【トライアンフ STREET TRIPLE 765RS】原田哲也&青木宣篤が見た至高のライディングプレジャー
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スポーツライディングの極致を知る男たちが、嬉々としてサーキットを駆けていた。爽やかな笑顔。人とメカニズムが調和する喜び。深みのある上質な納得。そして、再びまたがる。「もっと走りたい」というピュアな思いがあふれ出る。ストリートトリプル765RSが、元グランプリライダーを魅了していた。
PHOTO/S.MAYUMI, H.ORIHARA TEXT/G.TAKAHASHI
取材協力/トライアンフモーターサイクルズジャパン
TEL03-6809-5233 https://www.triumphmotorcycles.jp/
尋常ではないセンサーが鋭敏に感じ取った楽しさ
ふたりの元GPライダーが、踊るようにバイクを走らせていた。楽しげで軽やかな様子に、ヘルメットの中の笑顔が見えてくるようだ。
彼らの操作に忠実に応えることで、心の底から楽しませているのは、トライアンフのミドルスポーツ、ストリートトリプル765RSである。
ふたりの元GPライダー──原田哲也さんと青木宣篤さんは、言うまでもなく「超」が付くほどのエキスパートライダーだ。現役時代の彼らは、常に高いレベルのマシンを求め、それにふさわしい成果を残してきた。
彼らが、時としてわがままとさえ揶揄されるほどに強く要求したのは、「意のままになるマシン」だった。
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ブレーキレバーを握れば握った分だけの制動力が、スロットルを回せば望んだだけのエンジンパワーが、ハンドルを操作すれば狙っただけのバンク角が得られるマシン。「意のまま」を突き詰めたバイクこそが、彼らが武器としたグランプリマシンなのだ。
そういった究極のライディングの世界を知る彼らの、バイクに関するセンサーの鋭敏さは尋常ではない。私たち常人とはまったく別の次元にいる。走りの良しあしを瞬時に見抜き、鋭く判断し、的確に評価する。バイクを降りてから発する言葉は、時に「いい、悪い」「速い、遅い」と、極端にシンプルなことも多い。
その原田さんと青木さんが、ストリートトリプル765RSを降り、ヘルメットを脱いだ瞬間に、「このバイク、楽しいね」と口を揃えた。
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忖度を知らない彼らの言葉は、真実に満ちあふれている。そして「楽しい」という分かりやすい形容詞は、ストリートトリプル765RSにとって最高の褒め言葉だろう。
ストリートトリプルは、’07年のデビュー以来、その名が示す通り街乗りを重視し続けて今に至っている。
街乗りは、シンプルに速さだけを追い求めるレーシングマシンよりも、多くの要件を満たさなければならない。さまざまなスキルのライダーを乗せ、さまざまなコンディションの中を走るのだから、容易ではない。
「あちらを立てればこちらが立たず」といった具合で複雑に入り組んだ要素を噛み合わせながら、最終的に「楽しい」という感想をもたらすストリートバイクは、そう多くない。
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だがストリートトリプル765RSは、確実に原田さんと青木さんのライディングスピリッツを刺激し、沸き立たせ、喜ばせたのだ。
試乗の舞台は、サーキットという限定された場だった。それだけに彼らは、ひたすら高次元なライディングだけに集中できた。そのうえで放った言葉が、「楽しい」だったのだ。
「楽しい」の内訳は何なのか。原田さんと青木さんのインプレッションからは、ストリートトリプル765RSが乗る者を気持ちよく惹きつけていることが伝わってくる。
原田哲也「ずっと走り続けたくなる「ちょうどよさ」の極み」
ストリートトリプル765RSを降りた僕に、コースサイドで撮影していたカメラマンが笑顔で近付いてくる。長くて重いレンズを振り回しながら、彼は興奮気味に叫んだ。
「原田さん、バイク、めちゃくちゃ寝かせてましたね!」
「そりゃあ、そうだろうねえ」と、僕も笑いながら答える。
「だって、本当に楽しかったから」
意外かもしれないが、エキスパートライダーたちは皆、そろって慎重だ。素性の分からないバイクでいきなりハデなライディングをすることはないし、乗り慣れたバイクでさえじっくりとペースを上げ、少しずつバンク角を深めていく。

中でも、僕は特に慎重派かもしれない。もともと僕は「人からどう見られるか」ということを気にするタイプではないし、写真映えにもこだわりがない。だから撮影のためのライディングとはいえ、無理にバイクを寝かせるようなことはしない。
「早寝早起き」がモットーで、バイクを寝かせている時間は短いから、「コーナリングでバイクが深々と寝ているシーン」といったダイナミックな写真を狙うカメラマン泣かせではないかと思う。
その僕が、「倒し込みが鋭くて、『パシャーン!』という音が聞こえてきそうなほどでしたよ。コーナリング中も、今まで見たことがないぐらいよく寝てました」とカメラマンに言われたのだから、よほど珍しい走りだったのだろう。
実際、久しぶりにストリートトリプル765RSに乗り、僕は心からライディングを楽しんでいた。このバイクは、いろいろな意味でちょうどいい。
まず挙げたい「ちょうどよさ」は、エンジンパワーだ。130psという最高出力は、普通の人間が楽しみながら扱い切れるギリギリのスペックではないかと思う。不満も不足も感じないし、本当にちょうどいい。
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いやいや、不満どころか、小椋藍くんがチャンピオンを獲得したMoto2のマシンは、このエンジンがベースになっているのだ。トライアンフのスタッフに聞いたところでは、圧縮比の変更やクラッチまわり、ECUなどわずかなチューニングが施されているだけで、腰下などは共通しているとか。
それでMoto2では300km/hオーバーに達するような素性のエンジンなのだから、不満などあるはずもない。
とはいえ、ストリートトリプル765RSは街乗りのネイキッドで、300㎞/hが出るわけじゃない。正直、このバイクより速いバイクはたくさんある。今どきのリッタースーパースポーツは軒並み200psを超えているのだから、強烈だ。
僕も仕事でそういうバイクに乗るし、ハイパワーの緊張感を味わいたくなる時もある。だが、かなりの気合いと体力を要するのも事実。走り終わればヘトヘトで、しょっちゅう乗りたくなるものではない(笑)。
一方のストリートトリプル765RSは、もっとフランクに付き合える。気負わずに走り出せるし、カッチリとストッパーに当たるまでスロットルを開けられるのは爽快だ。体への負担も少ないから、「もっと走りたい」と前向きな気持ちになれる。
直列3気筒エンジンならではのサウンドを味わう余裕も持てるのだ。直列4気筒に近い高音を感じながらスロットルを開ける気持ちよさには、たまらないものがある。「スポーツライディングって、本当に楽しい!」と思わせてくれるエンジンだ。
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もうひとつのちょうどよさは、軽さだ。まず、車重そのものが188kgと軽く、ハンドル幅が広いネイキッドの恩恵も相まって、取り回しが非常に楽だ。
僕は常々、「いつまでも末永くバイクに乗り続けたい」と言っているのだが、ストリートトリプル765RSのように取り回しが軽いと、日常的に、無理なく、そして素直に「乗りたい」と思える。
ハンドリングも軽やかだ。ここはカメラマンを驚かせた倒し込みに通じるところだが、操作自体が軽い力で行えるし、その操作に対してバイクが軽快に、そしてダイレクトに反応する。小気味よくて楽しいから、気持ちがどんどん高まるのだ。
もう少し詳しく説明すると、ハンドリングは非常にニュートラルだと感じる。僕は主にハンドル操作でバイクを寝かせるのだが、思っただけ寝てくれるし、変に起きてこようともしない。
ちょうどいいエンジンと、ちょうどいい軽快さ。これらが絶妙なバランスでまとめ上げられているのが、ストリートトリプル765RSというバイクだ。
僕なら日常的な街乗り、ツーリング、そしてサーキットでのスポーツ走行まで、幅広い用途に使う。今回はサーキットだけでの試乗だったが、どのシーンでも僕を楽しませてくれることは間違いない。