走る現代アート VYRUS Alyen
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これはもはや、モーターサイクルの枠を超えた芸術の一種。存在だけで絶大な価値をエンスージアストたちに主張する。しかしそれは、ミュージアムに飾られた展示物ではない。中野真矢さんが、2280万円の芸術とサーキットで対峙した。
PHOTO/S.MAYUMI, H.ORIHARA TEXT/T.TAMIYA
取材協力/モトコルセ TEL046-220-1711 https://vyrusjapan.com/
イージーではないが対話により従順化できる
鬼才エンジニアのアスカニオ・ロドリゴさんが率いるヴァイルス。同社が開発してきたマシンに共通するのは、ハイパフォーマンスエンジンをオメガフレームに搭載し、ハブセンターステアリング機構を持つ点だ。
’20年に世界限定20台の市販車として発表された988エイリアンは、その特徴を踏襲しながら、あまりにアーティスティックな造形を持つ。
ロドリゴさんは、’11年にエイリアン開発プロジェクトを日本人デザイナーの五十嵐豊さんと立ち上げ、9年間で57タイプものボディワークを検証。ハブセンターステアリングの可能性と、この機構が持つ独特な造形美を生かした車体デ生み出されたのが、そのザインを追求した。そして名のとおり地球外生命体のようにも見える、美しくて異質な988エイリアンだ。
生産は世界で20台のみ。このうち日本入荷は4台で、すでに完売となっている。ベース車両の価格はなんと2280万円。外装や細部のカラーリングは、ほぼフルオーダーが可能である。
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デザインにおける特徴のひとつは、〝頭部〞だ。ヘッドライトが埋め込まれたアッパーフェアリングはボディから突き出ており、真横から見るとヌッと首を伸ばしているように見える。これこそが、988エイリアンに生物のようなイメージを与える意匠である。
日本では3台目の納車となるこの車両のオーナーである梅田祥太朗さんは、「初めて存在を知ったのは、東京モーターサイクルショーで日本初公開されたとき。はっきり言って意味が分からない。だからこそ乗ってみたいと思いました」と振り返る。
梅田さんからのオーダーで、車体色にはパールオレンジを採用。「オーダーするためにヴァイルス本社を訪ねたとき、アスカニオさんが『じつは、オレンジが合うに違いないと妻に話していたんだよ』とおっしゃってくれました」とのこと。
988エイリアンは超高価だが、梅田さんは「バイクなんだから乗らなければ意味がない」と話す。
そんなオーナーさんの車両だからこそ、今回特別に、元MotoGPライダーの中野真矢さんによるサーキット試乗も快諾していただいた。普通は乗れる機会がまず得られないバイクだからこそ、せめてその乗り味を少しでも共有するべく、中野さんによるインプレッションをお伝えする。「まずポジションは独特。シートが高くて前荷重が強いので、最初は少し戸惑います。でも座るべき位置を見つけてからはリアが使えるようになり、操縦性が高まりました。ライポジはモタード的だけど、ロード乗りをした方がうまく走らせられる……というようなイメージです」
ペースを上げずに走らせている段階なら、「パワーがものスゴいスーパーバイクという雰囲気で、意外なほど普通に走れます」と中野さん。ただし、サーキットでハイペースになってくると、ハブセンターステアリングの特徴が違和感にもつながるようだ。
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「テレスコピックと違ってコーナー進入時のブレーキングでピッチングがないので、リズムが掴みづらい傾向。一方で、中高速コーナーでフルバンクしたときの安定感は素晴らしく、路面に張り付くような好印象を得ました。燃料タンクがデザイン優先の設計なのに加え、制動力そのものが非常に高いので、ブレーキング時にライダーが身体をどうホールドするかも課題。結果的に、進入でマシンを軽く〝逆に振る〞ことで、リズムが掴みやすくなりました」
エンジンはドゥカティの1299スーパークアドロ。「ベースのポテンシャルは高く、熟成も進んでいるエンジンなので、FIセッティングなどに細かい煮詰めは必要を感じましたが、パワーを含めて申し分はありません」と中野さんは評価する。
モトコルセの近藤代表によれば、アスカニオさん曰く988エイリアンは〝既存の概念のスポーツバイクではない〞とのこと。彼がイメージしたライフスタイルは、〝朝、お気に入りのバールへ乗り付けて、自分の夢が形となった愛車を眺めながらカプチーノとクロワッサンを味わう〞というものだそうだ。
「サーキットを速く走らせようとしたら、はっきり言ってイージーではありません。でも、ファーストインプレッションで判断してしまうのは間違い。デザインがそうであるように、走りも既存の一般的なモーターサイクルとは大きく異なり、理解を深めるのに時間は必要です。
その点を含めて、ライダーを楽しませてくれる乗り物です。子どもの頃に夢描いた、ヒーローが乗るようなカタチのバイクで、膝を擦りながら走れるなんて、もうそれだけで至福の時間でした!」
VYRUS 988 Alyen






エンジン | ドゥカティ製水冷4ストロークL型2気筒4バルブ |
総排気量 | 1285cc |
エンジンマネージメント | モーテック製M130 ECU |
ボア×ストローク | 116×70.8mm |
最高出力 | 205ps/10500rpm |
変速機 | 6速 |
クラッチ | 湿式多板 |
フレーム | マグネシウムダブルオメガとコンポジットボディの組み合わせ |
キャスター /トレール | 17~25°/84~112mm |
サスペンションF | プッシュロッドツインピボットバイラス |
R= | プッシュロッドツインピボットバイラス |
タイヤサイズF= | 120/70ZR17 |
R= | 200/60ZR17 |
軸間距離 | 1480mm |
燃料タンク容量 | 11L |
本体価格 | 2280万円 |