【HONDA CL250】小気味よいサウンドとトルク。250ccと侮るなかれ
スクランブラースタイルを取り入れたCL250。初登場以来5年連続で軽二輪クラスのトップセラーに輝いてきたレブル250をベースに、より気軽に乗れてフレキシブルに使い倒せるようなモデルに仕上げられている。エントリーライダーを意識したこのバイクは、ベテランにも伝わる楽しさも秘めていた。
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA 取材協力/本田技研工業 70120-086819 https://www.honda.co.jp/motor/
バイクが持つ本質的な楽しさを気軽に体感
そもそも「スクランブラー」とは、本格的なオフロードバイクやモトクロッサーなどが存在していなかった’50〜’60年代に、未舗装路で実施されるレースで使われていたバイクを指していた。
現在のモトクロスに相当するオフロードでのスプリントレースは、横一線でスタートする様子から「スクランブルレース」と当時は呼ばれていて、オンロードバイクをベースにマフラーやタイヤなどを換装する最低限のカスタムが施されたマシンが使われていた。これこそがスクランブラーのルーツというわけだ。
その後、スクランブラーは市販車にも発展。’60年代には各社がラインナップに加えたのだが、その中でも力を入れていたメーカーのひとつがホンダ。’62年にはドリームCL72スクランブラーというモデルを新発売し、’70年の段階でこのCLシリーズは50〜450㏄まで、じつに9車種が市販されていた。
’70年代になると、よりオフロード走行性能を追求したトレールバイクが登場したことでスクランブラーカテゴリーは一気に縮小。’90年代以降は、ネオクラシック系モデルのモチーフとして使われてきた。ホンダも、’98年に原付一種のベンリィCL50、翌年にはあくまでもロードスポーツ車として397㏄空冷単気筒のCL400を発売。しかしいずれも短命に終わった。
それから20年以上が経過し、ホンダは再び〝CL〞の車名を復活させた。それこそが、今年5月に発売が開始されたCL250/500だ。今回、このうち249㏄水冷単気筒エンジンを搭載したCL250に試乗する機会を得た。なお、CL500はCL250と基本部が共通化された車体を採用するが、エンジンは排気量471㏄の水冷直列2気筒となっている。
新型CL250の開発ベースは、’18年の新発売以来5年連続で軽二輪クラスのトップセラーとなってきた、クルーザーのレブル250。鋼管製フレームの前半部分はそのまま流用されていて、もちろん外装類は燃料タンクやシートを含めて専用化されているのだが(灯火類などはほぼ共用)、スタイリングから得る印象はかなり〝レブル寄り〞である。
しかし実車にまたがった瞬間から、レブルの雰囲気は消え去る。まず何より着座位置が高く、それだけでクルーザーとは完全に異なるバイクだと認識できた。シート高はレブルと比べて100mmアップの790mm。シートサイドが内腿、ステップバーがふくらはぎと干渉しやすいことから、身長167cm/体重66㎏の筆者だと両足を着こうとしたときにカカトがやや浮く……と書けばネガティブな意見と捉えられるかもしれないが、初心者に迎合し過ぎることなく、足着き性よりも走行時の適正なライディングポジションを優先して設計されている感じがあり好印象だ。
ちなみに純正アクセサリーには、シート高が約30mmアップとなる「フラットシート」が設定されているのだが、身長165cm程度のライダーでもこちらの使用がかなりオススメ。座面がフラットで着座位置の自由度がさらに高く、スリムな形状なので内腿との干渉も減り、実際の足着き性は30mmという数値からイメージするほどの差がない。しかも価格は1万2540円とかなりリーズナブル。クッションの厚みが増すことから快適性向上にもつながる。
とはいえノーマルシートでも着座位置はレブルより高めで、アップライトでややワイドなハンドルグリップ位置との組み合わせにより、跨がるだけで〝自由〞なフィーリング。そしてエンジンを始動すると、意外なほど歯切れがよく勇ましさのある排気音が伝わってきた。これは、マフラーの内部構造や位置をはじめ、細かい部分にもこだわりながら施されたサウンドチューニングの結果とのこと。アップマフラーにより排気口から耳までの距離が近くなり、雑味が少ないクリアなサウンドを実現しているため、純正マフラーとしてはかなり納得できる音量と音質だ。
アシスト&スリッパークラッチのおかげでクラッチレバー操作荷重は極めて軽く、指1本でも余裕で操作できる。十分な低速トルクやFI制御のおかげで、何も考えずともスッと発進できる。こんなところも〝自由〞で〝気軽〞な雰囲気だ。
レブル250とほぼ同じ1485mmという長めのホイールベースによる恩恵か、極低速域でも車体はかなり安定してふらつきづらい。加えて、ハンドル切れ角が左右38度ずつ確保されていることから、Uターンなどの小回りも得意だ。この点は、エントリーライダーにも大きな長所のひとつとなるだろう。
前輪が19インチ径ということもあり、ハンドリング特性は前輪17インチのスポーツバイクみたいにフロント荷重でクイックに曲がるような感触ではなく、どちらかと言えばまずペタッと寝て、そのバンク角に応じて旋回力が変化するイメージ。ただし、前輪21インチのアドベンチャー系やオフ車ほど前輪が大回りしていくような印象は強くない。
想像していたよりもバンク角に余裕があり、本来はアドベンチャー向けのダンロップ製タイヤにそれなりの接地感があるため、公道レベルならスポーティな走りも十分楽しめてしまう。前後ブレーキは、ベーシックながらコントローラブル。ABSは前後輪に搭載されていて、制御の信頼性も十分だ。
タコメーターがないため具体的な回転数は不明だが、250㏄ながら低回転域で実用できるトルクを備えている。さらに6速60km/hで気持ちよく巡航でき、振動が非常に少なく快適。一方、中回転域あたりからは振動が増え、シートと触れる内腿などに多く伝わる。ただし、スクランブラーというクラシックな世界観とのマッチングは悪くなく、「演出のひとつ」とさえ思えてくる。
高速道路では、100km/h巡航なら振動がやや多めながら無理している感じはしない。120km/hだと到達に少し時間はかかるが、これも十分に現実的だ。ただし、CL250がもっとも楽しいのは、もう少し低い速度域。そして意外にも、ワインディングが面白い。
CRF250L用のカムシャフトを使い、ドリブンスプロケットを36→37Tと、レブル250よりもショートに振ったパワーユニットは、ピークパワーこそレブルより少ない24㎰だが、キビキビとしたフィーリングをもたらす。とはいえ絶対的な馬力があるわけではないので、躊躇すること無くスロットルをワイドオープンにできる。
前後サスペンションはソフト傾向なので、ハードブレーキングは挙動を乱す要因になりやすいが、適度なペースでバイクに身を任せ、リズミカルにコーナーを駆け抜けるのが心地いい。そしてそのときの速度域はあくまでも平和で、常識の範囲内に収まっている。サスペンションがよく動くとはいえ、車体そのものは安定志向。ナチュラルにリーンして、穏やかに旋回してくれる。肩肘張らず、リラックスして〝自由〞かつ〝気軽〞にスポーティな雰囲気を味わえるというわけだ。
バイクが持つ本質的な楽しさを、エントリーライダーが初めて味わい、あるいはベテランライダーが再確認できる車種として、CL250は十分に機能する。レブル250では遊びの方向性がやや限定的だが、CL250はそれよりも汎用性が高め。現代の新車としては価格もリーズナブルなので、スーパースポーツオーナーのセカンドバイクとしても、今後さらに注目を集めそうだ。
HONDA CL250 SPECIFICATIONS【クリックで開く】
エンジン:水冷4ストローク単気筒DOHC4 バルブ 総排気量:249cc ボア×ストローク:76.0×55.0 圧縮比:10.7:1 最高出力:24ps/8500rpm 最大トルク:2.3kgf・m/6250rpm 変速機:6速 クラッチ:湿式多板コイルスプリング式 フレーム:ダイヤモンド キャスター/トレール:27°/108mm サスペンション:F=正立フォーク サスペンション:R=ツインショック ブレーキ:F=ニッシン製キャリパー+シングルディスク ブレーキ:R=ニッシン製1ポットキャリパー+シングルディスク タイヤサイズ:F==110/80R19 タイヤサイズ:R=150/70R17 全長×全幅×全高:2175×830×1135mm ホイールベース:1485mm シート高:790mm 車両重量:172kg 燃料タンク容量:12L 価格:62万1500円カスタムが楽しくなるアフターパーツも充実!
ホンダは、CL250に適合する純正アクセサリーの開発にもかなり力を入れている。カタログでは、ユーザーの使用環境を想定したクロス/ツアー/ストリート/クロスカントリーという4タイプのカスタムスタイルを提案。
このうちクロススタイル(写真右)とツアースタイル(同左)は、ホンダ純正アクセサリーパーツのみを使用してカスタムされている。クロススタイルはドレスアップパーツ中心でアウトドアテイストを高め、ツアースタイルは積載性や旅の快適性を増すアイテムを多数配している。