復活!青木琢磨が最新CBR1000RR SPで駆る!青木3兄弟の絆と特別仕様のマシンを大公開
バイクは決してやめられない 兄弟のサポートを受けて再びバイクで走った下半身不随の元世界GPライダー青木拓磨-3回にわたってお届けする青木琢磨さんの復活劇。最新スーパースポーツCBR1000RRSPを特別仕様にして、再びサーキットを走る、そんな感動的な場面だ。最終回となる今回は、そんな青木琢磨さんを応援する兄弟愛とチーム愛、そして特別仕様のマシンを大公開していく。
こうありたい自分──青木拓磨さんにとって、それはバイクに乗っていることだ バイクで負傷し、バイクに乗れなくなった それでも、やめられない 自分らしく自分でいるために
「きっかけと勇気されあれば誰だってバイクに乗れる」
自分が本当にやりたいと思っていることをやろうとした時、人は誰しも、いくつもの障壁を乗り越えなければならない。 障壁は、自分の外にも、自分の中にもある。拓磨さんの場合は、バイクに乗りたいと思っていても、下半身が動かないハンディキャップと、人に支えてもらうことを申し訳なく思う気持ちの両方が、障壁となった。
下半身が動かない状態でのシフトチェンジは、クリックトロニック社製のアクチュエーターが解決してくれた。そして、支えてもらうことの申し訳なさを和らげてくれたのは、言うまでもなく、兄弟の存在だ。 兄弟とはいえ、もう立派な大人だ。屈託のない子供の頃とは違う。それぞれに世界GPまで昇り詰めたが、お互いの人生を歩む中で、ぶつかり合うこともある。 だが、やはり兄弟にしかできないことがある。支えること、支えられることの難しさをやすやすと越えられるのは、肉親だからこそだ。
「自分はもうバイクには乗れないんだろうな、と決めつけてたところはあるかな」と拓磨さんは言う。「すごく萎縮してた。 誰かの助けがなければできないことだからね。自分のやりたいことで、人に迷惑をかけるのはどうかなって」 青木拓磨がバイクに乗ることを、誰も迷惑などと思わないだろう。だが、現実的に手を差し伸べることは、非常に難しい。特にバイクのようにリスクを背負うスポーツを、気軽に後押しすることはできない。
支えられる側も、支える側も、なかなか前に進めない。その膠着状態を突き崩したのは、「もう1度カッコいいタクちゃんを見たい」という、治親さんの純粋な、そして弟だからこその半ば強引な思いだった。 長兄の宣篤さんも、実働部隊としてアシストをした。そして、弟と兄の思いや動きに、拓磨さんも勇気を持って応えた。
リヤブレーキがなく、下半身ホールドもない状態とは思えないほど、雨の袖ヶ浦で見せた拓磨さんの走りは、力強く、輝いていた。それは、支えられる勇気、支える勇気がひとつになることで実現した、「その人の、本来あるべき姿」だからだ。
雨の袖ヶ浦フォレストレースウェイで走行を終えた拓磨さんは、「よし、今日はこれぐらいにしといてやるか!」とみんなを笑わせた。 しかし、決してただの冗談ではない。今日はここまで。だけど、次はもっと──。「見てろよ」という心の叫びが聞こえてくるようだ。拓磨さんは、もっと先へと、未来に続くスロットルを開けたくなっている。
7月9日、鈴鹿サーキットで行われた8耐公式テストの場で、再び青木三兄弟が揃った。28日、そして29日の8耐レースウィークに、大勢の観客の前で拓磨さんがデモランをする。それに先立っての試走だ。 多くのメディアや関係者が押し寄せ、鈴鹿サーキットに感動の風が吹いた。「想像の300倍ぐらいの反響があったよ!」と宣篤さんは驚いた。 青木三兄弟からすれば、今、あるべき姿になっただけ。そんなに大げさなことじゃない。 「僕ができたんだから、みんなにもできる」。拓磨さんは、本気でそう信じている。決して特別なことじゃない、と。