【BMW/R12】スポーツスターを意識した魅力とBMW独自の完成度
2020年に登場したR18でハーレーダビッドソンへの挑戦を鮮明にしたBMW。今回のR12では、アメリカンバイク文化へのリスペクトを感じさせつつも、BMWらしい技術を詰め込んだ一台に仕上がっています。軽快感と安定感を両立したその走りを、試乗を通じて詳しく解説します
軽快なハンドリングのボクサーツイン
走り出した途端にR12にはいい意味で期待を裏切られた。乗り味に関しては、しっかりBMWらしいフィロソフィを感じられたからだ。
スポーツスターは、ハーレーダビッドソンの中では文字通りスポーツ性の高さにこだわったモデルだ。現代の前後17インチのロードスポーツバイクでいうスポーツ性とはちょっと趣の異なるベクトルで進化したスポーツ性。軽量な車体とフロント19/リア16インチの車体構成からくる軽やかなハンドリングがハーレーダビッドソンのスポーツ性というわけだ。
一方のR12も、フロント19/リア16インチのホイールに細身のタイヤを履くのだから軽快なキャラクターになるのは当然といえば当然なのだが、これが、想像以上に車体の動きがヒラヒラと軽やかなのである。
車名の頭に〝R〞の付く、BMWのボクサーシリーズというと、地面に張り付くような安定感をベースに、車線変更やコーナリングでのロール方向の動きも鷹揚。どちらかというと落ち着きのある動きをする車両が多い。
このR12が属するヘリテイジシリーズは、そもそもとして空冷エンジンであることもあって他の〝R〞シリーズに比べて車重が軽めで動きも軽やか。ただ乗ってみると、その中でもR12の走りの軽快感は群を抜いて際立っている。面白いのは、そんな走りの軽やかさを得た上でしっかりBMWのボクサーツインらしい安定感やクセもしっかり味わえるようになっていることだ。
スターターボタンを押せば、車体を左右にブルンッと揺らすトルクリアクションを伴ってアイドリングがスタート。
ステアリングに関しては、オーソドックスなテレスコピック式のフロントフォークを採用。BMWが得意なテレレバーやデュオレバーのような路面に張り付いて滑空するようなキャラクターではなく、ピッチングモーションもしっかり出る。ただ、それでも低重心かつ、左右に重量物が張り出したボクサーツイン由来の安定感はしっかり感じられるようになっている。
ハンドリングもとても素直で乗りやすい。アメリカン系のモデルによくある低速コーナーでのハンドルの切れ込みもなければ、サスペンションがダイレクト感重視で突き上げが強いなんてこともない。走行性能に関しては、BMWらしく隙のないキャラクターというか、脇の甘さがない。……なんて感じで気持ちよくマシンを寝かし込んでいったらバンクセンサーが予想よりも随分早い段階で路面に接触してしまった。
慌ててステップを確認すれば、なんだかバンクセンサーもちょっと長め。今回の試乗車はアヴス・シルバー・メタリックのカラーで、初回生産限定モデルとしてカスタマイズキットのスタイルオプション719が組み込まれている。ステップはノーマルではなくビレットパーツに置き換わっているのだが、それにしても最大バンク角もかなり浅い。ただ乗っていると前後90㎜とかなり少なめに設定されたホイールトラベルや、この妙に浅めのバンク角ですら開発陣の恣意のように思えてくるから不思議である。
続いてロックンロールなライディングモードを切り替えてみる。〝ROCK〞がパンチの効いた出力特性で、〝ROLL〞はやや穏やかな味付け。それぞれのキャラクターに関しては、兄貴分のR18のような豹変レベルの変化がないのがちょっと残念。まぁ、このあたりは排気量との兼ね合いもあるから一概に良し悪しは語れないが、R12のライディングモードに関しては〝切り替えればしっかりキャラクターの変化は感じられる〞。個人的にはそう思えるような味付けになっていた。
試乗を通じて強く感じたのは、このBMWのR12はやはりハーレーダビッドソンのスポーツスターをオマージュしていることに間違いはなさそうだということ。
ただ、そのうえでしっかりBMWらしく哲学からくる技術を惜しみなく注入。〝似た様なコンセプトでもうちの技術をもってすればここまで仕上げられる〞という、強烈な意思を見せつける一台となっていた。