【CBR600RR/Ninja ZX-6R KRT EDITION/GSX-8R】日本のフルカウルミドル それぞれでの生存戦略【Engineパート】
一般ライダーがサーキットでファンライディングを楽しむためのマシンとして、推奨されることも多いのが、ミドルクラスのフルカウルスポーツモデルだ。とはいえそのキャラクターや長所は、車種ごとに広い振り幅があり、異なっている。’24年に新登場、あるいは熟成された3機種に中野真矢さんが乗り、それぞれの魅力を掘り下げる。今回はエンジンについて。
PHOTO/S.MAYUMI TEXT/T.TAMIYA
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日本のマーケットでも選べる車種は増加傾向
公道走行に限定すれば、少なくとも日本では長年にわたり「玄人感」が強めだったのが、排気量600~900㏄のミドルクラスに相当するフルカウルスポーツだ。
しかし近年、二輪車生産・販売のグローバル化や外国車ブランドの台頭、スペック至上主義的な愛車選択をするユーザーの減少などにより、そんなイメージは払拭されつつある。
しかもこのカテゴリーは、’20年にアプリリアがRS660、’22年にはヤマハがYZF-R7を新発売。さらに遡れば’20年夏にホンダがCBR600RRを復活させ、’18年末にカワサキがニンジャZX-6Rを国内新規導入するなど、依然として少数精鋭に近いとはいえ、選べる車種が増加傾向にある。
そして、フルカウル・ミドルの盛況につながるようなメーカーの動きは、現在進行中だ。今年、スズキがこのカテゴリーに再参入してGSX-8Rを新発売。カワサキはZX-6R、ホンダはCBR600RRをマイナーチェンジした。
今回はこの最新3機種を、元MotoGPライダーの中野真矢さんが筑波サーキット・コース1000で徹底テスト。各モデルのキャラクターや長所、フルカウル・ミドルの存在意義などについて、テーマを切り分けながら解説してもらった。
4気筒の2機種は熟成版8Rは最新設計の2気筒
CBR600RRは、初代が’03年型で誕生し、’05年型と’07年型でフルモデルチェンジ。日本仕様は’16年に一度生産を終了した後、大幅刷新が施されて’20年に復活しました。これに加え、数度のマイナーチェンジが施されてきたのですが、599㏄水冷直列4気筒エンジンの基本設計は大きく変わっていません。
しかしそれは、20年前の古臭いエンジンという意味ではありません。僕自身、何度も乗って感じるのは、長年にわたり吸排気系や電気系、構成部品などが見直されてきたエンジンは、まさに熟成の極み。これは、スロットル操作に対する良好な反応をはじめ、乗ると随所に感じられます。なお’20年型以降は、スロットルバイワイヤも採用しています。
’24年型では、121㎰の最高出力を維持しつつ最新排ガス規制に適合化し、シフトアップ&ダウンのクイックシフターを標準装備化。制御の調整が可能なシフターは確実性が高く、操作感も良好です。ちなみにギア比はロングで、タイトコーナーでは1速に落とす場面が多めでした。
ニンジャZX-6Rも同じく水冷直列4気筒ですが、このエンジンは排気量が636㏄。つまり、レースユースを考慮していません。もともと599㏄だったZX-6Rは’95年から続く息の長いモデルで、’02〜’06年型では636㏄と599㏄(ニンジャZX-6RR)を併売。’07年型で再び599㏄に一本化。’13年型からはエンジンをストロークアップし、以降は636㏄で展開されています(レースベース車として先代599㏄を併売)。その後、’19年型でモデルチェンジされ、国内仕様も登場。’24年型でも刷新され、外装デザイン変更や機能充実化などが施されました。
しかし、エンジンの基本設計は長い間変わっておらず、’13年型の排気量拡大以降は環境規制対応を中心とした吸排気系などの変更程度。今回の3機種で唯一、電子制御スロットルを採用しておらず、そのためクイックシフターもアップ側のみです。
599㏄と比べるとトルクには+37㏄分の余裕があるわけですが、その差を明確に体感できるわけではなく、気づくとストレートエンドで速度が伸びているというイメージ。唯一、スロットルオフからの開け始めにリニアなフィーリングが欠けている点が気になりますが、基本的には扱いやすく好印象です。
ギア比はCBR600RRよりもショート(メーター読みでCBR600RRが1速130㎞/h、2速165㎞/hでレブリミットに達するのに対し、ZX-6Rは1速110㎞/h、2速145㎞/h)。タイトコーナーで1速を使う難しさを感じている初中級ライダーにとっては、2速で旋回して余裕のあるトルクで立ち上がるという走りもできるので、公道走行時を含め、長所と感じる人も多いかもしれません。
’24年型として新登場したGSX-8Rは、昨年デビューしたネイキッドのGSX-8Sがベース。GSX-8&Vストローム800シリーズ用に新開発された、775㏄水冷直列2気筒エンジンを搭載しています。
今回の3機種ではGSX-8Rのみがツインで、エンジンのキャラクターは大きく異なります。最大の魅力は、非常に優れたトラクション性能。ちょっとラインを外したときにも、スロットルを開ければリアタイヤのグリップを引き出して旋回に繋げられます。全長約1㎞のコース1000では、他の2機種よりもラップタイムが1秒くらい遅れますが、同じペースでずっと走り続けられる特性です。
比較的リーズナブルな価格設定ながら電子制御スロットルを採用していて、シフトダウンにも対応するクイックシフターも標準装備。しかもこのフィーリングが良好で、確実なタッチで最もミスなくスムーズにシフトチェンジできました。
ギア比はよりショートで(メーター読みで1速88㎞/h、2速121㎞/hが上限)、さらに4気筒とは出力特性が大きく異なるツインエンジン。そのため各コーナーでのギア選びや変速のタイミングは他の2機種とかなり違いますが、これを掴んでからは一番楽しく操れました。