの純然たるロードスポーツモデルであるが、メインフレームがまったく一緒だというのも十分納得できる。
さて、こうなると気になるのはオフロード性能である。ロードセクションでのスポーティな走行に耐える高剛性な車体は、滑りやすいダートセクションでは硬すぎて踏ん張りが効かないというのは、至極単純なバイクの法則と知られているからだ。
ダートを走り出せば、確かにフレームはちょっと硬めに感じる。タイヤのキャラクターがオンロード性能重視なこともあり、テールがアウト側に流れやすい特性だ。特にトラクションコントロールをカットすれば、スロットル操作ひとつでリアタイヤが空転し、加速状態からスロットルを全閉にしたような場合には、リアの振り出し具合がものすごく大きい。
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こんなことを書くと「乗れたもんじゃない」と思われるかもしれないがそれは違う。車体の荷重バランスが良いからだろう、少々リアタイヤが暴れようと、ものすごくコントローラブルで怖くないから、むしろそんな挙動を楽しめるのだ。
秘密はやはり新開発のパラレルツインエンジンである。そもそもの話をすれば、Vストローム650と1050には90度Vツインエンジンが搭載されているが、このVストローム800DEはその系譜に乗らず、敢えて新作の270度クランクのパラレルツインをチョイスしている。
通常、オフロード走行時に一番怖いのはフロントからのスリップダウンだ。リアタイヤは少々空転しようがロックしようがどうにかなるが、フロントタイヤが滑ってしまうと途端にコントロールが効かなくなる。そこでとにかくフロントに荷重をかけてタイヤを路面に押し付けておきたいわけだが、パラレルツインエンジンは前後長が短いおかげでよりフロントタイヤを車体へ寄せることが可能になる。フロント荷重を稼げる上にスイングアームを伸ばせて車体をコントロールしやすくなるのだ。
スズキはこのパラレルツインエンジンにさらに工夫を加えた。バランサーのウエイト配置をエンジンの前後ではなく、前と下に振り分けて前後長をコンパクト化。これは「スズキクロスバランサー」という特許技術だそうだが、ダートを走ってみると、このエンジンのコンパクト化によるフロント荷重アップの効用が十分に感じ取れる。だからこそ、少々テールが流れようがなんだろうが、笑顔で走らせていられるのである。 またこの車体に組み合わされるトラクションコントロールも非常に秀逸だった。オンロード用の1〜3のモードに加え、〝Gモード〞という新しい制御アルゴリズムを採用しているのだ。
この「GG」とはグラベルのことで、未舗装路専用というわけだが、多少のスリップは許容する制御を行う。このページのメインカットは「Gモード」でスロットルをガバッと開けているところなのだが、トラクションコントロールが介入しながらも、この程度のリアタイヤの空転、スライドは許容するというわけである。おかげでスロットルが開けやすく、ものすごくスライドコントロールがしやすく感じる。
スライドしやすい剛性高めの車体に、スライド制御を程よく行うGGモードを搭載。スズキはなかなか面白い発想を、新作アドベンチャーモデルに持ち込んだというわけだ
SUZUKI V-STROM 800DE
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


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SPECIFICATIONS
エンジン | 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ |
総排気量 | 776cc |
ボア×ストローク | 84.0×70.0mm |
圧縮比 | 12.8:1 |
最高出力 | 84ps/8500rpm |
最大トルク | 7.9kgf・m/6800rpm |
変速機 | 6速 |
クラッチ | 湿式多板セルフサーボ・スリッパークラッチ |
フレーム | スチールパイプ |
キャスター /トレール | 28°/114mm |
サスペンション:F | SHOWA製フルアジャスタブル倒立フォーク |
:R | SHOWA製フルアジャスタブルモノショック |
ブレーキ:F | ニッシン製フローティングキャリパー+φ310mmダブルディスク |
:R | ニッシン製フローティングキャリパー+シングルディスク |
タイヤサイズ:F | 90/90-21 |
:R | 150/70 R17 |
ホイールベース | 1570mm |
シート高 | 855mm |
車両重量 | 230kg |
燃料タンク容量 | 20L |