自動車高調整機能を新搭載!|BMW R 1300 GS
世界中のアドベンチャーバイクにとってベンチマークとなり続けてきた“GS”が、11年ぶりのフルモデルチェンジにより’24年型で衝撃的な進化を遂げた。新しい外観に戸惑いはあるものの、乗ればそんなことはどうでもよくなる。R 1300 GSはそれほどまでに刺激的で、ライダーを虜にするスポーツツアラーだった。
二輪メディアを中心に活動するフリーライター。’10 年に南アフリカで開催されたインターナショナルGSトロフィーにメディア枠で参加。サーキットも走るがオフロードも好きだ
PHOTO/H.ORIHARA TEXT/T.TAMIYA
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BMWのR-GSシリーズは、ビッグアドベンチャーの頂点に君臨し続ける絶対的王者であり、このカテゴリーにおけるベンチマークとなり続けてきた。’22年の世界市場でBMWの二輪部門は約20万台を販売したが、そのうち約6万台がR1250GS/アドベンチャー。つまり3割がR-GSの計算だ。
そんなBMWモトラッドの大黒柱が、’24年型でR1300GSに進化した。’80年のR80G/Sから40年以上の歴史を持つR-GS。’13年型で伝統のボクサーエンジンが部分水冷化されたR1200GSとなり、’19年型からはこれをベースに吸気バルブタイミング&リフト量が可変するシフトカムテクノロジーを導入したR1250GSが展開されてきたので、じつに11年ぶりのフルモデルチェンジということになる。
日本市場ではスタンダード仕様、ツーリング仕様、GSスポーツ仕様の3タイプをラインアップ。この中から今回は、アダプティブ車高制御機構と、ミリ派レーダーを活用したアクティブクルーズコントロール&追突防止ブレーキアシスト&車線変更警告機能などを装備したツーリング仕様に試乗することができた。
初めて対峙したR1300GSの実車は、先代1250よりもだいぶスマートな印象。身長167㎝の私にとって、ビッグアドベンチャーは過度な緊張を生む車種もあるカテゴリーだが、この新型から反射的に拒絶するほどのデカさは感じない。
走り始めてまず感動したのは、ツーリング仕様に標準装備されているアダプティブ車高制御。停車時は前後サスペンションに備わった機構の油圧を抜くことでシート高を30㎜下げ、発進して50㎞/h以上になったら約3秒で上昇、25㎞/h以下に減速したら約1・5秒で再びシート高を下げるシステムだ。これにより、良好な足着き性と走行時の理想的な車体バランスが両立されている。
この〝30㎜〞というのが、身長170㎝以下のライダーにとってはとても大きな差で、例えば私の場合、オート車高調整機能をオフにした状態(シート高850㎜)だと両足のつま先が辛うじて着く程度だが、作動時(同820㎜)なら母趾球あたりまでが地面を捉える。その違いが、大きな安心感につながるのだ。
ちなみに、走行中の車高変化にはほぼ気づけない。足裏を地面に擦るように走るとか、車高のことだけに意識を全集中していると変化を感じられる場合もあるが、とにかく動きが自然で、いつの間にかアジャストしてくれている。感謝感激!
さて、この日はワインディングを中心に走り、倒木や落ち葉などが散乱する非常に狭い舗装林道にも踏み込んだが、走行性能ではR1300GSの軽快性と扱いやすさにとにかく驚かされた。車重は先代比12㎏減との発表だが、これはスタンダード仕様の数値。アダプティブ車高制御機構付きの場合、日本での国土交通省届出値は258㎏となっており、先代の256㎏という同届出値よりも重い。どの仕様で比べるかにもよるが、少なくともツーリング仕様の場合は、先代より大幅に軽いということはなさそうだ。また、スイングアームは先代より30㎜伸長され、エンジンの前後長短縮である程度は相殺されているとはいえホイールベースも10㎜伸びている。
そうでありながら、押し引きしただけで軽いと感じる。さらに乗れば圧倒的に新型のほうが軽快で、ヒラヒラとリーンする。前輪17インチのオンロードスポーツほどグイグイ旋回していくわけではないのだが、かといって前輪が大回りするような印象は皆無で、ビッグネイキッドに近いフィーリング。「これ、オンロードタイヤに換装すれば、ライディングパーティでサーキットも走れるのでは?」と思ってしまうほどだ。
完全水冷となり排気量も増したエンジンは、マフラーから勇ましいボクサーサウンドを奏でながら鋭いレスポンスを発揮。先代と比べて低中回転域に力強さがあり、シフトカムが切り替わる高回転域では、さらに刺激的な加速を披露する。
日本仕様は全車がライディングモードプロを標準装備しており、7タイプの走行モードに切り替えられ、ダイナミックを選択すると、かなりアグレッシブな乗り味に豹変する。1〜2速でラフにスロットルを開けると、簡単にフロントタイヤを浮き上がらせようとする。基本的には、電子制御満載でブレーキも新採用のフルインテグラル(前後どちらを操作しても連動)となっているなど、過保護なくらいライダー支援機構が充実しているが、モード次第で超過激な性格に変貌するのだ。
充実の電子制御でもうひとつ忘れてはならない存在が、R1250RTなども採用するミリ波レーダーを使用した前車追従型クルーズコントロールのACC(アクティブクルーズコントロール)に加えて搭載された、BMWモトラッドでは初となる前車衝突警告機能のFCW(フロントコリジョンワーニング)。これは、メーターでの警告に加え、メニューでブレーキアシストをオンにしておけば、システムが危険と判断したときに軽くブレーキをかけて知らせてくれる機構だ。クルマの自動ブレーキとは違い急制動で完全に衝突回避を試みるわけではないが、だからこそ転倒のリスクは少ない。試乗時はタイトな山道で道路側壁などに過敏に反応し、警告が表示されることもあったが、任意でオフにできるので、なんら問題には感じなかった。
新型GSの素晴らしい進化はまだまだあるのだが、紙幅に限りがあるので最後にもうひとつ、ウインドプロテクション性能が極めて高いことに触れておきたい。ツーリング仕様は電動調整式スクリーンを装備しているが、これを一番上にセットすれば、ヘルメットのシールドを開けて100㎞/hで走っても、普通に目を開けていられる。昔から「GSならレインウエアはいらない」なんていう人もいるが、この新型なら本当に雨でも濡れないんじゃないかと思うくらいのプロテクション性能。しかも、これくらい防風効果が高いと後ろから押されるような乱気流が発生してもおかしくないが、それがまるで感じられないのがスゴい!
刺激もあるけどライダーに優しく、伝統も受け継いでいるけど新しさもいっぱい。もちろん、ダートでの扱いやすさも大幅に向上している。
R-GSの圧倒的な地位は、今後もしばらく揺らぐことはなさそうだ。
R 1300 GS GS SPORT
シート高が+20mmの870mmとなるスポーツサスペンションを装備してダート走行性能を向上。エンジンプロテクションバー&ガードや調整式ペダルなどのエンデューロパッケージプロを備え、オフロードタイヤを履く
R 1300 GS TOURING
スタンダード装備に加え、アダプティブ車高制御と、ミリ波レーダーを使ったACCなどの運転支援機構、電動調整式スクリーン、ナビホルダー、パニアケースホルダー&セントラルロックシステムなどを追加してある
R 1300 GS TOURING Option 719 Tramuntana
オプション719トラマンタナ仕様はオプションパーツを装備する
1:アルミ切削のフルードタンクカバー
2:専用ロゴ入りシート
3:ゴールドホイールリム
4:アルミ切削フットレスト&レバー
この他にもアルミ切削プラグカバーやゴールドハンドルバーなども装備
エンジン | 水冷4ストローク水平対向2 |
気筒 | DOHC4 バルブ |
総排気量 | 1300cc |
ボア×ストローク | 106.5×73mm |
圧縮比 | 13.3:1 |
最高出力 | 145ps/7750rpm |
最大トルク | 149Nm/6500rpm |
変速機 | 6速 |
クラッチ | 湿式多板クラッチ、アンチホッピング |
フレーム | スチール製シェル構造&アルミニウムモノコック |
キャスター /トレール | 26.2°/112mm |
サスペンション | F=テレレバー(. 電子制御式フルアジャスタブル) R= パラレバー(. 電子制御式フルアジャスタブル) |
ブレーキ | F=4ポットラジアルキャリパー+φ310mmダブルディスク R=2ポットフローティングキャリパー+φ285mmシングルディスク |
タイヤサイズ | F=120/70 R19 R=170/60 R17 |
全長×全幅 | 2210×1000mm |
ホイールベース | 1520mm |
シート高 | 820~850mm |
車両重量 | ツーリング:258kg STD:250kg GSスポーツ:260kg |
燃料タンク容量 | 約19ℓ |
価格 | ツーリング:318 万5000円~ STD:284 万3000円~ GSスポーツ:297 万1000円 |