SUZUKI GSX-8S|原田哲也インプレッション【忠実な操作感】
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完全新設計エンジンを搭載したスズキのミドルロードスポーツが、3月下旬に日本市場にも投入されたアドベンチャーモデルのVストローム800DEと同時開発されたGSX-8Sは、スズキのミドルレンジを補完して幅広いユーザー層を狙う戦略的モデルだ。ツーリングシーンも想定しながら、原田哲也さんがサーキットでその実力を確かめた。
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PHOTO/H.ORIHARA TEXT/T.TAMIYA 取材協力/スズキ TEL0120-402-253 https://www1.suzuki.co.jp/motor/
立ち上がりのトラクション性能が抜群の操縦性と絶大な安心感に
スズキが昨秋のEICMA(ミラノショー)で世界初公開したGSX-8Sは、完全新設計の775cc水冷直列2気筒エンジンを鋼管製ダイヤモンドフレームに搭載した、シャープなルックスのミドルスポーツネイキッドだ。同時発表されたアドベンチャーモデルのVストローム800DEと、エンジンやフレームの基本構成を共有する一方、多くの部品が専用化されている。
スズキは現在、998cc水冷直列4気筒エンジンのGSX-S1000と645cc水冷VツインエンジンのSV650/Xを展開するが、GSX-8Sはこの間を埋めるモデル。また、最新排ガス規制に適合せず昨年に生産終了となったGSX-S750の後継という立ち位置でもある。
749cc水冷直列4気筒エンジンを搭載して112psを発揮するS750と比べて、8Sの最高出力は32ps減の80psにとどまるが、逆に8Sの車重は202kgで、S750より10kgも軽い。
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A/B/Cモードから選べるドライブセレクター、3段階+オフに調整できるトラクションコントロールシステム、シフトアップ&ダウンの双方向に対応するクイックシフトシステムは標準装備。とはいえ、前後サスペンションはベーシックグレードで調整機構はリア側の7段階プリロードアジャスターのみ採用するなど、装備は基本的にシンプルだ。
それでも、じっくり試乗してピットに戻ってきた元WGPライダーの原田哲也さんは、満足げな表情。ヘルメットを脱ぐなり、「これ、意外と楽しいよ!」と発言した。
「まず気に入ったのは、トラクションのかかり方。スロットルを開けたときにリアの状態がわかりやすく、ツインエンジンの特性を活かしながらギュッと前に押し進みます」
今回は筑波サーキット・コース1000での試乗だったが、その中でもヘアピンのような低速コーナーで、とくにその感覚を得られるという。
「立ち上がりで最初にトラクションをかけ、そこから車体を起こしてしっかり加速させるという一連の操作がしやすいバイク。エンジンのフィーリングとリアサスやスイングアームの動きが、とてもリンクしている感覚があり、とても好みです」
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原田さんは、それぞれ3段階ずつあるドライブモードとトラクションコントロールも入念にテスト。ただし介入が多い3や2にセットしておくと、サーキット走行ではかなり早めにトラクションコントロールが効いてしまうようだ。
「でも、トラクションコントロールの介入そのものは、とても自然な感じ。メーターを見ていると、ずっとインジケーターが点滅しているのですが、だからと言って昔のバイクみたいにいきなり加速しないなんてことはありません。介入はしているんだけど加速もしてくれる、非常にナチュラルな制御です。クラスや車両価格を考えたら、これは評価してあげたい点でしょう」
ドライブモードはA/B/Cが用意されているが、いずれのモードも最高出力は変わらない。Aモードはスロットル開度が小〜中で最も鋭いスロットルレスポンス、Bモードは中間までの開度でレスポンスがややマイルドな特性、Cモードはより大きな開度までレスポンスがマイルドになるよう味つけされている。
そして原田さんは、ドライブモードとトラクションコントロールの設定を、次のように推奨している。
「サーキットで中上級者が乗るなら、Aモードでまったく問題なし。前述したように、トラクションが分かりやすく安心してスロットルを開けていけることもあるし、そもそもそれほどパワーやトルクがあるわけではないので、難しさはありません。トラクションコントロールは、1にセットした状態でメーターを確認してみると、それほど頻繁に介入しているわけではないので、それならオフに……とも思いますが、サーキットでも想定外のことが起こるかもしれないし、介入したときもナチュラルに加速していくから、念のため1にセットしておくのがいいように思います」
また、そもそものエンジン性能についても、「十分に加速するし、広い回転域を使えるエンジン」と、原田さんは高評価を与える。
「ツインエンジンで低中回転域トルクがあるから、サーキットでもけっこう低めの回転域を使えます。それでいて、高回転も気持ちよく伸びます。公道走行だけでなくサーキットでも、経験が少ないライダーだったら、4気筒よりこういうエンジンのほうが走りやすいと思いますよ」
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車体に関して、原田さんがまず評価したのは、「ハンドリングの素直さ」と「車体の軽さ」。実際の車重も、同排気量帯の4気筒と比べて軽いが、「走りのフィーリングも軽快で、多くのライダーが扱いやすいと感じるはず」という。
「そもそも、サイドスタンドを払って車体を直立させるだけでも、軽さを感じます。こういうバイクが家にあれば、頻繁に『乗ろう!』という気持ちになります。リッターバイクは確かに所有欲を満たしてくれますが、引っ張り出すのが億劫で……なんてことも少なくないはず。それに対してこの8Sは、スリムで軽く、まさにちょうどいい車格です」
原田さんは今回、公道でのツーリングを想定したテストも実施。「実際の走行環境とは違うけど」と前置きしながらも、「ツーリングユースでの楽しさも十分」と評価する。
「エンジンは、ツインのわりに振動が少ない印象。先ほども触れましたが、低中回転域トルクがあって扱いやすく、トラクションもかけやすいので、ワインディングでも安心して走れそうです。サーキットでペースを上げると、もう少しリアサスペンションに踏ん張ってほしいなどの欲も生まれますが、公道ならこのままでまったく問題ありません。エンジンのパワーだって、公道で使うならもうこのくらいあれば十分!」
一方でサーキット走行では、「事前に想像していたよりもはるかにいいバイク」なだけに、さらなる欲も生まれてくるようだ。
「バンクさせやすいこともあり、ステップは比較的早めに接地しますね。中上級者がサーキットで乗るなら、社外品のステップを導入したいところです。あと、タイヤをもう少しスポーティなものに換装したいとも思いますが、そうすると今度は前後サスペンションが負けてくるかも……。
現状でとてもいい感じにバランスしているので、あまり崩すようなことをしないほうが無難かもしれませんね」
さすがに、原田さんクラスがサーキットを〝攻める〞と、「リアサスペンションが入りすぎる印象」というが、〝スポーツ走行〞を楽しむレベルであれば、「現状でも十分」という。そもそも、8Sはサーキットでの速さを追求するバイクではない。適度なスポーツ性を持つロードスターとしては、満足できるポテンシャルを持っているということだろう。
「正直、細部にはコストダウンの跡も垣間見えます。だからこそ、走りもたいしたことないのでは……と予想していたら、これが大間違い。驚くほどバランスがよく、楽しく乗れるバイクです。聞いたところによると、生産遅延で納車まで時間がかかるとのことですが、こんなにいいバイクなんだから、早く多くのライダーに届いてほしいです。ライパの先導車に8Sが用意してあったら、間違いなくインストラクター陣が取り合いをすると思いますよ」
SUZUKI GSX-8S
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
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
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SPECIFICATIONS
- エンジン:水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ
- 総排気量:775cc
- ボア×ストローク:84.0mm×70.0mm
- 最高出力:80ps/8500rpm
- 最大トルク:7.7kgf・m/6800rpm
- 変速機:6段
- クラッチ:湿式多板
- フレーム:ダイヤモンド
- キャスター/トレール:25°/104mm
- サスペンション
- F=KYB製倒立フロントフォーク
- R=KYB製リンク式モノショック
- ブレーキ
- F=ニッシン製4ピストンラジアルマウントキャリパー+φ310mmダブルディスク
- R=ニッシン製1ピストンピンスライドキャリパー+φ240mmシングルディスク
- タイヤサイズ
- F=120/70ZR17
- R=180/55ZR17
- 全長×全高×全幅:2115×775×1105mm
- ホイールベース:1465mm
- シート高:810mm
- 車両重量:202kg
- 燃料タンク容量:14L
- 価格:106万7000円