【KTM 1390 SUPER DUKE R EVO】ハイパワー×電脳装備、制御できるモンスターマシン
誕生から30周年のアニバーサリーイヤーを迎え、DUKEの勢いが止まらない。シリーズはもとより、KTMのフラグシップであるSUPER DUKEが、1350ccの強心臓を得て、最新のセミアクティブサスペンSATで武装。新たに1390 SUPER DUKE R EVOの名を受けて登場した。“THE BEAST”は、どう進化を遂げたのか? 中野真矢さんがインプレッション。
KTMの知性的な猛獣がさらに理知的に進化
’21年のKTMのニューモデル、1390スーパーデュークR EVOを目の前にすると、その威容に圧倒される。大きく手を加えられたフロントフェイスが放つアピアランスは凄まじい。小型のLEDライトを縦に2灯配置し、エッジの効いたトリム状のDRLで囲んだヘッドライトまわりは、これまでのバイクデザインの文脈上には見当たらない。
このシリーズ共通のコンセプトワードである 「ザ・ビースト=猛獣」というより、地球外の怪物を思わせる異形ぶり。エキセントリックな形ではあるが、そのセンスには脱帽するしかない。キスカデザインの提案には、驚かされるばかりだ。
これぞスーパーデュークといったボリューミーなシルエットこそ受け継がれてはいるが、ディテールはよりシャープさを増している。また、エクステリアで見逃せないのがエアロダイナミクスへの取り組みだ。ラジエターのシュラウド部分には、新たにウイングレットが装備され、シュラウド自体も空力面での機能が与えられ、車体のリフト抑制を狙った形状となっている。これらは、MotoGPで蓄積した技術がフィードバックされたものだろう。
もちろん、変わったのはスタイルだけではない。KTM市販モデルのトップエンドエンジンLC8 Vツインは、シリンダーボアを2mm拡大し、排気量を49cc増大。高速で上下する直径110mmの2つの巨大なピストンは、従来より10psアップを達成。4気筒スーパースポーツに匹敵する最高出力190psと、145Nmの暴力的なトルクを叩き出す。
フレームをはじめ、シャシーは先代モデルにあたる1290スーパーデュークRをベースにしているが、一部レイアウトを変更する等のアップデートが施されている。見えない部分ではあるが、もちろん電子制御も大きな進化を遂げている。
ラインナップは、コンベンショナルなサスペンションを搭載する1390スーパーデュークRと、セミアクティブサスペンションを採用した1390スーパーデュークR EVOの2モデルだが、日本導入はEVOのみとなる。
今回、日本上陸を果たしたばかりのこの新生ザ・ビーストに、中野真矢さんにライディングしてもらった。「迫力あるルックスですよね。威圧されているみたいです。スーパーデュークは、これまでのモデルにも試乗してきましたが、毎回走り出す前に心構えが必要なんです。見るからに大きいですし、スペックも凄い。気楽には乗れないと感じます」
なんと、中野さんをもってしても、気後れを覚えるという。それでは、一般ライダーには手に負えるはずもないが……。
「ですが跨ってみると、ポジションはイメージするように大きくなく、誰もが親しみやすいネイキッドらしいライディング姿勢です」
少なくとも、ライディングポジションはフレンドリーであるようだ。「走り出せば驚くはず。良い意味で期待を裏切られます。ビックリするくらい乗りやすいですから。歴代モデルでもそう感じましたし、1390スーパーデュークR EVOにも、その美点は受け継がれています」
その秘密は、エンジン特性にあると、中野さんは語る。
「パワーデリバリーが素晴らしくスムーズ。出力の立ち上がり方が人間の感覚とズレがないというか、開けたら開けた分だけ車体が前に出る。ライダーの意思よりも先に出てしまうバイクは、怖さを感じますよね? たしかに、このバイクのエンジンはパワー自体は凄まじいものがありますが、ライダーの意思に忠実にレスポンスする。だから開けていける。タイヤが路面を捉えてからパワーが立ち上がる、トラクションを作るエンジンなんです」
猛獣は猛獣、だが見事なまでに躾けられているということだ。
「ただ、誤解して欲しくないのは、誰もが簡単に乗りこなせるバイクではないということです。190psは舐めてはかかれません。ですが、1390スーパーデュークR EVOのエンジンは、“もっと開けたい”と挑戦する気にさせてくれる、人間の感性にマッチした特性です。これだけのハイパワーにも関わらず、自分には乗りこなせないと諦めてしまうことはないと思いますね。電子制御の助けもありますが、それだけではこの乗り味は得られません。エンジンそのものが持つパワー特性が、ライダーファーストに仕上げられているのだと思います」
評価が高いのは、エンジンのキャラクターだけではない。
「車体の完成度も高い、切り返しの軽さは体感して欲しいですね。見た目の大きさに反し車重は軽いバイクですが、実重量以上に軽快に感じます。装着されているパーツもフラグシップに相応しいものばかり。例えばブレーキ、効きはじめとリリースのフィーリングが抜群にいい。コントロール性の高さが秀逸です」
KTMの旗艦として、文句のつけようのない高性能と完成度を備えているということだ。
「僕が言うと、あまり信じてもらえないんですが、このバイクは本当に乗りやすい。騙されたと思って、一度は走らせてみて欲しいですね。それだけの価値はあります」と、中野さんはかなりの高評価を与えている。
さらに、今回試乗した1390スーパーデュークR EVOのトピックとして、セミアクティブサスペンション第三世代SATにも触れておくべきだろう。
「セミアクティブサスペンションの制御は、かなりハイレベルです。僕は、慣れている通常のサスペンションと違う動きをされると気になってしまいます。“ここで沈み込みが止まるのか”とかですね。このバイクの場合はそれがない。ストリートなら、絶対にSATに任せて走ります。ただ、サーキットでタイムアタックをするといった走り方をするなら、細かい調整を加えたくなります。新しいSATは、そうしたアジャストが全て手元のスイッチ操作だけで可能です。豊富な調整機能は、レースの現場でやっていたことと変わりません。SATに任せて走っても十分以上に速く楽しいですが、是非とも調整機能を活かして、自分専用のサスセッティングを追求してみて欲しいですね」
中野真矢さんのベストセッティングを公開
SATのセッティング機能を試してみた。ライドモードはPerformance、Anti DiveはOffに設定。値は標準が10で、値が高くなるほど強くなる。赤文字は前CASEから変更を加えた箇所だ。CASE:1からCASE:3は、スタンダードの機能範囲で走行し基本特性をチェック。
CASE:4からはオプションのSuspension Pro PackageのPROモードを使用し、セッティングを進め、CASE:10のベストセットが完成。多くのセットを試せたのは、作業がハンドルスイッチ操作のみのSATだからこそ。
ちなみに中野さんの全開セットなので、サーキット走行以外は薦められない。Suspension Pro Packageは、新車から走行1500kmまでは全機能を利用可能、使用してから導入を考えることもできる
エンジン | 水冷4ストロークV型2 気筒DOHC4 バルブ |
総排気量 | 1350cc |
ボア×ストローク | 110x71mm |
圧縮比 | 13.2 |
最高出力 | 190ps/10000rpm |
最大トルク | 145Nm/8000rpm |
変速機 | 6段 |
クラッチ | PASCスリッパークラッチ |
フレーム | クロモリ鋼管製スペースフレーム |
キャスター | 24.7° |
サスペンションF | WP製φ48mm WP APEX セミアクティブサスペンション |
R | WP 製 APEX SAT モノショック |
ブレーキF | φ320mmダブルディスク+ブレンボ製 Stylema4ポットモノブロックラジアルマウントキャリパー |
R | φ240mmシングルディスク+ブレンボ製 2ポットキャリパー |
タイヤサイズF | 120/70ZR17 |
R | 200/55ZR17 |
ホイールベース | 1491mm |
シート高 | 834mm |
車両重量(燃料含まず) | 200kg |
燃料タンク容量 | 17.5L |
価格 | 269万9000円 |