【アプリリア RS660 & トゥオーノ660】原田哲也×中野真矢スペシャルトークツーリング
ふたりがバイクを走らせる。そこに吹くのは、ヨーロッパの風だ。かつてはサーキットを舞台に、超高速で風を切り裂いていたふたり。今は房総半島をゆるやかに、伸びやかに走りながら、語り合う。レースのこと、バイクのことを、思いのままに、ためらいなく。イタリアンメーカーのアプリリアの2台を満喫しながら、原田哲也さんと中野真矢さんのツーリングは、ひたすらに楽しく、心地いい。
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/G.TAKAHASHI
取材協力/ピアッジオグループジャパン TEL03-3454-8880
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僕たちのレース、僕たちのバイク
一定の距離を置きながら、ふたりは並んで走る。つかず、離れず。追わず、焦らず。のんびりとした初冬ツーリングのワンシーンだが、どことなく緊張感が漂っているようだ。
どんなに脱力しても殺気を消しきれない剣の達人のように、バイクを走らせるふたりからは独特のオーラが立ち昇るのだ。
前をゆくのは、中野真矢さんだ。世界GP250㏄クラス、500㏄クラス、そしてMotoGPクラスで活躍し、スーパーバイク世界選手権(SBK)ではアプリリアRSV4を走らせた。
後に着くのは、原田哲也さん。ヤマハを駆り世界GP250㏄クラスでチャンピオンを獲得すると、5シーズンをアプリリアで過ごした。
年齢は、原田さんが7歳年上だ。中野さんは、原田さんらの世代の背中を追い、世界をめざした。現役を退き時間を経った今もなお、中野さんは原田さんへの敬意を隠さない。
ゆったりとしたペースで笑顔も絶えないツーリングだが、そこはかとなく緊張感が漂っているのは、だからなのかもしれない。
原田 中野はバイク乗るのがうまいねえ(笑)。
中野 やめてください(笑)。っていうか、哲也さんも前を走ってくださいよ。ミラーにずっと哲也さんが映ってるんって、緊張しますよ。
原田 あははは、そんなことないでしょう。優しい先輩なんだから。
中野 優しい……ですけども(笑)、とにかく偉大すぎて、こうして一緒にツーリングできるなんて夢のようですよ。
僕は子供の頃に哲也さんや岡田さんたちが世界で活躍する姿を見てましたが、憧れるどころか、自分がそこに行けるなんて思ってもいませんでしたから。
原田 その感覚は分かるなあ。オレも自分がいつか世界に行けるなんて思ってなかったし、若井くん(編註・故若井伸之さん)に誘われなければ、行こうとも思わなかったよ。
中野 ですよね!? ポケバイとかミニバイクをやってた頃の自分には、グランプリなんてあまりにも遠いんですよ。まさか自分が世界で戦うようなんて、想像すらできなかった。
哲也さんは同じSP忠男レーシングチーム出身だからダイレクトに先輩だけど、世界チャンピオンを獲って、その後はヨーロッパメーカーであるアプリリアのファクトリーライダーですからね。 当時のアプリリアのGPチームって、どんな雰囲気だったんですか?
原田 レース好きの集まりって感じだったね。もちろんみんな社員だったりするんだけど、レースを心の底から愛していて、朝から晩までレースにどっぷり、という人たちばかりだったよ。パーツもいち早く開発して、すぐに実戦投入する。あの情熱とスピード感は本当にすごかった。 今、MotoGPを戦っているアプリリアはもっとシステマチックになってると思うけど、根っこの部分は何も変わってないんじゃないかな。
中野は’09年のSBKをアプリリアで走ったよね。電話もらったのを覚えてるよ。
中野 「アプリリアに行くことになりました」っていう報告の電話をかけました(笑)。あの時も緊張したなぁ……。
アプリリアと言えば、とにかく哲也さんや坂田さん(編註・坂田和人さん。世界GP125㏄でアプリリアを駆り、2度チャンピオンを獲得)のイメージが強かった。そんなところに自分が行って大丈夫かなって心配でした。
原田 そもそも、なんであの時アプリリアに行くことにしたの?
中野 MotoGPにシートがなくなってしまい、「もうレースを辞めるしかないかな」というタイミングで、アプリリアのSBKファクトリーチームが声をかけてくれたんです。ちょうどRSV4が登場したばかりで、「開発に力を貸してほしい」って。
自分が求められているってことが、素直にうれしかったですよね。契約書にサインしたらサッとシャンパンが出てきて、カッコよかった(笑)。
原田 さすが、そういうところがヨーロッパの文化なんだよね。
中野 そういえばRSV4のポジション合わせをする時、日本人の僕は手が小さくてレバーに手が届かなかったんです。
そうしたら「大丈夫だ、アプリリアにはテツヤの時の型があるから、すぐ対応できるよ」って。恐れ多いと言うかなんと言うか、すごい話だなって思いましたよ(笑)。
原田 ほら〜、やっぱり優しい先輩でしょ(笑)。
中野 残念ながらアプリリアからのSBK参戦はケガの影響でうまく行かず、僕はほとんど何も貢献できなかったのが心残りです。
でも、アプリリアがMotoGPに復帰してからの日本GPで、広報の方がステージに呼んでくれたんですよ。そういうの、うれしいですよね。
原田 レーシングライダーを本当に大事にするからね、アプリリアは。 オレが現役の頃にはジジ(編註・ジジ・ダッリーニャ。現在はドゥカティ・MotoGPのゼネラルマネージャーを務めている)がアプリリアのチーフエンジニアだったんだけど、今でも「ウチに遊びに来いよ」と招待されるんだよ。
中野 これまた、すごい話ですね(笑)。
RS660とトゥオーノ660ファクトリーで房総半島をツーリングするふたり。かつて彼らにとってバイクは戦う道具だった。今は人生に喜びと楽しみを授けてくれる大切な「相棒」だ。
中野 今回ツーリングしている2台、RS660エクストリーマとトゥオーノ660ファクトリーは、同じ660㏄直列2気筒エンジンを積んだ、いわば兄弟車。哲也さんはどんな印象を持っていますか?
原田 これはどっちのモデルにも言えることだけど、これぐらいの排気量とパワーがちょうどいいよ。過不足なくて、軽やかで、取りまわしもラクだしね(笑)。
中野 そこはかなり重要ですよね。ストレスがなくて、気持ちよく付き合えるバイクだな、と思いました。
原田 おおっ、いいこと言うね。うまいのはライディングだけじゃないんだな(笑)。
まさにその通り。オレは毎日でもバイクに乗りたいから、ストレスのなさをかなり重視するんだ。パワーがありすぎると公道では使い切れないストレスが溜まるし、重いバイクは出し入れでストレスが溜まる。その点この2台は、パワーも重さもちょうどよくて、ストレスを感じにくい。そこがすごくイイな。
中野 フルカウル&セパレートハンドルで前傾姿勢がキツそうなRS660も、意外とツーリングに対応できるポジションですよね。全然つらくありませんでした。
原田 オレも中野も元GPライダーってことで、何かと飛ばすと誤解されがちだよね。「公道はゆっくり走ってますよ」と言っても「ウソでしょう?」と信じてもらえない(笑)。
でも、今日もそうだけど、オレたちは先が分からない公道では飛ばさないよね。好きなバイクで事故に遭うのはイヤだし、ずっとバイクに乗り続けたいしさ。
公道では660㏄ぐらいがちょうどいいと思う。飛ばさなくてもバイクらしい走りが楽しめる。
中野 2気筒らしいトルク感も十分に味わえますしね。ギアとスピードが合った時は本当に気持ちよく走れます。
逆に、パワーが有り余っているわけではない分、ギアとスピードをうまく合わせるワザが身に付くかもしれない。
原田 おおっ、またいいこと言ったね(笑)。実はそこがすごく重要だと思ってるんだ。今のビッグバイクは、速すぎて扱い切れない。でも、誰でもポッと買って乗れてしまう。
でもオレはやっぱりステップアップしていった方がいいと思う。できれば小型、中型、大型の順で、大型もこういう660㏄ぐらいのバイクから慣れることが安全に長く乗るコツじゃないかな。オレたちだってポケバイ、ミニバイク、そしてロードレースとステップアップしたしね。
中野 RSもトゥオーノも、見た目こそアグレッシブだけど、すごく扱いやすいですしね。 僕らレース育ちの人間としては、こういうアグレッシブなルックスのバイクがたくさん走ってくれるとうれしい(笑)。
アプリリアって、量産車にも必ずどこかにレース要素を入れてくるメーカーっていう印象があるんです。この2台で言えば、カラーリングがまさにそうですよね。僕はカッコいいと思うなぁ。
原田 むしろ、カッコいいブランドであるためにレースをやってそう(笑)。レース活動に誇りを持ってる。これはもう、メーカーのDNAだよね。
中野 それにしても、哲也さんとツーリングしてるなんて、いまだに信じられないですよ(笑)。
原田 まだ言う?(笑)でもさ、こうしてお互いにレースを引退してからもバイクを楽しめるって、本当に幸せなことだよね。
中野 現役時代、風は敵でした。切り裂くことしか考えなかった。でも今は、バイクに乗りながら感じる風が本当に気持ちいいんです。
原田 おおっ、またいいこと言った。バイクもうまければ、表現もうまい。さすがだね(笑)。中野 次にツーリング行く時は、哲也さんが前を走ってくださいよ!
RS 660 Extrema:最速125ccバイクの名を冠した特別仕様モデル
Tuono 660 Factory
RS 660 Extrema | Tuono 660 Factory | |
エンジン | 水冷4ストローク直列2 気筒DOHC4 バルブ | ← |
総排気量 | 659cc | ← |
ボア×ストローク | 81×63.93mm | ← |
圧縮比 | 13.5:1 | ← |
最高出力 | 100ps/10500rpm | ← |
最大トルク | 6.83kgf・m/8500rpm | ← |
変速機 | 6段 アプリリアクイックシフト(AQS) アップ&ダウンシステム | ← |
フレーム | ダブルビームアルミ製フレーム | ← |
クラッチ | 機械式スリッパーシステム付湿式多板クラッチ | ← |
サスペンションF | φ41mmKYB製リバウンド・スプリングプリロードアジャスタブルテレスコピック倒立フォーク | φ41mmKYB製フルアジャスタブルテレスコピック倒立フォーク |
R | フルアジャスタブルモノショックリバウンド・スプリングプリロードアジャスタブルモノショック | リバウンド・スプリングプリロードアジャスタブルモノショック |
ブレーキF | φ320mmダブルディスク+ブレンボ製対向4ポットラジアルマウントキャリパー | ← |
R | φ220mmシングルディスク+ブレンボ製対向2ポットキャリパー | ← |
タイヤサイズF | 120/70ZR17 | ← |
R | 180/55ZR17 | ← |
全長×全幅 | 1995×745mm | 1995×805mm |
ホイールベース | 1370mm | ← |
シート高 | 820mm | ← |
車両重 | 180kg | 181kg |
燃料タンク容量 | 15L | ← |
価格 | 181万5000円 | 156万2000円 |