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【ドゥカティ ハイパーモタード 698 モノ】スライドにも気負わず挑めるライトウェイトシングル

公道用市販車としては半世紀ぶりとなるドゥカティの単気筒モデルが日本デビュー。中野真矢さんにとっては“庭”のような茂原ツインサーキットで試乗会が開催された。ストリートモデルとして軽快かつ自在な走りを追求したハイパーモタード698モノを、かつてトレーニング用としてモタードレーサーも取り入れていた中野さんが吟味!!

【中野真矢】
元世界GP、SBKライダーで、現在は幅広いメディアで活躍中。現役時代は450ccのモタードレーサーを所有。トレーニングに使用するなど、モタードを乗りこなす難しさも心得ている
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA
取材協力/ドゥカティジャパン 0120-030-292 
https://www.ducati.com/jp/

往年のレーサーを彷彿させる期待の単気筒エンジン

‘24年型で新発売されたハイパーモタード698モノに、「ドカが単気筒!?」と驚いた人も少なくないはず。もちろん僕もそのひとりですが、ドゥカティには半世紀前まで450デスモなどの空冷シングルモデルを生産していた歴史があり、’90年代中頃には水冷単気筒市販レーサーのスーパーモノを手がけたこともあるとのことなので、〝新たな挑戦〞というより〝復帰〞というほうが正しいかもしれません。 

新型ハイパーモタード698モノの659cc水冷単気筒エンジンは、かつて1299パニガーレに搭載されていたV型2気筒の1285㏄スーパークアドロエンジンを参考に、片側バンクを使ったような設計手法。

ただし実際には完全に別物で、116mmのピストン径や燃焼室形状、吸排気バルブを強制開閉するデスモドロミック機構を継承し、チタン製のインテークバルブとスチール製のエキゾーストバルブはそのまま使用しているものの、クランクケースから新造されています。超ショートストロークで、レブリミットはこのクラスのシングルエンジンとしては驚異の12500rpmを誇ります。

クランクケースはアルミ合金製で、肉薄化により軽さと冷却性向上を追求。クラッチとオルタネーター、ヘッドのカバーは鋳造マグネシウム合金製だ。メインフレームは縦方向に楕円の鋼管によるトラス構造

車体は、メインフレームとサブフレームが鋼管製トラス構造で、前後サスペンションはフルアジャスタブル。電子制御も充実しており、4タイプのライディングモードに連動して、パワーモードやABS、トラクションやウイリー、エンジンブレーキの制御が切り替わります。 

ハイパーモタード698モノは、あくまでもストリートモデルとして開発されていますが、日本での試乗会は茂原ツインサーキットが舞台。せっかくの機会なので、アグレッシブに攻めてそのポテンシャルを見極めてみることにしました。

ビッグシングルながら驚異的な扱いやすさ!

まず驚かされたのは、ビッグシングルエンジンなのにスロットルの開け始めが極めてスムーズなことです。いわゆるドンツキは皆無で、パラレルツイン並みにコーナー立ち上がりでスロットルワークしやすい傾向にあります。これにより、サーキットだけでなく一般公道でも、スタートした瞬間から扱いやすさを感じられるのが、この新作単気筒エンジンの大きな魅力です。

レーサー現役時代には4ストローク450ccモトクロッサーをベースにしたスーパーモタードマシンにトレーニングで乗る機会も多かったので、より大排気量のシングルエンジンに試乗前はやや身構えていました。しかし実際は、全域で非常によく手懐けられていてスムーズ。新作エンジンですが、セッティングは完璧に煮詰められていると感じました。

レース用マシンと比べたら穏やかなフィーリングですが、しっかりスロットルを開ければサーキットでも十分に楽しめるパワー感。単気筒なので、12500rpmのトップエンドまで引っ張るよりも、10000rpmあたりを目安にシフトアップしていくのがおいしい印象です。

スペック表によると、最高出力は9750rpmで発生。ちょうどこれを超えたあたりということになります。スタンダードカラー仕様にはオプション、RVE仕様では標準設定されているクイックシフターは非常に優秀で、「えっ?」というくらい短時間でシフトアップできます。

ちなみに、シフトアップのタイミングがやや遅れたとしても大丈夫。このエンジンはオーバーレブ特性にも優れており、唐突な頭打ち感や失速感はないので、慌てずシフトアップ操作が可能です。本格的なスーパーモタードスタイルなので、車体は大柄。

しかも今回の試乗会に用意されていたのは欧州仕様で、ローダウンサスペンションキットを標準装備する日本仕様よりシートが40mm高く、身長167cmの僕が乗るにはちょっと高すぎるようにも感じました。とはいえ車体が非常に軽いので、不安感はありません。

ストリートモタードという立ち位置を意識して、競合モデルと比べてフロント荷重を多めに確保した結果、前後重量配分は48.5%:51.5%の設定とのこと。ただし実際にライディングしてみると、車体は450ccモタードレーサーに近いフィーリングで、ライダーの前後着座位置によってバランスがかなり変化します。

基本的には、軽さを武器に爽快なスポーツライディングが可能。ロードスポーツモデルと同じように扱うこともできますが、唯一異なるのは、フロントサスペンションのストロークが長めなところです。そのため、前輪に絶えず荷重をかけるのが難しく、これが抜けたときには注意が必要。サーキット走行では、フロントタイヤの内圧が上がりすぎると跳ねるような挙動を感じやすい傾向でした。

これはスーパーモタードらしい特性でもあり、ライダーの座る位置などである程度は対処できますが、サーキットを走るのであれば、やや低めのエア圧を一度試してみてもいいかもしれません。

前後ブレーキはブレンボ製でまとめられており、フロントはシングルディスク仕様とはいえ、制動力とコントロール性ともにサーキットでも満足できるレベルです。ブレーキの電子制御にはボッシュ製コーナリングABSが与えられており、こちらはコーナー進入ドリフトを許容するスライド・バイ・ブレーキ機能付き。4段階に調整可能で、レベル2または3を選択することで、進入スライドを許容する制御となります。

恐る恐るこれらのモードを試してみましたが、それほど速度域が高くない今回のコースだと、リアブレーキペダルを強く踏み込むだけで多少のスライドはできるものの、ど派手なアクションを披露する前にスライドがストップ。

レベル1を選択すれば、リアのABSを完全にキャンセルできるので、最後はこちらを選択して楽しく遊ばせてもらいました。いずれにせよ、欧州仕様はとくに車高がかなり高めということもあり、スライドをばっちり決めるにはもうちょっと練習しないと……。

着座位置の高さやフロント荷重のかけづらさなど、スーパーモタード特有の難しさはありますし、レースシーンのようにスライドさせながら走るには当然ながらライダーの技術が必要ですが、基本的な方向性としてはまさに”ファンバイク”。レーサーを知らない人たちからしたら車体は劇的に軽く、ビッグシングルながらエンジンは非常に扱いやすいので、スポーツライディングでは軽快に振り回しながら楽しめます。

そしてもちろん、ドゥカティらしいイタリアンデザインにより、公道ではオシャレに楽しめること間違いなし。ブームが去ってからだいぶ時間が経過したスーパーモタードというカテゴリーですが、ハイパーモタード698モノが持つ魅力によって、大きく見直されるかもしれません。(中野真矢)

ヘッドライトはダブル「C」シェイプのデイタイムランニングライト機能付き。外装には内部着色プラスチック素材が使われている
ヘッドライトはダブル「C」シェイプのデイタイムランニングライト機能付き。外装には内部着色プラスチック素材が使われている
ハンドルバー&ブラケットとステアリングヘッドは黒アルマイトのアルミ製。ブレーキ&クラッチマスターシリンダーはブレンボ製ラジアルポンプLED
ハンドルバー&ブラケットとステアリングヘッドは黒アルマイトのアルミ製。ブレーキ&クラッチマスターシリンダーはブレンボ製ラジアルポンプLED
超コンパクトな3.8インチLCDディスプレイは、黒背景に白文字表示。右上にはカラーLEDのシフトアップインジケーターが埋め込まれている
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上下双方向対応のドゥカティ・クイックシフトは、試乗したスタンダードバージョンではオプション設定で、専用グラフィックのRVE仕様は標準
上下双方向対応のドゥカティ・クイックシフトは、試乗したスタンダードバージョンではオプション設定で、専用グラフィックのRVE仕様は標準
高剛性かつ軽量なストレート形状で鋳造アルミ合金製の両持ち式スイングアームを採用。前後17インチタイヤはピレリ製ディアブロ・ロッソⅣ
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細身でフラットなロングシートを採用。15mmダウンのローシートがオプション設定されている。シート下にはリチウムイオンバッテリーを搭載
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インナーチューブφ45mmの倒立フロントフォークはマルゾッキ製フルアジャスタブル。ブレーキはφ330mmシングルディスク
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ザックス製のフルアジャスタブルリアショックはストロークが長めで、オフロード指向のプログレッシブリンケージと組み合わされる
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