【モトグッツィ V100マンデッロ】ブランニューながら基本性能は秀逸
創業100周年を迎えたモト・グッツィが“次の100年”を見据え開発したV100マンデッロは、グッツィの伝統と現代的な技術が融合され、市販二輪車初の機構も備えたスポーツツアラーだ。ついに水冷化した新世代エンジンを積むこのモデルを、中野真矢さんがテイスティング!
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA
取材協力/ピアッジオグループジャパン
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クランク縦置きVツインは水冷化されても味わいは濃厚、ライダーの感性を刺激する
‘21年に創業100周年を迎えたイタリアのモト・グッツィが、この先100年の歴史を構築する基盤となるブランニューモデルとして、同年秋に発表したのがV100マンデッロ。車名のうち「100」は、グッツィの伝統に倣って1042㏄という排気量を示しているだけでなく、100年という意味も込められている。またマンデッロとは、イタリアにあるマンデッロ・デル・ラーリオ本社工場に由来する。
自由な発想によりスポーツとツーリングに求められる機能が集約されたこのモデルで、まず注目すべきはエンジンだ。’66年型V7以来グッツィの伝統となってきた、クランク縦置き90度Vツインとシャフトドライブという基本構成は踏襲しているが、グッツィの市販車では初の水冷、なおかつDOHC4バルブとなった。シリンダーの向きは90度回転され、吸気はVバンクの間、排気は車体両サイドに。クラッチは、これまでの乾式単板から湿式多板となった。さらにクランクシャフトは従来型と逆回転となり、スロットルを空吹かしすると車体がぐらりと傾くトルクリアクションも従来とは逆の左方向に。シャフトドライブもこれまでとは反対の左側にレイアウトされるなど、完全新設計となっている。
また、電子制御スロットルとマレリ製ECU、6軸IMUを核として現代的な電子制御も導入。コーナリングABSやトラクションコントロール、エンジンブレーキコントロール、上級版のS仕様はオーリンズ製セミアクティブサスペンションやクイックシフターまで搭載している。
極めつけは、市販二輪車では世界初となるアダプティブ・エアロダイナミクスの採用。燃料タンク側面の電動ディフレクターが設定速度に達すると開き(常時オンやオフにも設定可能)、電動調整式スクリーンの効果と併せてライダーにかかる走行風圧を最大で22%軽減するという。
そのディフレクターの効果について、試乗を担当した元MotoGPライダーの中野真矢さんは、「今回はストレートが短いサーキットでのテストだったので速度域が低く、旋回操作のために身体をつい動かしてしまうため、開閉による差はほとんど体感できず……」と残念がったが、とはいえ「スポーツカーの可変ウイングみたいで、ギミックとしては最高のカッコよさ!」と絶賛した。そして、「電動ディフレクターの効果を抜きにしても、V100マンデッロはとてもいいバイク」と話す。
「乗りやすいし、バイクとしての基本性能が秀逸。エンジンを含めて完全新設計されたバイクとは思えない熟成感さえあります」
中でも中野さんがとくに注目したのは、やはりグッツィの〝顔〞であるクランク縦置きVツインだ。
「まず、とてもスムーズ。それでいてやや低めの回転域でもパワー感があり、スロットルを開けたときに、『ドドドドッ……』としっかり前に進んでくれます。さらに、鼓動感もたっぷり。しかも、それが振動というネガティブなイメージにならないんです。だから、スロットルを開けるのが快感。試乗しながら、今すぐにでもこれに乗ってツーリングに行きたいと思っていました」
さらにこのエンジン、公道で多用する低中回転域が気持ちいいだけではない。中野さんは、隠し持つ高回転域でのスポーツ性にも高評価だ。
「低中回転域が力強いので、ここだけで終わりかな……と思っていると、高回転域まで引っ張っても、スムーズなフィーリングのまま伸びていきます。レブリミッターの設定が素晴らしいのか、敢えてレッドゾーンまで引っ張ったときにバツンと回転が止まらず、不快感や不自然さのないオーバーレブ特性。Vツインの優れたトラクション性能により、コーナーの立ち上がりではとても気持ちよくスロットルを開けられるのに加えて、パンチもあり意外と速い。高回転の特性も好感触で、サーキットですら楽しめてしまうバイクです」
ちなみに中野さん、あまりの気持ちよさから、撮影中にジーンズでヒザを擦りそうになる場面も……。マンデッロの優れた運動性能をアグレッシブな走りで証明していた。
「このバイクでサーキットを攻める人はかなり少ないと思いますが、フルバンクに近い領域でスロットルの微調整をすると、従来型エンジンよりは大きく削減されたとはいえトルクリアクションの影響なのか、やや車体がふらつくような感触もありました。でも、グッツィならそれすらも個性として許せてしまうのがスゴいところです」
電子制御システムも積極的に取り入れ、かなり現代的なパッケージとなったV100マンデッロだが、往年のファンが求める〝味〞という要素は、パワーユニットを中心としてまだ十分に残されている。
「そして最初に触れたように、バイクに求められる基本性能に優れているという点も魅力です。例えば、クラッチの切れやつながりは良好で、前後ブレーキは十分なストッピングパワーを備えながらも制動力の立ち上がりが穏やかでコントローラブル。ABSの介入も自然です。スクリーンを一番高くすると顔にあたる走行風はかなり削減されるし、そのときに嫌な乱気流も感じません。そういう細かい部分が煮詰められているから、パッと乗ったときに違和感がまるでないし、だからこそエンジンが持つ気持ちよさを純粋に堪能できるのだと思います」
そして中野さんは、試乗の最後にこう付け加えた。
「流行や速さを追い求めすぎておらず、走らせれば味わい深くて官能的。どこかレトロで個性あるスタイリングも好みです。〝今年乗ったベストバイク〞の最有力候補に、早くも出会ってしまったかも……」
MOTO GUZZI V100 Mandello
上級版のV100マンデッロSは電子制御サスペンションやクイックシフターも!
緑×銀または黒×灰の専用色が与えられた“S”仕様は、オーリンズ製のスマートEC2.0セミアクティブサス、クイックシフター、グリップヒーター、メーターとスマートフォンをBluetooth接続できるMIAシステムも装備。標準仕様と同じく、クルーズコントロールやシート下のUSB電源ポートも採用している
エンジン | 水冷4ストローク V型2気筒DOHC4 バルブ |
総排気量 | 1042cc |
ボア×ストローク | 96×72mm |
最高出力 | 115hp/8700rpm |
最大トルク | 105Nm/6750rpm |
変速機 | 6速 |
クラッチ | 湿式多板 |
フレーム | チューブラースチールフレーム |
サスペンションF | Φ41mm倒立フォーク(オーリンズ製Φ43mmスマートEC2.0セミアクティブ倒立フォーク) |
R | モノショック(オーリンズ製スマートEC2.0セミアクティブモノショック) |
ブレーキF | Φ 320mmダブルディスク+ブレンボ製対向4ポットラジアルキャリパー |
R | Φ 280mmシングルディスク+ブレンボ製2ポットフローティングキャリパー |
タイヤサイズF | 120/70-R17 |
R | 190/55-R17 |
全長×全幅 | 2125×835mm |
ホイールベース | 1475mm |
シート高 | 815mm |
車両重量 | 233kg |
燃料タンク容量 | 17L |
価格 | 220万円~(264万円) |