【ハスクバーナー・モーターサイクル スヴァルトピレン 801】シリーズ初の多気筒エンジンを採用
799ccのパラレルツインを搭載したニューモデル、スクランブラースタイルのSvartpilen 801がリリースされた。8月から日本国内でも販売を予定しているこのモデルに、フランスでいち早く試乗。その詳細をお届けする。
PHOTO/HUSQVARVA MOTORCYCLES TEXT/T.KOHNO
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多角的な進化を感じるパフォーマンスと扱いやすさ
スヴァルトピレン801は、前身であるスヴァルトピレン701からすべてが変わったと言っても過言ではない。特にエンジンやシャシーまわりのパフォーマンスは大幅に向上している。しかもその進化の指向は、走行性能だけに偏ってはいない。ライダーが車体に跨がった瞬間、クラッチを繋いだ瞬間に、バイクとの一体感が得られる機械的な扱いやすさ。さらには速度レンジを上げたり、走行回数を重ねるなど、走りの深度を深めたときに感じられる利便性や安全性を提供する電子制御技術など、多岐に渡る。
これら多角的な進化は、ともすれば過保護になり、走る楽しさをスポイルしがちだが、スヴァルトピレン801はすべてが見事にバランスしている。現在、世界の二輪マーケットの中心をなす、スーパースポーツに起源を持たない1000cc以下のスポーツバイクカテゴリーで、スヴァルトピレン801はその存在感を存分に発揮するに違いない。
デザインにおいても、新しいアプローチが随所に見て取れる。高いパフォーマンスのエンジンとシャシー、そして最新のコンポーネントを採用しながら、機能パーツを最小限に抑えてミニマルでクリーンなスタイルを造り上げているのだ。
このデザイン思想は、’14年のEICMAでヴィットピレン401コンセプトを発表したときから掲げられたもので、後に続くヴィットピレン&スヴァルトピレンシリーズに貫かれている。801ではそれがさらに洗練されたというわけだ。
デザイン面でのトピックがもうひとつ。フラットトラッカースタイルだったスヴァルトピレン701に対し、801はスクランブラースタイルを採用したのだ。これは先に発表され、4月から日本での販売がスタートした新型401&250シリーズと同系統のデザインである。全モデルのデザインを共通化することで、より強力なファミリーを形成しようという、ハスクバーナ・モーターサイクルズ(以下、ハスクバーナ)の、販売における戦略が感じられる。
また、新しい車体はあえて大柄に設計されている。具体的には燃料タンクの容量を14Lに拡大。ホイールベースを伸ばし、アルミキャスティングで作られたシートカウル兼リアフレームには、ライダーとパッセンジャーのシートを分割して配置し、面積を広げている。
このデザインにより、スポーツ性を維持しながらも停車時の足着き性を向上。さらには走行中の安定性、ロングライドでの快適性も確保した。「より幅広いキャリアやキャラクターのライダーにアプローチできるバイクを目指した」と、開発陣が言うように、スポーツ性にも扱いやすさにも妥協がない。
試乗の地であるフランス・マルセイユ近郊の道を走りながら、スヴァルトピレン801が狙っている幅広い特性にもっとも貢献しているのは、シリーズ初となる直列2気筒エンジンだと感じた。従来のシリーズは、高回転型の単気筒エンジンがもたらすスリムかつコンパクトな車体と、高い運動性能が大きなセールスポイントとなっていた。それだけにエンジン形式の変更には、ハスクバーナがこのモデルにかける意気込みを感じずにはいられない。
排気量799ccの水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブエンジンは、先に直列2気筒エンジンを搭載したアドベンチャーモデル、ノーデン901と同じく75度位相クランクを採用。これによってリアタイヤが路面を掴むようなトラクションが非常に分かりやすくなっていた。
特に今回の試乗コースのように、気温も路面温度も低いコンディションで荒れた路面の上を走るシチュエーションでは、スロットルを開けた時のトラクション感はとても重要になる。走り出す前は一抹の不安を感じていたが、スタートするとすぐに走りを楽しむことができた。
この馴染みやすいエンジンキャラクターには、バランサーも大きく貢献している。クランクシャフト前側にひとつ、シリンダーヘッド内にある2本のカムシャフトの間にもうひとつのバランサーを配置。これにより振動が少なく、スムーズな回転上昇が得られている。この良好なトラクションと低振動によって、アクセルオン/オフに対する車体の反応が良く、スペック上の重量よりも車体が軽く感じるほどだった。
ライディングモードはレイン/ストリート/スポーツを設定。それぞれ出力特性が異なり、オプションのダイナミックパックを選択すれば、ダイナミックモードが追加され、合計4つのライディングモードが選択できるようになる。
これらのモードからスポーツ性の高いダイナミックかスポーツを選択すれば、アクセル操作に対するエンジンの反応はより一層ダイレクトになり、力強さを増していく。その傾向は3000rpmを越えた回転域から強まり、5000rpm以上になるとさらに加速力を増す。つまり、低中速域からスポーツ性の高さを感じられる設定なのだ。レッドゾーンそのものは9000rpmだが、個人的には低振動と強い加速力をバランスよく感じられる、8000rpm付近を維持しながら走るのがもっとも気持ちが良いと感じた。
重量の面でもこの新型エンジンは大きな役割を果たしている。直列2気筒ながら、クラッチなどを含むエンジン関連パーツを合わせても約50kgと驚くほど軽い。コンパクトな上に前方にレイアウトされているので、アルミ製スイングアームをより長く設計することが可能になっている。
こうした設計思想は、バランスの良い走りを実現するのに欠かせないファクターとなっており、街乗りでもスポーツライディングでも、そのメリットを誰でも実感できるはずだ。
しっかりとセッティングされた前後サスペンションも、良い仕事をしている。前後ともWP製APEXで、フロントは伸側/圧側、リアは伸側の減衰力を5段階で調整可能。さらにリアはプリロード調整もできるようになっている。
これらの調整機構は、シンプルながらもライダーが調整の効果を感じやすくするために厳選されたものだ。実際に今回の試乗でも、ペースや路面状況に合わせてセッティングを変更することで、大きな変化を感じることができた。エンジンのライディングモードと併せてサスペンションをセッティングすれば、スポーツ方向にも快適方向にも、スヴァルトピレン801のキャラクターを変化させられるだろう。
スクランブラーというスタイルには、オンロードとオフロードの中間的なパフォーマンスのイメージがある。しかしスヴァルトピレン801には、そういった曖昧さは感じられなかった。どちらかと言えばアップハンドルが付いたスポーツバイクと言える。それでいて足着きが良く、ライディングポジションもリラックスできる。
この懐の深さ、守備範囲の広さこそが、スヴァルトピレン801の真骨頂だと感じた。
HUSQVARNA MOTORCYCLES Svartpilen 801
SPECIFICATIONS | Svartpilen 801 |
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エンジン | 水冷4ストロークDOHC4 バルブ直列2 気筒 |
総排気量 | 799cc |
ボア×ストローク | 88×65.7mm |
圧縮比 | 12.5:1 |
最高出力 | 77kw(105ps)/9250rpm |
最大トルク | 87Nm/8000rpm |
変速機 | 6段リターン |
クラッチ | PASCアンチホッピングクラッチ |
フレーム | ク ロームモリブデン鋼チューブラーフレーム |
キャスター/トレール | 24.5°/97.9mm |
サスペンションF | WP 製APEXφ43mm倒立フォーク |
R | WP 製APEXモノショック |
ブレーキF | F=J.JUAN製φ300mmダブルディスク+4ピストンラジアルマウントキャリパー |
R | J.JUAN製φ240 mmシングルディスク+1ピストンキャリパー |
タイヤサイズF | 120/70-R17 |
R | 180/55-R17 |
ホイールベース | 1475mm |
シート | 820mm |
車両重量 | 181kg |
燃料タンク容量 | 14L |
価格 | 138万9000円 |